footballhack: 2010/08

2010年8月30日

マクロつなぎ論3 得点の時間帯

2010南アW杯で、スペイン代表が大会中にあげた得点は、前半に3点、後半に4点、延長戦で1点の合計8点だったそうです。このデータからつなぐチームは後半に点を取るという仮説を実証したかったんですけど、前半に3点とってるんですね。あまり強い根拠にはならないみたいです。ただ、後半の3点と延長戦での1点は、いずれも決勝トーナメントでの得点です。きわどい勝負ではスペインは後半に得点を奪っている、ということは言えると思います。

なにが言いたいかというと、つなぐサッカーでは、試合時間が経過するほど、得点が生まれやすくなるということです。

これはいったい何故でしょう。正直、自分もはっきりとしたことはわかりません。

ひとつ言えるのは、守備側のチームにとって、守り続けることが、時間の経過と共に至難になってくるということです。大体試合の終わり3分の1、90分の試合なら後半15分くらいから、守備側が“ダレて”くるようになります。集中力が切れてくるんですね。

守備陣がダレてくると、何でもないような簡単なクロスから得点が生まれたり、簡単にスルーパスを通されたりします。

個人的な見解ですが、相手に圧倒的なポゼッションを与えて守備に徹するチームにとって、試合終了が近づくにつれて、「自分たちにも攻め手があるかもしれない」という考えが芽生え始め、攻撃に転じることで、守備のバランスを崩してしまうのではないでしょうか。

あるいは、「今まで守りきれてきたんだから、このくらいマークを外しておいても大丈夫だろう」というような、心の隙が生まれるのかもしれません。

気づけば得点を奪われ負けていた、というのが今回W杯でスペインに敗れたチームの思うところかもしれません。

今回のスペインチームの戦い方を評して、「パスワークは素晴らしいが、全体的にゲーム展開がスローテンポで面白くない」とか、「シュートまで時間がかかり過ぎてよくない」とかいう意見が出ているようです。

これらは、スペインチームの意図を全く理解していません。

スペインチームの意図は

パスをつないでゲームを支配し、守備の時間を減らす。そして5分に1本程度の間隔でシュートチャンスを生み出し、相手疲れさせ、得点を奪う。試合をリードしたあともポゼッション率と高めて相手に攻撃のチャンスを与えない


ことだったのです。

シュートやクロスで攻撃を終えれば、相手にプレッシャーを与えられます。攻撃がゴールキックになったりやGKのセーブに阻まれても、「ヤラれてる」感を相手に植えつけることができます。この蓄積によって、DFはなぜか足が棒立ちになる瞬間がやってきます。その時に得点が生まれているのです。

逆に、攻撃がシュートやクロスで終わらなければ、相手に「守りきれてる」感が浸透していきます。「ボールを回させてる」という意識です。こうなったら、相手は集中力を高めるばかりで、ゴールは遠のいていきます。

スペインは攻撃を続け、圧力をかけ続けることを一貫して90分間やり通し、勝ち星を積み上げていきました。また、試合展開によって戦い方を変える必要もないので、監督がピッチ上の選手に混乱を与えるような戦術変更も起こりません。

統計的には、一試合に10本シュートを打てば、そのうちひとつはゴールになることが分かっています。90分間で18本のシュートが打てれば、1点かあるいは2点取ることが可能です。

あとはポゼッションして時間が過ぎるのを待てばいいのです。

なんて、口で言うのは簡単です。大事なのは、チーム全員がこのことをしっかり理解し、得点を奪えなくても焦らず、やってきたことを繰り返すことです。

時間が経過するうちに、相手の方からゴールへの道筋を案内してくれるのですから。

次→マクロつなぎ論 広い面積を使う意識

2010年8月29日

マクロつなぎ論1 DFの集団意識

つなぐという行為は何のために行われるのでしょうか。それはより多くの得点を奪って試合に勝つためです。

では得点を取るためには何が必要でしょうか。それにはより多くの得点機会、シュートのシーンを作ればよいです。

ではシュートのシーンを多く作るにはどうすればよいでしょうか。それには、なるべくゴールに近いところにいる前向きでフリーの選手にボールを渡せばいいでしょう。

では、ゴールに近いところにいる前向きでフリーの選手にボールを渡すには、どうすればいいでしょう。これが大きな問題です。なぜなら相手のDF陣が全力でもって、これを阻止してくるからです。

相手の守備をかいくぐって、シュート機会をつくるには、相手守備陣の集団意識の裏をかいてボールを運ぶ必要があります。

この集団意識とはなにか。これを解き明かすのがこの「マクロつなぎ論」の目的です。

“つなぐ”行為の本質とは、DFの集団意識を逆手にとって、試合の主導権を奪うことにあります。この狙いをチーム全員がしっかりと認識することが、美しいパスサッカーの完成には必要不可欠です。ではその理解すべき本質と狙いを挙げてみましょう。

1 サイドチェンジの目的

2 得点の時間帯

3 広い面積を使う意識

4 DF陣形の収束拡散

5 安定、不安定

6 フィボナッチ数列

次の記事からはこれらについて一つ一つ考えていきます。→サイドチェンジの目的

ミクロつなぎ論3 右から来たら左、左から来たら右

1998年W杯のあとに作成されたテクニカルレポートを受けて、当時のJFA技術委員長だった小野剛さんが書かれた名著「クリエイティブ・サッカーコーチング」のなかで、一貫してキーポイントとなるスキルが紹介されました。それが“ボディシェイプ”という言葉です。

このボディシェイプがトレセン制度とともに広まり、当時の育成年代の指導者、選手ともにサッカーにおいて一番重要なスキルだというような通念が生まれました。

その渦中にあって、僕は必死にボディシェイプの練習をしました。なんのために前を向くかもわからず。。。いや、中田ヒデのようなスルーパスを狙うためにボディシェイプをしていました。全狙いでした。

10年以上たった今、Jで活躍する選手にもそんな気配が感じられます。ボディシェイプから裏を狙ったパスあるいはクサビのパスという速いサッカーが日本人の特徴のようです。

高校に上がって、当時顧問の先生が口を酸っぱくして言っていた言葉があります。

「右から来たら左、左から来たら右!」

そこでようやく僕はボディシェイプの目的を知ったのです。まさに、はっとするような体験でした。

どういうことかというと↓



簡単なことです。横に広くボールを展開しろってことです。

と考えられがちですが、本当に重要なのは、進むすべき方向を知ることなのです。

高校に上がって僕は中盤でよくボールロストするようになりました。ひとつ上のカテゴリーでプレーすると、敵のフィジカルや予測能力が上がり、今までのようにプレーできないことってありますよね。

そこでこの「右から来たら左、左から来たら右」どおりにプレーすると、振り向いた先にかならずフリーの味方がいるのです。周りを見なくても、この方向にプレーすればボールを失わずに攻撃を進められることがわかりました。

フリーの味方がいなくても、2歩1触のドリブルを使うことで、対峙したDFに対して2択を迫り、新たなパスコースを見つけられるのです。

その理由はこうです。相手の守備意識の優先順位はワンサイドカットにあります。ボールホルダーに対してプレッシャーをかけることで、同サイドにボールを戻させたいという意識が働いています。なのでまずは、ボールを受けたら「逆サイドに展開してやる」という気概を見せ付けて、マーカーの心理の逆をとります。マーカーが逆サイド側にポジションを修正したら、また同サイドに向き直ってつなぎ直せばよいのです。

このように、流れに任せてプレーするように心がけてから、ボールを失う機会は減りました。

このプレーはシャビ、シャビアロンソ、バラック、中村ケンゴウ、遠藤など中盤の選手が頻繁に使うプレーです。

方法は、ボールが左から来たら右足で止めて、すかさず左足で右方向に蹴る、というものです。ボールが来るまでに3回ほど首を振って周囲を確認できれば完璧です。

「クリエイティブ・サッカーコーチング」の話に戻りますが、この本の貢献は偉大だと思います。現在の日本サッカーにもこの本の影響が見て取れるという意味では。でも、もはや10年も時は過ぎて日本のサッカー界には新たな段階へ進む時期が来ていると思います。この本を上回る指導指針が早く出されるべきです。というか遅すぎの感は否めません。というか大罪であったとも思います。

フリースタイルなんてぇのが流行する昨今、時代は80年代へと逆戻りしてるのかもしれません。先行き暗きニッポンサッカー。

そろそろスペインサッカーから新しいことを学びましょう。



次→ミクロつなぎ論4 横横縦 縦縦横

マクロつなぎ論2 正しいサイドチェンジ

サイドチェンジの目的って、敵の守備の薄いサイドを突いて、クロスをあげたりドリブル突破することだと思ってませんか。

違います。

サイドチェンジは敵の守備ラインを下げるために行うのです。

まずこれを見てください↓


ビルドアップ時のサイドチェンジの目的は、ゾーンを上げることです。自陣のDFラインで横にボールをつなぎ、反対サイドに着いたらボランチを経由して再びサイドチェンジをしてみてください。はじめよりDFラインが10mは上がっているはずです。

なぜかというと、ゾーンディフェンスの考え方では、ボールサイドの逆サイドを完全に捨てて、ボールが横に動かされてから初めてスライドして逆サイドのケアをするからです。このとき守備陣が全体的に斜め後ろに動きます。逆サイドに振られると、そこからの縦への突破を警戒するからです。

このようにビルドアップ時は、サイドチェンジを2回繰り返すことで、10m以上前進することができます。

では、アタッキングサードでのサイドチェンジの目的はというと、これも敵のDFラインを下げることです。敵陣深くにDFラインを押し込み、最終的にはミドルシュートかクロスのこぼれを狙います

ゆっくりサイドチェンジを繰り返しながら、ペナルティエリアの横のゾーンまでボールを運べば、相手の守備の6人以上がペナルティエリア内にいるという状況を作り出せます。DFと中盤のラインが一緒になるという状態です。

このペナ横のゾーンでドリブルやワンツーで仕掛けながら、ペナルティアークのところにボールを戻せば、抜群のミドルシュートシーンを創造出来ます。

また、このゾーンからボールを真後ろに戻してクロスをあげれば、ゴール前のスクランブル状態を生み出せます。

このゾーンからさらに深くえぐり、ゴールライン際からラストパスが出せれば、さらに決定的なシーンが作れます。

このように、ボール保持率を高める戦い方では、サイドチェンジの重要性とその後の展開を間違えずに認識することが大事になってきます。

サイドチェンジしたら味方の方が数的不利な状況だったとか、サイドチェンジ後に間髪いれずに縦に仕掛けて簡単にボールを失ったりだとか、間違ったサイドチェンジを行うと攻撃が苦しくなるばかりか、守備の時間を増やしてしまいかねません。



次はマクロつなぎ論3 得点の時間帯

ミクロつなぎ論2 縦に突っかけたら横パス

守備者は何を見てボールホルダーの動きを予測するかというと、まずは体の向きです。通常、ボールホルダーは進行方向、つまり顔の正面に向かってプレーします。なので、対峙したDFは普通、ボールホルダーの正面に立つようにポジションをとり、パスやドリブルを防ごうとします。

今回、紹介するテクニックはこのDFの習性を利用したものです

まずは図を見てください↓


ボール保持者は目の前の空いたスペースに向かって、ドリブルをします。すると、前方のDFの注意を引き付けることができます。そしてDFの目前で、体の向きとは直角の方向にパスをします。この方向はたいてい守備側の意識が行き届いていないので、味方にフリーの状態でボールを渡すことができます。

センターバック、ボランチ、サイドバックの選手には必須の技術です。攻撃の選手は仕掛けのドリブルからこのパスができるようにしてください。

このプレーで一番難しいのは、キックです。体の向きとは直角の方向に強いキックをすることは、とても難しいです。腰をひねる方法をとるか、足首で角度を作ってボールとの接触面を調整する必要があります。

このプレーによってDFが収束する動きを見せるので、次に受けた味方の選手が素早くサイドに展開するなどすれば、流れが生まれてきます。

また、パスを出す方向は真横だけではなく、ターンして後ろに戻してもいいです。どちらにしても受けた味方が前向きでフリーになる状況を作れます。

反対に、まっすぐドリブルして、その進行方向と同じ方向にパスを出すとどうなるでしょう。この場合、受けた味方は厳しいプレッシャーを受けるか、パスをカットされる確率が高まります。なぜなら誰もがそのパスコースを読めるからです。



高校時代このプレーを「花火」と言っていました。このプレーの練習方法から名付けられました。GIFアニメです。クリック↓


次→ミクロつなぎ論3 右から来たら左、左から来たら右

2010年8月28日

つなぎ論 番外4 モウリーニョ・マドリー

さて、話は変わりますが、2010/11シーズンの今年、レアル・マドリーの監督にジョゼ・モウリーニョが就任しましたね。優れたインテリジェンスと統率力を持った鬼才は、現在の世界最強クラブといわれるバルセロナにどのように挑むのでしょうか。

僕の個人的なよそうですが、こちらの記事で書いた3番目の方法、つまりサイドバックにボールを出させてからプレッシャーをかける守備法で戦うと思います。

前4人でプレッシャーをかける→サイドバックに出させる→スライドしてそれぞれがぴったりマークにつく→ボランチのところを空けてパスを出させる→奪う

バルサ相手に一番得点の確率が高い攻め方は、ボランチ(ブスケツ)のところでボールを奪ってショートカウンターを仕掛けるということです。彼はクライフが言うところの“ボールを配る人”です。高い守備予測能力とパスの配給力は買いなんですが、プレッシャーのかかる位置ではまだまだ危なっかしいプレーが多く見受けられます。最近はぎりぎりのところをすり抜けたりするプレーも見せますが。

このことに気づいているからペップはセスク獲得に動いたんでしょうかね。代わりにつれてきたマスケラーノもブスケツと同じで、守備とパス配給力がとても高いプレーヤーです。本当はシャビやセスクのようにプレッシャーをかいくぐり局面を打開できる選手をピボーテに据えたいのではないでしょうか。

話はそれましたが、つまりモウリーニョは、バルサのパスサッカーを急所刺しする気概で臨んで来るような気がします。前からプレッシャーをかけてブスケツやシャビからボールを奪うような。

もしマドリーがこの戦い方をしてきたらバルサはどうするべきでしょうか。キーポイントはサイドバックです。サイドバックが起点になるビルドアップの画期的な方法が見つかれば、マドリーのプレッシャーをかいくぐれるでしょう。例えば、50mのロングパスを対角線に放ちサイドチェンジするとか、サイドは捨てて中で受けるとか。あまり現実的ではないですね。。。

個人個人の能力でバルサと拮抗するかあるいは上回ると見られるレアル・マドリーが、この方法でバルサにガチンコ対決を挑んだら、とてもスペクタクルな試合が見られるでしょう。

また、サッカーの歴史は攻撃のモードと守備のモードが交互に塗り替えられてきた歴史でもあります。現在、最強を誇るバルサの攻撃サッカーを上回る守備の理論が今シーズン生まれるのか。クライフのバルサがACミランに敗れたように、ジョゼ・モウリーニョがサッカー界に新たなモードを提示してくれるかもしれません。

今年のエル・クラシコが楽しみです。

次はつなぎ論番外5 バルサの攻撃的守備の仕組み

つなぎ論 番外3 バルサのつなぎを封じるには

バルサのビルドアップの仕組みがわかったところで、今度はバルサと対戦するチームがどのように戦ったらよいのかを考えます。

方法は3つあります。

1 モウリーニョ・インテルや日本代表のようにドン引きしてスペースを与えない

2 マンツーマンでひたすら走りまくる

3 バルサのセンターバックとボランチに厳しく寄せてパスの出所をふさぐ

1の方法はすでに結果がでているように、守備能力の高いDF陣といいGKがいるチームでは有効です。断固たる集中力でもってゴール前を固めて徹底して守り、あとはバルサのシュートが枠の外に外れてくれるのを祈るという方法です。

この方法の問題点は、攻撃の形を作れないので、シュート数が激減することです。よほど能力の高いFWがいるか、バルサの守備陣のミスを頼りにするしか得点の機会はありません。これでも勝てることはあります。“マイアミの奇跡”のように。それを信じて守りきるのみです。

ただ、バルサのポゼッションサッカーは、相手を敵陣に押し込むことで主導権を握り、守備の時間を減らすことが最大の目的です。1の方法は敢えてバルサに主導権を渡してしまうので、いつ失点してもおかしくない時間帯が永遠と続きます。

また、この方法は格下のチームが格上のチームにとる戦略でもあります。組織で守り、判断力や予測力のレベル差を埋める戦い方に持ち込むことで、我慢比べの精神力対決になるのです。

2の方法は頻繁にポジションチェンジするバルサ攻撃陣をマンツーマンでマークしてどこまでも追いかけるという方法です。これをやってるチームは見たことないんですけど。

有効かというと、そうでもない気がします。なぜなら、攻守の切り替えが難しくなるからです。攻撃から守備に転じたときにすぐに自分のマーカーを見つけるのは難しいことですし、守備から攻撃に転じる際も、確実にバルサより切り替えが遅くなります。

また、全員がしっかりマークについていたとしても、お互いのカバーリングが手薄になるので、1対1でドリブルで仕掛けられたら、なし崩し的に守備の網がほつれていくでしょう。

ここまで、デメリットをあげてみましたが、この方法でバルサに挑むチームを一度見てみたい願望にもかられます。

では最後に3の方法です。このやり方は実はパラグアイ代表が2010南アW杯のベスト4を争う戦いで、スペイン代表相手に実践したやり方です。

ビルドアップの始まりであるピケ、プジョール、ブスケツ、アロンソに対してパラグアイの2トップとセントラルMF2人が高い位置を取って4人でプレッシャーをかけます。↓



このときサイドハーフは中に絞ってイニエスタ、シャビへマークに行きます。するとサイドバックの選手ががら空きになります。↓



サイドバックにパスを出させます。この瞬間にスライドをしてワンサイドカットしながらパスコースを限定します。サイドバックからは有効なパスが出てきません↓



サイドバックがボールを持つと、味方のセントラルMFはどうしてもボールを受けに寄ってしまいます。ボールに寄ると守備側としてはマークに付きやすいんですね。ボールとマーク対象が同じ視野に入るし、ボール際の攻防のカバーリングもできます。そうすると、守備側に有利な状況が生まれてきます。

このようにして、パラグアイはスペイン相手にいい試合を展開しました。個人的にはあの試合はパラグアイの勝ち試合だったと思います。先に奪ったPKやスペインの素晴らしいゴールの直前のサンタクルスへのスルーパスなど、パラグアイの得点チャンスは非常に濃密で頻度も多かったと記憶しています。

ただし、このやり方にも弱点があります。プレスをかける位置を高く設定していることです。一度プレスをかわされてしまうと、バイタルエリアを自由に使われてしまいます。そうなったら最後、華々しく散るしかないのです。ちょうどスペインがパラグアイから奪ったゴールのように、流れるようなパスワークで自陣を切り裂かれてしまいます。

勝負の分け目になる要素が、運任せではなく、自分たちの体力と組織的守備を頼りに戦えることが、この戦術のいいところです。

次は→つなぎ論 番外 モウリーニョ・マドリー

考えて走る5 サイドの使い方

今回はタッチライン際での走りかたについて考えます。

バルセロナのサッカーではウィングの選手がタッチラインまで開いてボールを待つことが多く、そのままでは、サイドバックが上がるスペースを消してしまいます。

そこで、ウィングの選手はサイドバックが上がるタイミングに合わせて中に絞ることで、DFを引き付けて上手にスペースを活用しています。

こちらを見てください。左サイドのプレーです。↓クリックして動きます


ここでは連携の取れたランニングでサイドを突破しています。

Bはサイドに開いたMFもしくはウィングの選手です。速攻のときはボールが自分のサイドに回ってくるとき、後ろからの味方の押し上げを確認したら、一気に内側にダッシュをして、バイタルエリアもしくはDFラインの背後でパスを要求します。

遅攻のときは、この図のようにCとBが縦の関係になることが多くなります。その時は、パスを受け、いったん足元でボールを落ち着けてから、中央もしくは後ろの選手にはたいて、中に向かってジョギングします。

とにかく、Bの選手は、攻撃が淀みなく行われるように、サイドのスペースを創造しなければなりません。ここに突っ立ったままだと、マーカーにとって守りやすいだけでなく味方の邪魔にさえなります。

このように内側へのランニングをすることによって、Bのマーカーである敵のサイドバックの選手を、本来のポジションではない真ん中のゾーンまで連れて行くことができます。

Cはサイドバックの選手です。速攻のときも遅攻のときも走り出すタイミングが大事です。

Cをマークするのは敵のサイドハーフの選手です。Bが空いたスペースに走りこめば、敵のサイドハーフを相手陣内に押し込めることができるので、敵の攻撃を遅らせることにつながります。

Aはボランチかゲームメイカーの選手です。うまくスペースを使うには、Bの選手の動きだけに囚われず、その背後から飛び出すCの選手のこともちゃんと見ることが必要です。


このようにサイドに張った選手が、中に向かってランニングすることで、サイドのスペースを有効に活用し、同時に中央のゾーンの人数を厚くすることができます。

次→考えて走る6 日本人の走り方 寄るな寄るな

2010年8月27日

考えて走る6 日本人の走り方 寄るな寄るな

今回は日本人の走り方の特徴とその効果を考えていきます。

まずは日本人の走り方の特徴を整理します。ここではボールを保持している時のみ考えます。

1 サイドの選手はボールを受ける前に、外側に広がる

2 中央の選手はボールを受ける前に、ボールサイドに寄っていく

3 走るのが速い

4 チェックの動きが好き

5 パスを出した後、縦に走るコースがなければ、止まってしまう

6 FWの選手は斜め外に流れ出たり、プルアウェイをして外に広がっていく

7 前方のボールホルダーを追い越すときに、その味方の外側を通る(オーバーラップ)

まず1です。これは素晴らしい動きです。1998年から今に続くトレセン制度の効果ですね。元日本代表監督トルシェの貢献で広まった「ウェーブの動き」そのものです。

そして2です。これはダメです。重症です。日本サッカー界に巣食う病魔です。なぜこの「寄る動き」が発生するかというと、

・サイドを起点にしたつなぎを狙っているから

・育成に携わる指導者が、ボールを受けるときはボールに寄って、DFよりも先にボールに触りなさいと教えるから

です。確かに指導者の言うことは正しいんです。だけど、この状況ではルーズボールを奪い合っているんじゃないんです。味方がボールを持った時を考えているんです。パスのタイミングが読まれなければ、必ずパスは受け手に通ります。弱いパスじゃない限り。

日本で見られるサッカーの試合をスタンドから観戦するとほぼ全員がボールの方向に身体を向けて、ずるずるとボールに寄っていることがあります。サイドチェンジをして、ボールサイドが変わっても、みんなボール方向に寄って行き、時にはフィールドプレーヤー20人がピッチの6分の1程度のエリアに集まっていることがあります。



守備側にとってはとても助かります。なぜならゾーンディフェンスのやり方にかなっているからです。相手が自らゾーンの網にかかるようなポジショニングをしてくれれば、走る距離を少なくしてボールを奪うことができます。

ボールに寄るようにサポートすると、敵に簡単に自分をマークさせてしまいます。終いにはフィールドプレーヤーのほとんどがそのようにマークにあってしまいます。これがボールの動きを停滞させる要因になります。

この状況を打開しようとして、マークを外すために大胆に長い距離を走る選手が出てきます。すると、3の状況が生まれます。特に中盤の選手が縦にものすごいスピードで駆け上がり、後方からパスを引き出そうとします。

よく指導者がよく言う言葉です。「動きが止まってるぞ。動いてパスコースを作れ。中盤の選手はもっと積極的に飛び出して裏でボールを貰え。」

さて、これを繰り返すとどうなるでしょう。何回かは、チャンスを生み出せるでしょう。何回かは中盤の選手にボールが渡る前にボールを奪われ、逆襲を喰らうでしょう。そして間違いなく言えるのは、後半には選手の体力が尽き、ボールの動きだけでなく、ゲーム全体が停滞するでしょう。

まるで2006年ドイツW杯日本代表対オーストラリア戦のようですね。

これをなくすにはどうすりゃいいのか。ひとつの解決策はバルセロナが示してくれています。こちら→サイドステップと後ろ走りでボールから離れながらパスを引き出す方法


中盤とFWの選手がこの動きを取り入れ、ピッチを広く使うように心がければ、日本のサッカーのスタイルがだいぶ変わってくるはずです。

さて、4のチェックの動きに話を移します。日本人はほんとにこれが好きで、場合によっては3回4回とチェックを入れてマーカーを振り切ろうとします。これはフェイントや足技に凝るのと同じなんです。

日本人はとかくが好きで、技をもって敵に打ち勝つことが美学のような、侍魂を持っているんです。みんな宮本武蔵が好きなんですね。磨いた技で1対1に勝ち、それを積み上げれば11対11に勝てると思っている人も多いと思います。

でも、敵のマークを外す方法は他にもあるんです。それが複数人で走ってスペースを作るという方法です。原理は簡単です。背中で走ることを意識するんです。

特にスローインを受けるときに、簡単にポジションチェンジするように走れば、すぐにフリーで受けれます。

11対11に勝つには1対1に勝つことが不可欠です。しかし1対1は11対11の中で行われるのです。柔道の団体戦じゃないんです。1対1に挑むのに周りの助けを得られたほうが、遥かに戦況を有利に進められます。そのことを日本人は学ぶべきです。

では5について。これは選手がどこに走ったらいいか分からず、途方にくれているシーンです。加えて、自分がここに立って待っていることの意味もよく考えていない場合が多いです。

特にサイドハーフがタッチライン際まで開いてボールを受けたときです。このとき味方のサイドバックと縦の関係になることが多いのです。このときサイドハーフがボールをはたいてから止まっていると、サイドバックの上がるスペースを潰してしまい、攻撃が停滞することがよくあります。

これをしないためには中に絞る動きが必要です。くわしくはリンク先を見てください。

次は→考えて走る7 ゴール前のFWの動き方

つなぎ論 番外2 バルサと日本の違い

バルセロナのつなぎは前回説明したとおり、サイドバックではなくセンターバックとボランチを基点にして、中盤の選手がサイドステップと後ろ走りでボールを引き出してゾーンをあげていく方法をとっています。

では日本においてつなぎの定石といえばどういうものでしょうか。いくつか特徴を挙げると

1 最終ラインで横にボールをつないで、サイドバックを起点にする

2 サイドバックからボランチへ横パスを入れる 

3 最終ラインもしくはボランチから前線の選手にくさびのパスを入れる

4 ポストプレーの落しから中盤の選手が前を向いてプレーする

5 くさびのパスが入った瞬間にスピードアップする

といったところでしょうか。

まず、1のサイドバックが起点になることですが、前回も書いたとおりサイドバックがボールを持つと相手チームにとってプレッシャーをかけやすい状況が生まれます。ワンサイドカット(中へのパスコースを切って外に追いやる)がしやすくなります。なので、サイドバックが起点になる攻めというのは、攻撃の幅を狭めて、自分たちで自分たちの首を絞めることとおなじなのです。

2のボランチへの横パスですが、ここにパスが通れば落ち着いてゾーンをあげて攻めることができるのですが、組織的に守備をするチームを相手にすると、ボランチのところにものすごいプレッシャーが来ます。なので、パスが通ったとしてもボランチの選手がボールロストしてしまうことが多く、ショートカウンターを喰らってしまうのです。

ユース年代の指導者は、中盤の選手が横パスを受けることを怖がったり、ボールロストするのを責めますが、これは当たり前のことなのです。わざわざ相手の守備の網にかかるようにつないでいるわけですから。ちょうどボランチやサイドバックがその犠牲になってしまうので、とてもかわいそうな役回りだといえます。

3のくさびのパスですが、これも日本ではおかしな指導論が展開されてます。長いパスは途中でカットされる確率が高くなるだとかいう話は論外にしても、くさびを受けるFWはチェックの動きでマーカーをはずさないといけないというのは常識にさえなっています。

この方法だと、出し手と受け手のタイミングが寸分の狂いなく噛み合わないとつながりません。もしくは身体能力が非常にすぐれたポストプレーヤーがいなければなりません。これでは、敵のレベルによってくさびのパスの成功率が五分五分くらいまで低下します。ビルドアップというのはアタッキングサードまで安全にボールを運べる確率が7割以上あるべきなのにもかかわらず。

4と5も日本の特徴ですね。この部分が日本のサッカーが“速い”といわれる所以でしょう。くさびのパスが入ると、周囲の選手はポストプレーヤーからボールを受けるべく、走る速度を増して、ボール周辺に集まります。敵チームの中盤を置き去りにする必要があるからです。

この結果ボールの周辺の人口密度が一気に高まり、攻撃全体が縦に長くなります。横への展開の可能性が徐々になくなり、同サイドに固執する傾向が生まれます。また、敵の選手も集まってくるので、狭い地域に囲い込まれる格好になり、パスの成功率が低下します。

ここを突破できればチャンスが生まれ、奪われれば逆襲をくらう、まさにぎりぎりの戦いに自ら持ち込んでいるのです。日本人が信じるつなぎは、自らをボールロストの方向に導く自滅行為に等しいのです。

何度も言いますがビルドアップには確実さが一番重要です。

この日本のつなぎ方の一番のポイントは、確実なポストプレーができるFWの存在です。ポストプレーが100%うまくいくならなんら問題ありません。しかし、ここが潰されれば、確実なビルドアップは保証されません。

代表レベルの試合で、Jや育成年代で長年培ってきたプレーが見られないは、世界の舞台で通用するポストプレーヤーが日本にはいないためなのです。

確実にボールを前に運ぶ手段を失った日本代表が、守備を固める戦略にでるのはとても納得がいきます。あと10年くらいはあの守備重視の戦略で戦ってほしいものです。



次は→つなぎ論 番外 バルサのつなぎを封じるには

関連記事→バルサと日本のつなぎのイメージ差

2タッチコントロールⅡ ボールを流すプレーはやめよう

日本人選手の好きなプレーのひとつに「ボールを流す受け方」があります。

どういうプレーかというと、パスをトラップせずにスルーして、後方に流れたボールを走って追いかけるというプレーです。中盤の選手がサイドハーフから横パスを受けるときにや、サイドに開いたFWが縦パスを受けるときに使われたりします。

日本人がこれを好きなのは、楽だからです。ボールに触らなくていいので、その分顔が上がるし、スピードのある選手はこれだけでDFを振り切ったりできるからです。

しかし、この受けかたははっきり言って攻撃側にとってとても不利です。

なぜかというと、

 ボールが体から離れる

からです。

ボールが体から離れると、次にボールに追いつくまでの間にDFに寄せる時間を与えてしまいます。また、ボールに追いつくまでパスも出せなければ切り返しもできません。よって受けるパスの強さによって自分のプレーの可能性が限定されてしまうのです。DFはパスの方向をカバーするだけで相手の進路を絶つことができます。

特に後ろの状態をよく見ずにボールを流したときなんかは悲惨です。8割がたボールを失うか相手と激しいぶつかり合いになります。下手すると怪我します。

このプレーがうまくいくのは、弱いパスを受けて空いた後ろのスペースに流すときか、自分のマーカーが後ろにぴったりくっついて足元のトラップを狙っているときだけです。自分と敵の身体能力に差がない場合は、とても苦しい展開が待ち受けています。

では、このボールを流すプレーではなくて、違うプレーで自分の真後ろのスペースを使うにはどうしたらいいでしょうか。答えは、2タッチコントロールです。

一度足元にぴたりと止めて、すかさず後ろのスペースにボールを転がせば、スピードを落とさずに次のプレーにつなげます。

しかも、一度足元に止めることで、DFの動きを一瞬ひきつけることができるので、2タッチ目でスペースに出たときに、DFを振り切ることも可能です。

とはいってもバルセロナのシャビはよくボールを流して受けています。シャビは後ろのスペースをよく見ているし、受けるときは大抵フリーなので多用するんです。

また、同じくバルセロナのダビド・ビジャはサイドに流れてDFを背負ってボールを受けるとき、2タッチコントロールで巧みに相手を振り切るプレーが得意です。

今度ビデオを載せます。

次→浮き球の処理

つなぎ論 番外 バルサのつなぎを解説

FCバルセロナのパスワークって他のチームとぜんぜん違って見えますよね。他のチームはボールの受け手がみなマークされた状態でボールを待っているのに、バルサの選手たちは何の苦労もなくみんなフリーでボールを受けています。せめて、マーカーを振り切る速い走りをしていたら納得するのですが、まるでマジックのようです。これはなぜだか考えて見ましょう。

バルサのつなぎを見ていると一つの大きな特徴があります。地球上のバルサ以外のすべてのサッカーチームがしているのに、バルサだけがしていないことです。

なんとバルサは

ビルドアップ時にサイドバックにボールを触らせません

びっくりしますよね。だって、普通は、サイドバックのポジションはプレッシャーがかかりづらいしスペースが空いているので優先的にボールを回し、ビルドアップの基点として考えられています。

しかしバルセロナではサイドバックがボールを触るのはハーフラインを超えてからです。サイドバックの攻撃の役割は敵陣に進入してクロスをあげることのみ、非常にシンプルになっています。

なぜか。それは自陣でボールを持ったサイドバックからのパスコースは限定されやすいからです。サイドバックからボールを受けるボランチの選手はたいてい厳しいマークにあいますし、斜めに流れて縦パスを受けたFWはたいていDFを背負ってしまいます。サイドバックはタッチラインを背にしてプレーするという事実の負の側面だけが浮き彫りになってしまうのです。

いくらバルサでもサイドバックが自陣でボールを持ったときはビルドアップに苦労しています。

↑(CBのアビダルがボールを持ってタッチライン際まで張り出したとき、パスコースが後ろしかない。この後斜め前に楔のパスを狙ってカットされる)

ではここで、図を使ってバルサのビルドアップを説明していきます。
↓を見てください


これがバルサの基本フォーメーションです。この時点ではボランチ(セルヒオブスケツ)以外はみなぴたりと敵にマークされています。いや敢えてマークさせているのです。サイドバックは高い位置をとり、ウィングはぴったりライン際に張りつき、ただ立ってボールが来るのを待ちます。そうすることで敵の陣形を横に引き伸ばすことができます。もちろんピケ選手の精度の高いキックがあってこその配置ということをわすれてはなりません。



次にセンターバックは30~40mほど間をとって開き、その間にボランチが入って、3人でボールを回します。相手FWは2人なので数的優位を作ります。このとき大事なのは安易にサイドバックにパスしないことです。かならず中盤の選手を見つけてボランチなどにボールを渡します。



そして3人のうちだれかがボールを前に持ち出しFW2人を置き去りにします。ここではボランチがドリブルしたことにします。このタイミングで中盤の2人(シャビ・イニエスタ)とトップ(メッシ)が動き出します。サイドステップや後ろ走りを使ってプルアウェイをするように、敵数人のちょうど中間地点に位置取りをします。(考えて走る サイドステップと後ろ走り



敵のうち一人はボランチにマークに行かなければならないので、パスコースが必ず3つ以上できます。このときはなるべく上記の3人にボールを渡します。ボールが渡ったときには、マジックのようにフリーで受けることができます。

これでゾーンを上げられるので、サイドバックの攻撃参加も可能になります。

もう一例。こういうパターンもよくあります。










ボランチがボールを持った瞬間に、中盤二人がバイタルへ侵入していく動きです。サッカー解説者山本昌邦さんのいう“3人のDFの重心に入る”ポジションどりはボールを受けるだけではなく、ボール保持者に新たなパスコースを提供する効果もあります。(このシーンではウィングへのパスコースを作っている)

この展開ではウィングにボールが渡りました。ここからウィングはボールをはたいて中に絞ることで、サイドバックが上がるスペースを作れます。→考えて走る5 サイドの使い方

次は→つなぎ論 番外 バルサと日本のつなぎの違い

2010年8月26日

考えて走る3 走り続ける

考えて走る2 背中はスペース製造機では走ることで生んだスペースを味方に活用させることを紹介しました。

では実際ピッチ上で実践するにはどうすればいいのでしょうか。

スペースを意識しながら走ることができない選手は、まず走り抜くことを考えるべきです。ボールを受けに走り出したら、途中で止まることなく、オフサイドラインを過ぎるまで走り続けます。ボールが来る来ないは全く関係なく。

ボールがなかなか出てこないからと言ってチェックの動きを入れたり、立ち止まったりしてはいけません。自分で作ったスペースをみすみす消すことになってしまいます。

パスを受けるために走り抜けたら、そこで終わりではありません。その位置で待っているのが得策なのか、あるいは元のポジションに戻っていくのが正解なのか、常に味方を助け敵を困らせるポジショニングを考える必要があります。

ときおりオフサイドラインを超えるまで走ってしまう時がありますが、そのときはゆっくり帰陣しながらオンサイドポジションに戻り、また裏への走りを試みることが必要です。上から見ると8の字を描くように動くことで、どこかのタイミングでパスを受けることができるでしょう。

また、自分にボールが回ってこなくても、決してふてくされずに、「今味方がボールを保持しているのは、自分の高い戦術理解力がなすランニングのおかげなんだ」というふうに考え、チームにポジティブな雰囲気を与えることが大事です。自惚れも時にはネガティブな感情を抑えてくれるのです。

こうした“犠牲になる走り”を繰り返すと、徐々に味方が上手にそのスペースを使ってドリブルをしたり、パスで展開してくれます。すると、自分のランニングが活かされてチームに貢献できますし、めぐりめぐって自分のところにパスが回ってくるかもしれません。

また、走り続けることのリスクも学べます。途中でボールを失った場合、自分が前方に走り続けた分だけ帰陣の距離が長くなります。こういう体験を積み重ねることで、走るための正しいタイミングと方向を学んでいくのです。

全く役に立たない走りも存在します。たくさん走っていても、自分の走りがチームに貢献していないと感じたならば、より高度なレベルのサッカーの試合を観戦し、そこで選手の走りに注目してみましょう。

味方を助け敵を困らせる走り方
は、それほどたくさんの種類があるわけではありません。ある程度パターン化して覚え、反射的かつ自動的にその動きができるようにすれば、ピッチ上でのプレー感覚が変わってくるはずです。

次→考えて走る4 サイドステップと後ろ走り

ミクロつなぎ論1 流れ

つなぎには流れがあります。ゲームの流れではなくて、流れるようなパスワークのほうの流れです。

この流れを止めることなく淀みなくつないでいけば、相手ゴール前までいけるでしょう。ときには自陣ゴール前から、相手ゴール前まで一度もスピードダウンすることなく行けることもあるでしょう。チーム全員がこの“つなぎの流れ”を理解していればできるプレーです。

一度詰まってしまった場合は、やり直しをしなければなりません。やり直しの際にはじっくりと時間をかけて、あせらずにパスコースを見つけることが大事です。やり直しの直後にパスを出そうとすると、大抵引っかかります。ミスパスになるということです。

なぜかといわれても、サッカーとはそういうものなのです。

流れるようにつなぐには、キックやコントロールの技術はもちろん、パスを引き出す動きや仕掛けるドリブル、運ぶドリブルなどが必要です。そのなかでもひときわ大切なのが“攻める方向を間違えない”ということです。

このミクロつなぎ論ではつなぎの一部を担う個人の視点から、流れを生み出すにはどの方向に攻めるべきかということを考えていきます。

ではこの「攻める方向」とは何か。羅列して述べると次のようなものがあります。

1 縦にドリブルしたら横パス

2 右から来たら左、左から来ら右

3 縦縦横あるいは横横縦

4 2タッチ2タッチ1タッチあるいは1タッチ1タッチ2タッチ

5 ショートショートロング

6 ひとつ飛ばす

7 運ぶドリブル

8 やめる、やり直す

次の記事から、これらひとつひとつについて考えていきます。次→縦にドリブルしたら横パス

考えて走る4 サイドステップと後ろ走り

スペイン代表の試合を見ていると、ありえないシーンが連発します。たとえば、FWがノーマークでくさびをうけたり、中盤の選手がどフリーでバイタルエリアに侵入してパスを受けたり。レベルが高い試合なのに、スペインがボールをポゼッションすると、敵チームはまるでプレッシャーをかけれずにゆったりとボール回しをさせてしまいます。

これはなぜか考えながらよく試合を観察しました。すると、スペインの中盤の選手たちは頻繁にポジションチェンジを繰り返して、巧みにマーカーを振り切り、フリーでボールを受けているではありませんか。

しかも決してダッシュしたり、細かくチェックの動きを入れたりするのではなく、ゆったりとウォーミングアップでもしてるような速度で動きながらボールを受けているのです。

さらによく見ると、スペイン代表の中盤3選手、シャビ、イニエスタ、アロンソはサイドステップと後ろ走りを多用しています。



この動きは日本人のFWならだれでも知っているプルアウェイの動きと全く同じです。なんとスペイン人はボールを受けるために、ボールに寄らずに敢えてボールから遠ざかっていくんですね。パスを引き出すとはまさにこのことです。

パスを受けるときに、ボールに寄らずサイドステップなどで遠ざかることの利点は

1 ピッチを広く使える

2 敵の動きと反対になるのでフリーになれる

3 体力を消耗しない

4 視野が広がる

というのがあります。

3の体力の件については、ドイツのように縦へのランニングが多いと、インターバルで負荷がかかり、ゲーム終盤で体力切れを起こす心配がでてきます。シャビのように運動力は多くとも一定の速度で移動していれば、体への負担も少ないでしょう。

また、ほとんどのすべての選手がアウトオブプレーのときに後ろ走りではなくて、後ろ向きスキップをしています。やってみるとわかるんですが、このほうが足への負担が少なく感じられます。サイドステップを多用するほうが、通常の走り方をするよりも体力をセーブできるのかもしれません。
※追記→スキップがランニングより楽な理由

4については、実際にやるとわかるんですが、サイドステップは前に進まないので逐一横や後ろを見ていないと、だれかにぶつかってしまう気がして怖いんです。なので、とても積極的に首が振れます。

また体の向きもよくなるのでボールを受けたときにすぐに前を向けます。

フットサルやミニゲームのときにくさびを受けるポジションを任されたら試してみてください。フットサルならちょうど相手4人の間に立って、誰からも遠すぎず近すぎず均等な距離を保つようにすると練習になります。

コツとしては、ボールや味方の動きに合わせてサポートの動きをするのではなくて、敵を見てサポートの動きをすることです。厳密にいうと、敵とボールと味方のすべてを見る必要があります。誰にも自分をマークさせないように、中間的ポジションをとります。

はじめはサポートに行くスピードが遅くなることが気になるかもしれないですが、そこには目を瞑って、サイドステップと後ろ走りにこだわってボールを引き出してみてください。すると今までとは全く違った感覚でサッカーを楽しめます。

サイドステップと後ろ走りなんて小学生でも習います。サッカー経験者ならだれもが行う、あの有名なブラジル体操のなかにサッカーに本当に必要なエッセンスが入っていたんですね。

次→考えて走る5 サイドの使い方

関連記事→ポジショニングという技

考えて走る0 ボールの行方を見極める

走れと言われてもどうしたらいいかわからないのが選手です。日本代表クラスの選手でさえ、世界基準から比べれば、質の低い走りをしているのが現状です。

では、質の高い走りとはなにか。それは走るタイミングと走る方向が正しいということです。正しいという言葉は曖昧なので、敵を困らせ味方を助ける走りが質の高い走りと言い換えましょう。

今回は走るタイミングについて考えます。

走るタイミングがいい選手は、状況判断予測をする能力に長けています。どういうことかというと、いつ走るべきか知っている選手は、ボールの行方がわかる選手なのです。

つまり、ボールの行方を考えることこそ走り出しの質を上げることにつながります。

ではここで、ボールを取り巻く環境を整理してみましょう。

1 ボールは味方が持っている

2 ボールは敵が持っている

3 1と2のどちらでもない(つまりルーズボール)

1は攻撃時です。このときの走り方は別の項でまとめます。
2は守備時です。このときの走り方はチームのやり方によっても変わると思います。日本の守備時の走りの質はかなり高いことがW杯で証明されましたね。

問題は3です。このルーズボールのときに走るタイミングを見誤ると悲惨な事態を招きます。逆に判断がよければビッグチャンスになることもあります。

ルーズボールのときはそのボールが

1 味方のボールになりそうか

2 敵のボールになりそうか

3 どちらともつかないか

見極める必要があります。どちらに転ぶか判断がつかない場合は、両足を地面に着けてどの方向にも動き出せる体勢を取ります。

こういった攻守の切り替えの部分の質を高めることが現代サッカーでは求められてきます。

ボールの行方を見極めるための状況判断力や予測力は、サッカーセンスに依るところも大きいですが、実戦で意識を高めて経験を積み上げることで確実に向上します。

次は→考えて走る 走る意味とは

つなぎ論4 音楽とサッカーのスタイル

W杯を見ていると、普段は別々のチームでプレーしているスター選手たちが、同じ国旗のもとに集まってプレーをしているので、各国のサッカーのスタイルが顕著に現れて、とても面白いですね。

スペインはパスに重きを置いてなかなかシュートを打たなかったりして、日本人の感覚に近いものを感じます。ドイツは協調性のある直線的なランニングからチャンスを生みます。ブラジルは細かいパス回しからいつの間にか突破をしているというシーンが多いですね。

こういったサッカーのスタイルは、各国の民族音楽のリズムの影響を受けている、というふうに考えるのも面白いかもしれません。というのも強豪国には独自の音楽文化があることが多いからです。

よく言われるのは、ブラジルサッカーにはサンバのリズムが流れてるということです。サンバのリズムには、4拍子の中に3拍子を埋め込んだようなリズムの訛りがあるんです。西洋音楽の考え方からは生まれないリズムです。ちょっとズレているようで、みんながそのちょっとズレたリズムにあわせて動いているので、ブラジルの攻撃はヨーロッパのチームに読まれないのではないでしょうか。

また、スペインにはフラメンコがあります。フラメンコのリズムの基本は12拍子と言われているそうで、3拍子×4のなかでいろいろとアクセントを変えるみたいです。よどみなくリズムが流れていくような美しさが感じられます。これがスペインのパスへの美的追求につながっているのではないでしょうか。

大雑把にまとめてしまうようですが、スペイン語圏の南米の国々にも独自の民族音楽が多数存在しています。その多くがスペインとアフリカの影響を受けてできたもので、全体としてリズムに“うねり”があります。われわれの耳ではなかなか一筋縄ではいかないリズムばかりです。この“うねり”こそ南米らしい曲線的なスタイルを生み出しているのではないでしょうか。

一方のヨーロッパの国々のサッカースタイルは直線的で構築的なものが多いです。特にドイツやイングランドに代表されるような、スピードあふれるランニングと長いパスを多用するスタイルは、ハウスミュージックを思い起こさせます。縦ノリの直線的なリズムをベースに少しずつ音を足していく音楽の形態がヨーロッパのサッカースタイルと重なってくるのです。

では日本はというと、今のところ日本のサッカースタイルからは音楽的リズムを感じることは出来ません。日本の民謡や和太鼓のリズムは、誰にでも馴染み易い一方、歌や呼吸に合わせて拍のとり方を変えるという特徴があります。“歌”つまり“ボール”に合わせて“リズム”=“動き方”を変えるというふうに考えると、日本のサッカーはまさに「ボールに振り回されている」というのが現状かもしれません

日本に伝わる伝統のリズムを活かして、日本のサッカースタイルを確立できる日が待ち遠しいですね。

次→
ポジショニングとは何か

2010年8月25日

考えて走る2 背中でスペースを作れ

現代サッカーではスペースを与えてもらえません。ボールを中心にフィールドプレーヤーが寄って集まることで、一人ひとりの距離が近くなっているからです。

上空からピッチ上のある一瞬の写真をとればそのように写るでしょう。しかし、ピッチ上では時間が流れ選手たちは常に動いています。走っているのです。

走るということはスペースが作られることです。走るという行動はスペースが生まれるという現象を含んでいるのです。走り続ければスペースは生まれ続けます。ピッチ上の22人がスペースを求めて絶えず動き回ることで、ピッチ上には絶えずスペースが生まれつづけているのです。

まるで、宇宙空間で消滅と生成を繰り返す星星のようですね。。。

「ないない、スペースもパスコースもない」と言ってつなぐのをあきらめる前に、スペースの見つけ方の工夫をしてみるべきです。

ここでは簡単な例を見ながら、各選手が「走る=スペースの生成」ということをどのように意識しているか考えていきます。

↓BがFW、A,CがMFとします。



B:空いているスペースに走りこんでボールを受けようとします。このときに走りながらマーカーがついてきていることと、自分の背後にスペースを生んでいることを意識します

A:ボールホルダーのAはBが前方に走るのを確認して、その背後にスペースが生まれるということを予測し、そのスペースに入り込むCを見つけてパスを出します。

C:Bが前方を走るのを見て、その後ろのスペースを活かせればチャンスを作れるという意識で、タイミングを見計らって走りこんでAからパスを要求します。

俯瞰してみるとなんでもないプレーですが、選手たちはこのように考えて走っているのです。

走る選手の背中には活用すべきスペースとパスコースが生まれます。周りの選手が、走る選手を見た瞬間にその背後のスペースを使うイメージが持てれば、かならず相手のDF陣に対して先手を取ることができます。

ただし、走ることで生まれたスペースは敵チームにとって危険なものなので、すぐに消されてしまいます。活用できるタイミングを逃さないことが大事になってきます。

走るという至極単純なプレーが敵チームの脅威になるのです。しかし、このプレーを実現するにはボールに絡む数人の選手の意識が統一されていないとなりません。そういう意味では非常にレベルの高いプレーとも言えます。

一人が走り出せば、パスコースは2つに増えるということを理解してプレーが出来れば、オシム・ジェフ千葉のようなムービングフットボールが展開できるはずです。


次→考えて走る3 走り続ける

2010年8月24日

つなぎ論3 ミクロとマクロ

ではここからが本題です。ポゼッションサッカーの要素とはなにか?どんな意識でパスをつなげば美しいパスサッカーが完成するのか?

この問題について2つのアプローチで考えたいと思います。

一つはマクロつなぎ論

もう一つはミクロつなぎ論

です。

マクロつなぎ論とは、ピッチを俯瞰してみた時に、どのようにボールをつないでいけば敵チームを崩すことが出来るかを考えます。つまり、スタンドから観客の目で試合を見たときの、パスの軌跡からパスサッカーを考えるという視点です。

ミクロつなぎ論とは、マクロつなぎ論を受けて、今度はピッチ上に立つ一人ひとりの選手がどういうプレーを行えば、美しいパスサッカーが表現できるかを考えます。完全に選手の目線にたって、つないで崩すということを考えます。

この2つのアプローチをつかって、具体的なシーンを解説し、パスサッカーの要素をパターン化して理解することを目標に進めていきます。

次は→音楽とサッカーのスタイル

関連→マクロつなぎ論1 DFの集団意識
ミクロつなぎ論1 流れ

つなぎ論1 パスとはコミュニケーションである

今回はパスについて考えます。

パスは2人の間でボールの受け渡しをする行為です。ボールを蹴る人とボールを受ける人がいます。

ことばで書くとそれ以上でもそれ以下でもないんですが、ピッチ上で行われるパス交換はもっと多元的な現象です。

たとえばこんなシーンを想像します。出し手AはDFに寄せられて余裕がないのでとにかくボールをトーキックでつっついて受け手Bのほうに転がした。受け手Bはボールが弱いのでボールに寄ってから逆サイドに向けて大きく展開した。

たぶん出し手Aはこう思いながらパスを出したと思います。「俺はこれで目一杯だからB頼む」。そして受け手Bはこう答えたでしょう「よくがんばったAよ。これで相手の裏をつけるぞ」

こういう思いの交換がパスごとにあるのではないでしょうか?パスとはコミュニケーションであるというとはそういうことです。

ある統計では、プライベートで仲がいいグループとそうではないグループでは、仲がいいグループの方が試合中により多くのパス交換を行ったことがわかっています。

つまり、パスコースが2つあって一方は仲のいい選手で、もう一方はそうでない選手ならば、仲のいい選手を選択するということです。

ポゼッションサッカーでは常にボールを失うリスクにさらされています。のっぴきならない状況のときに信頼の置ける仲間が近くにいれば、迷わずボールを渡せます。同じ状況で、よく知らない選手がいたら、迷わずにパスができるでしょうか?自分でボールを保持したほうがまだましだと考えるかもしれません。

顔を見てパスを出すというのはこういうことです。特定の選手にボールが集まるのは、その選手が信頼され、彼ならなんとかしてくれるかもしれないという味方の思惑が働いているからです。

ここでまた、ある状況を想像します。自分がボールを持って敵陣ペナルティーエリアに迫っています。3対3で自分は真ん中にいて、右にはシュートテクニックに優れた味方FW、左には足の速い味方ウィングがいます。ここで左右のどちらにパスを出すべきかというと、答えは右です。

より得点の機会が多い選択肢を選ぶには、ポジショニングやタイミングだけではなく、味方の顔を見ることも必要です。

次→つなぎ論2 パスの種類

つなぎ論2 パスの種類

パスとはコミュニケーションです。そしてそれぞれのパスにはそれぞれの意図が仕込まれています。

ここでは、パスの意図を大まかに分けます。崩しのパス預けのパスの2種類です。

崩しのパスとは俗にいうキラーパス、スルーパス、ラストパスのことです。状況を一気に打開しシュートに直接つながるパスのことです。

また、状況を一変させるようなパスのことも指します。たとえば、相手に寄せられて苦しい状況から、ギャップを通して味方に前を向かせるようなパスや、バイタルエリアに侵入した味方への横パスやくさびのパスのことや、逆サイドの空いたスペースを使うサイドチェンジも崩しのパスに分類します。

一見なんでもないインサイドキックのショートパスでフリーの味方に前を向かせる、という崩し方が上手なのが、ガンバ大阪の遠藤選手です。

崩すという意図から考えて、この種類のパスの成功率は、預けのパスに比べてかなり落ちます。“ここさえ通れば一点”というシーンを演出するのですから、ぎりぎりのところを狙わないと意味がないわけです。

崩しのパスを連発して頻繁にボールロストしてはゲームの支配権を奪えません。かといってボールロストが怖くて預けのパスに逃げていたらいつまでたっても点が取れません。崩しのパスを成功させるには、いい発想と確かな技術と勇気が必要です。

崩しのパスが出されるゾーンは相手のアタッキングサードに入ってくるので、ここでボールを失っても直接失点につながることは少ないです。イメージ的には、成功率が5割に届けば素晴らしい出来だと思います。

一方、預けのパスとはボールポゼッションを失わないためのパスや崩しのパスを狙う前の段階のパスのことです。ビルドアップ時のパス交換やプレッシャーを回避するためのワンツーなど、有効なスペースへ進入するための準備段階のパスを指します。

一般にはボールを動かすプレーだとか寄せるパスなんて言われ方もします。

預けのパスの最終目的は、味方に前向きでフリーの状態でボールを渡すことにあります。そうすればそこから崩しのパスが狙うことができます。

預けのパスはとられてはいけません。ここでとられることはパスサッカーの終焉を意味します。ここでボールロストするようなチームはポゼッションサッカーという戦術を取ってはなりません。

なぜなら、預けのパスを奪われると失点につながるピンチになりやすいからです。ピンチの招き度合いは崩しのパスを奪われたときの10倍くらいです。

なので、理論的には預けのパスの成功率は100%でなければなりません。ただ現実的には、スペイン代表チームで9割くらいになるので、日本人がやるなら8割ぐらいを目指していきます。

ボールロストが怖いからといって蹴るサッカーに逃げてしまっては、サッカーの素晴らしさに触れることは出来ません。崩しのパスの精度が個人の閃きや能力に左右される反面、預けのパスの精度はチーム練習によって確実によくなります。だれもがチームに貢献できる部分である預けのパスこそ集団で取り組むべき課題です。

それぞれのパスの本数をイメージしたとき
崩し:預け=2:8 
くらいの割合になると思います。スペイン代表なんかはもっと預けのパスの本数が多いと思われます。

つまり、つなぐサッカー、ポゼッションサッカーを考えるということは、預けのパスの正確さと質を追求し、ボールロストせずにいかに多くの崩しのパスを出せる状況を作るかということになると思います。

この二つのパスの意図をはっきり区別することで、プレーするときやサッカー観戦するときの意識がだいぶ変わってきます。

次→つなぎ論3 ミクロとマクロ

2010年8月23日

考えて走る1 走るとは

近年、サッカー界で頻繁に取上げられるキーワード「考えて走る」。この言葉を理解している人は一体世の中にどれほどいるのでしょうか?

南アW杯の試合中、サッカー解説者がこの言葉の意味を説明してくれるだろうと期待して観戦していましたが、話題にはするものの説明はいまいち説得力がなく、落胆させられました。

それでは自分で考えてみようというのがこの「考えて走る」シリーズです。

ここでは具体的なシーンを取上げて考えられた走りを一つづつ考えていきます

まず、「走る」とはどういうことか、整理してみます。

・走ることとは歩くよりも早く動くこと。瞬間的に両足を地面から浮かして移動すること。

・通常走る動作とは左右の足を交互に地面につくことだが、サッカーにおいてはスキップやサイドステップまたは両足で跳ねることも可能。

・自分が走った跡にはだれもいなくなる。走った跡にはスペースができる。

・自分が走ると相手がついてくることがある

・ピッチ上ではいつでも、どの方向にも走ることができる

・一つのポイントに向かって走っているときはもう一つのポイントからは遠ざかっていることがある

・同時に2つの違うポイントに接近することもできる

・基本的にピッチにいる22人全員が常に移動している

・走ると疲れる

とまぁ整理するはずが、走ることに対して余計混乱を招く結果になりましたが、一番大事なのはこの2つでしょう。

・自分が走った跡にはだれもいなくなる。走った跡にはスペースができる。

・自分が走ると相手がついてくることがある


走るということはスペースを生み出すということ。この真理をまず理解するべきです。

次→考えて走る2 背中はスペース製造機

メッシのドリブルの形2 1ステップと2ステップ

メッシがステップワークを巧みに操ってリズムをずらす事でDFの予測をはずしていくという話は「メッシのドリブル3」のシリーズで取り上げました。

ここでもう一度ステップワークをまとめると3つに分けられることが判りました。

1 1ステップで外すメッシのドリブル3で紹介しました

2 2ステップで相手を見ながら切り返すメッシのドリブル3-4で少し触れました)

3 インサイドで縦(右方向)に切り返す

3はこのビデオをみれば判ります↓


簡単に言うと1ステップというのは一度のボールタッチで方向転換を行うことを言っていて、2ステップというのは2回のボールタッチでターンすることです。

次は→メッシのドリブルの形 2ステップ

メッシのドリブルの形 ボールタッチ

メッシがドリブルしているとき、どこでボールタッチしているのでしょう。

よーく観察すると、爪先に近いところで触っているのがわかります。ボールの下を小突くようにバックスピンをかけてボールを進めています。

2010年8月22日

メッシのドリブル5-3 浅い切り返し

先読みしたDFに対しては後だしジャンケンの要領でメッシがドリブル突破しているのはわかりました。では、先に動かない守備者ならメッシを止められるでしょうか?

きっと難しいでしょう。なぜなら勝負がかかる瞬間のスピードが違うからです。メッシはDFの正面に向かってドリブルしていき、ある一定の距離まで近づいたら方向を変えて加速します。一方、DFは静止してメッシの接近を待ち、メッシが加速してから追いかけることになります。

これは、例えばの話ですが、DFはクラウチングスタート、メッシは助走ありでスタートをする徒競争と同じです。しかもゴールまでの距離が10mから20mという超短距離走で、スタートを知らせるピストルはメッシが持っているのです。同時にスタート出来たとしても、この短い距離でDFがメッシを追い越すことはできません。

では上手にバックステップで後退しているDFに対してはどう突破を図っているのでしょうか?

ポイントはシュートを狙うことです。抜ききらずに少しコースを作ってシュートやクロスやパスなどのキックをすることで、状況を打破します。

後退し続けるDFの対応は、メッシをよりゴールに近づけることになります。それはすなわちメッシをシュートレンジに進入させることを意味します。ペナの中からなら抜ききらずにシュートを打つことが可能です。

するとDFはシュートを打たれるのが怖いので簡単にキックフェイントに引っかかるようになります。このときになるべく浅く切り返してDFの脇をすり抜けるようにすれば、次のプレーを余裕をもって行えます。

どういうことかというと↓ GIFアニメです。クリックしてください。


だめな例↓


DFが後ろから追いかけてきてシュートブロックに来た場合↓


だめな例↓


このようにアタッキングサードでは、切り返しを浅く行うことで、相手の背後を突いて余裕のある体勢からシュートやクロスに結びつけることができます。

身体的にも精神的にもぎりぎりの状況下で、前に切り返すことができる勇気をもつことが、メッシに近づく第一歩です。

ボールを失うのが怖くて、前に切り返せない選手はいつまでたってもドリブラーにはなれません。



次は→メッシのドリブルの形 ボールタッチ

関連記事→メッシの高速ドリブルを検証してみよう

1対1の守備(4) ゾーン分け

1対1で相手と対峙したときに、守備側として次に考えることは、自分は今どこのゾーンにいるかということです。

この図を参考に考えます↓


単純にピッチ上のゾーンだけで考えるのは安易ですので、ここでは自分のチームの最終ラインはペナルティスポットの辺りまで下がっているとします。そしてチームとして引いて守っているときのことを考えます。

1,3のゾーンでは、8割がた縦へ仕掛けてからクロスというプレーが行われるので、これをやらせないようにします。蹴らせないようになるべく寄せることが大事です。

2のゾーンでは何よりもまずシュートブロックに行きます。

4,6のゾーンでは1,3のときより少し間合いを遠めにとります。基本的には1,3のときと同じ意識で臨みますが、より柔軟な選択肢に対応する準備をします。

5のゾーンは、敵にとってなんでもできるゾーンなので、頭をフル回転させて対応します。ミドルシュートやくさびのパスからのワンツーなどもケアしないといけないので大変です。もちろんドリブル突破もあります。ここでは周りの敵味方のポジショニングをヒントに、対峙した敵の次のプレーを割り出す作業が必要になります。

7,8,9のゾーンでは間合いを遠めにとり自分一人で敵を2人マークするようなことも必要になってきます。ここでは主にパスコースを限定することが必要なので後ろの声を参考に、背後の状況を想像しながらパスコースを切っていきます。ボールホルダーの顔を見ていればだいたいどこにパスをだすかわかることもあります。

ざっとこんな感じの意識で守備に当たります。もちろん、チームのやり方によっては違う方法になることもあります。

ただし、変わらないのは、サイドの攻防ほど1対1の場面が多くなるということです。そしてサイドの攻防では優先順位がほぼ決まっているということです。縦への突破とクロスです。

このことを意識して守るだけでも、敵よりも優位に立って、余裕をもった守備ができるはずです。

メッシのドリブル3-5 タックルをかわす

メッシのドリブル突破のスロー映像のなかで、非常に感心するステップワークがあります。

それは、左足の引き上げです。

どういうことかというと、メッシが敵の目の前でダブルタッチを行って抜き去ろうとするときなんですけど、左足アウトサイドでボールをタッチして左足はそのまま地面に着いて体を前方に押し出します。そのあと、左足を後ろに跳ね上げて、かかとをお尻にくっつけるようにしてから、インサイドのボールタッチのために左足を前方に振り出すのです。


これはなぜかというと、タックルをかわすためです。

切り返した直後ほど、敵の足が伸びてくることが多いので、怪我をしないためにもこういった動作が必要なのではないでしょうか?

こうすることで、ジャンプしてタックルを避けるよりも素早く前に進めます。メッシはきっと自然にこの動きを身につけたのでしょう。本当に天才という言葉しか浮かびません。

次は→メッシのドリブル 足の速さ

2010年8月21日

1対1の守備(3) バックステップ

いい間合いをとり、相手の特徴を把握したら、まずはそのいい間合いを保つように後退します。バックステップもしくはクロスステップを使います。これは相手の攻撃を遅らせるという目的と安易に飛び込んでかわされないようにするためです。

そうして後退をする間に相手と自分の距離が近づいていくはずです。この距離=緊張感が張りつめたときにボールホルダーつまり相手がアクションを起こしてくるはずです。縦に仕掛けたり止まってターンをしたり。

この瞬間に起こりそうなことを予測することで、ボールを奪うことができます。

1対1で振り切られないようにするならば、様々な体の向きでバックステップやクロスステップを行い、そこから10mくらいダッシュする練習をするべきです。

2010年8月20日

メッシのドリブル5-2 後だしジャンケン

メッシのドリブルのすごいところは、あのスピードで走っているにもかかわらず、相手を見て瞬時に自分のプレーをやめたり変えたりしているところです。

メッシはドリブル中に対峙したDFの足の辺りをぼーっと見ていることが多いようです。↓


そしてこちらがメッシが瞬時にプレーを切り替えてる証拠映像です。
(左足のボールタッチをやめて一度左右とステップを踏んでからもう一度左足で股抜きを狙ったシーン)↓


こういったプレーは後だしじゃんけんに似ています。メッシは常にDFが動くのを確認してからその逆をとっているので、DFは後手に回ってしまうのです。

メッシのようにトップスピード時にプレーを変えることができる選手は少ないですが、日本の中学生高校生でも、ゆっくりとしたプレーの最中なら瞬間的にプレーの変更を行える選手はいると思います。問題はいかにそれを速いスピードでもできるようにトレーニングしていくかです。

しかし、この見ることと瞬時にプレーを変更することを鍛えるトレーニングはありません。これは動体視力や反射神経といった先天的な要因が大きいからです。ただ、普段から意識して取り組むことで少しずつできるようになるかもしれません。

次は→メッシのドリブル 浅い切り返し

メッシのドリブル5-1 2択への追い込み

5 ディフェンスはほとんど対応が後手になっている。予測ができていない。

非常にシンプルに見えるメッシのドリブルの仕掛け。メッシが少し体を右に傾けただけで大概のDFがバランスを崩してしまうのは一体なぜなんでしょうか?

DFにとって身体的にも精神的にも余裕があるときには簡単にフェイントに引っかかったりしません。身体的に余裕がない状態、例えば遅れてディフェンスをしければならなかったり、体勢が崩れている時には、必死で守備をしなければならないので、キックフェイントなどにかかりやすくなります。

また、メッシと対峙するDFの頭の中には、“メッシはスピードがあるから出遅れてはいけない”という意識があります。これがDFに精神的なプレッシャーを与えているのです。なので少しのフェイントにも引っかかってしまうのです。

この場所で縦に行かれたらまずいとか、このタイミングで中に切り返されたらシュートを打たれてしまうとか、DFが先読みをするからこそ体が先に動いてしまうのです。そうやって先に動いたDFの逆をとることでメッシは簡単に突破しているのです。

シュートを打つか打たないか、右に行くか左に行くか、走るか止まるか、この2択をDFに迫ることで状況を打開することができます。人間は同時に二つのことはできないという真理を、メッシは体で理解しているようです。

そしてDFが2択に追い込まれる回数というのは、メッシがボールに触る回数と同じです。メッシが易々と複数のDFの間を縦にまっすぐドリブルすることで突破するのをよく見ますが、このときDFたちはメッシがいつ止まるか判らないので置きざりにされてしまうのです。決して走力でメッシに劣るからではありません。

そこでメッシの身体的特徴、“低い身長”が活きてきます。背が低い=足が短いということは、ボールタッチの回数が必然的に増えてくるのです。ボールタッチの回数が増えれば、相手を2択に追い込む頻度が増えます。

加えてDFのリズムを崩すことも容易になります。分かりやすくいうと、DFが1秒に2回方向転換できるとしたら、メッシは1秒に3回方向転換できるチャンスがあるということです。ファイナルファンタジーでいうところのATBバーがたまる速さが段違いに早いんです。

ボールを体から離したドリブルでは、そのような2択に迫るドリブルはできないので、身体能力の差が顕著に出ます。走力だけで相手に挑むような選手は、自分より走力が高いDFを一生打ち負かせないでしょう

この2択へ迫るドリブルをするには、DFを見ることと自分の動きを修正することができなければなりません。それについては別の項にまとめます。

次は→メッシのドリブル 後出しジャンケン

メッシのドリブル4 足の速さ

4 トップスピード時には右足でもボールに触る

2010W杯でのメッシのトップスピードはどれくらいだったかというと、時速にして28.72km/hでした。この情報はFIFAのHPからstatisticsとして掲載されています。ここでは出場全選手のデータが閲覧できます。

では、メッシの時速28キロというトップスピードはどれくらい速いかというと、秒速で言うと約8m/s, 100m走なら12.5秒です。メッシより速い選手は大会出場中約50名ほどいましたし、100mを12.5秒で走る選手なら、日本の中学生にもいるはずです。

ここで疑問がわきます。メッシは本当に速いのか? 

その答えは、ボールを持ったときは誰よりも速い、ということです。

メッシはきっと全速力かそれに近い速度で走っているときにも完璧なボールコントロールができているのでしょう。

走る速さをボールの転がり方に縛られていないということです。その証拠によく見るシーンとして、ボールが意図したところに転がっていかないときに、利き足でない右足を使って前方へ運ぶことがあります。

また、敵がタックルのために足を伸ばした時に、右足を使って敵より一瞬早くボールを突いて入れ替わるシーンもよく見られます。

左足でのボールタッチでリズムを生み出しているので、急に右足で切り返せば相手の逆を突くことも可能になるでしょう。

ちなみにバルセロナのもう一人のドリブラーである、アンドレス・イニエスタ選手のW杯中のトップスピードは24.83Km/hでした。これは100m走るのに14秒かかる計算になります。

全速力に近い速度でもボールコントロールを失わずに2歩1触のドリブルができれば、敵陣を切り裂いていくことができます。ドリブラーの条件として足が速くなければならないというのは、もはや通念にはならないみたいですね。

次は→メッシのドリブル 2択に迫る

1対1の守備(2) 敵を知る

いい間合いを取れたら、次に考えるのは、対峙した敵が何をしようとしているか察知することです。

そのためには敵のタイプや癖を推測する必要があります。敵のタイプを知るには試合開始から10分くらい観察をすることが大事です。事前にスカウティングで判ればなおいいです。

観察のポイントは、敵のポジション、身体的特徴、ボールを持ったときの癖、性格です。これらのことからその敵のチーム内での役割を考えます。

チーム内の役割がそのままその敵の得意なプレーになっていることが多いので、敵はそのプレーをまず第一に実践してくるということを頭において守備にあたります。

テクニシャンタイプならかならず一回は切り返すとか、スピードのある選手は縦に仕掛けるとか、真面目そうな風貌の選手はワンツーを使うとか、得意なプレーのパターンはそれほど多くないはずです。

たくさんの試合を見たり、たくさんの試合をこなして、選手のタイプ分けや得意なプレーの分析を行えば、きっと実際の試合にも生きてくるはずです。

2010年8月19日

1対1の守備(1) 間合い

守備の基本は立つことです。守備は相手の前に立つことから始まります。つまり敵とゴールを結んだ線上で、できるだけ敵に近い位置にポジションをとることで、ボールを奪取したり、パスコースを消したりすることができます。

しかし、ただ敵の正面に立つだけではうまく守備ができません。対応する相手によって間合い(相手との距離や角度)を変えます。

間合いを調整することで、敵が得意なプレーをしてきた時に備えてそのプレーを潰すポジショニングがとれます。さらに敵の不得意なプレーを促します。そうすることで、敵の攻撃が成功する確率を低めるのです。

間合いの変え方は敵の特徴を見て決めます。

敵は足が速いのか、利き足はどちらか、当たりが強いか、テクニックがあるのか、どんな癖があるのか、チームプレーを得意としているか、勝気な性格か、チーム内で信用されているのか、こういうことを考えていくことで少しずつ敵の得意なプレーが読めてきます。

最も真剣に見極めなければならない特徴は、スピードと利き足です。なぜなら、スピードに自信のある選手ほど、ドリブルでしかけてくる傾向が強く、また、キックに自信がある選手ほどシュートやクロスを利き足で行おうとするからです。そして、彼らの特徴を活かされてしまうとチームとしてピンチを招く可能性が高いのです。

具体的に言うと、右利きの選手には左足でキックさせる方向に追い込んでいき、足の速い選手に対しては縦に大きくリードを取って内側にドリブルさせるように仕向けます。

図を使うと下のようになります。


左側はサイドでの攻防、右側はピッチ中央での攻防とします。

基本的には1の位置です。右側が中央線からずれているのは、半身になる必要があるからで、この場合左足が前になっています。

2は敵の選手の足が速い場合です。このように、敵から距離をとり且つ敵の利き足側(縦側)にずれてポジションが取れれば、敵が縦にスピード勝負を挑んできた場合こちらのほうが有利な位置からスタートができます。

スピードに優れた選手は縦への突破を好む傾向があります。さらにボールを体から離してランウィズザボールという形で勝負してくることが多いので、縦に仕掛けるボールタッチの直前に後方へ走り出せば、相手とボールの間に自分の体を入れて奪うことができます。これはとても有効なサイドアタッカー対策です。

3は敵の選手の足が遅い場合です。足の遅い選手はテクニシャンである可能性があります。テクニックに優れた選手は内側に切れ込むプレーを好むので、図の左側の場合3の位置をとり縦にドリブルさせるように促します。そして、タッチラインへ追い込んでいき、体を寄せるかバックパスをさせます。

テクニシャン系の選手とピッチ中央付近で対峙したときは利き足とは逆方向へ追い込んでいきます。図の右側で敵が右利きだった場合は、3のポジションをとって、距離を詰め決して飛び込まず慎重に対応します。

こういった対処法は、じゃんけんをするときに事前に自分が何を出すか宣誓することに似ています。自分がグーを出すと言って相手が素直に信じる性格と知っていればチョキをだすし、深読みする性格ならばパーを出せば勝てますよね。

なにが言いたいかと言うと、守備側が間合いを変えることは攻撃側に判断を促すことになります。その思考の流れを先にたどって敵の行動を予測することができれば、身体能力の差を埋めて敵の突破を防ぐことができます。

このように対応する相手に合わせて間合いを調整することで、勝つ可能性を高めることができます。余裕を持って1対1に臨むために、アプローチの瞬間に理想の間合いをとれるか、ということもサッカーの醍醐味のひとつだと思います。

DFの意識

ここからは守備についての考察をまとめていきます。

守備と攻撃は表裏一体です。守備の仕方を知ることこそ、攻撃を強化するヒントになりますし、逆もしかりです。

選手同士はピッチ上で常に相手の考えてることを考えてることを忘れてはいけません。

サッカーでは基本的にボールを持っているほうが有利です。なぜかというと攻撃側は常に先にアクションを起こせるからです。守備側というのは常に不利な状況からスタートしなければなりません。

攻撃側のアクションを確認してから動き出すと、常に守備側が一歩遅れてしまいます。そこで守備側は先読み予測をして、攻撃側を封じようとします。

ここでは状況別に守備側の基本的な予測の立て方を説明していきます。まず1対1からはじめ徐々に複雑なシチュエーションに広げていきます。

2010年8月18日

マタドールターン

シャビやイニエスタは中盤で圧倒的なボールキープ力を誇ります。その彼らのキープ力を技術的な側面に絞って説明するなら、ポイントは2つあります。

2歩1触のドリブルとこれから紹介するマタドールターン(名称は僕が勝手につけました)です。

マタドールターンとは円を描くようにドリブルする技術のことです。シャビやイニエスタはこの技術を1試合中に10回以上使ってボールを守り新たな展開へ持っていきます。

実際にやってみました↓


では実際の試合でどう使われているかというと↓


背後の敵の動きを確認しながらターンする方向を変えています。完璧なテクニックに加えて見事な状況判断力です。

このターンが有効なわけは、ワンタッチ毎に周りの状況に合わせてプレーの向きを変えられることもそうですが、もう一つの秘訣は急激に向きを変えるのではなく、わざと少しずつ向きをずらすことで、敵に自分を追わせて敵が動いたスペースを有効に活用できるからです。

なぜ180度のターンをするより有利なのかを説明します。

まず、サッカーでは常に攻撃方向というものが存在し、逆に言えばDFには守備の方向が原則的に決まっています。つまり、DFは概ねボール保持者と自陣ゴールの間に自分の体を入れようとしてボールを追ってきます。この原則を頭に入れておけば、後ろ(例えば左斜め後ろ)から寄せてきた相手に対しては、その逆方向(右)に向かってマタドールターンを使用すれば、ボールを奪わずにスペースを生み出し前を向いて落ち着いてプレーができます。

そして、ボール保持者は体の正面側にしかプレー(パスやドリブル)ができないという原則がDFの頭の中には刷り込まれています。なので、一度ボールよりも自陣側に帰陣したDFがボールを奪いにくるときは、ボール保持者の体の正面側に寄せてきます。このときに旋回するように進行方向を少しずつ変えてターンすると、相手DFを釣り出しつつ逆サイドへの展開が可能になるのです。

また、確実な技術で行えば、敵と自分の身体能力差が関係なくなります。マタドールターンは曲線的なプレーなので走力は関係ありません。寄せてきた敵の体格が優れていても、ターン中は常にボールと相手の間に自分の体が入っている状態なので、敵が無理に奪いに来たらファウルを得られます。

マタドールターンは純粋にテクニックと状況判断力だけで敵を打ち負かせる方法なのです。

一生懸命追ってくる相手ほど簡単にいなすことができます。180度のターンではその動きが相手に読まれやすい上に、身体能力の高いDFを振り切ることが非常に難しくなってきます。これは180度ターンが直線的なので動作が大きくなりがちで、ボールを体から離してしまう選手が多いからだと思います。

マタドールターンは多用すると相手に読まれて、簡単にボールロストし、ピンチを招きかねません。実戦形式の練習で、背負ったDFを見ながら内回り外回りを切り返せる練習をしましょう。

また、頭に入れて欲しいこととして、この技術を使用するとチームとしての攻撃スピードがガクッと落ちます。つまりタメができるプレーなのです。状況判断がしっかりできないと、せっかくのカウンターのチャンスをみすみす逃してしまったりして、チームのためになりません。逆につないでる途中で詰まってしまったときに使用して、時間を作りながら空いたスペースを攻撃するということもできます。

簡単に言うと、この技術は目の前の景色や状況を大きく変えることができるのです。

次→優れたドリブルのスタイル 2歩1触の可能性

ジダンの使用例→ボディコンタクト4 ジダンに学ぶルックダウンの必要性

2010年8月12日

うまくなるサッカー観戦の仕方

今回はサッカー観戦(TV)の仕方についての記事です。

何を考えながらサッカーを見るかということはとても大切なことです。それによってその試合から引き出せるサッカーのエッセンスは変わってきます。ここでは、選手の視点から観戦する場合、どのように見れば、少しでも多くのサッカー的訓示を得られるか紹介します

 いい試合を選ぶ
何のためにサッカーを見るかというと、自分がうまくなるためです。自分がうまくなるためには、参考になるプレーがたくさん詰まった試合を見るのが一番いいのです。

しかし、ここで勘違いしてはいけません。参考になるプレーとは、自分にもできそうなプレーのことです。身長150cmなのにトゥーリオのような相手の上にのしかかってのヘディングをまねしようとしたり、中学生なのに40M以上のロングフィードにジェラール・ピケのような精度を求めるのは、無理があります。

また、中学生の試合とJリーグの試合では選手のキック力や走力が違うので、選手間の距離も変わってきますし、総じては戦術的なレベルも大きく変わってきます。

このように自分のレベルとはかけ離れた試合から何かを学ぼうとしても、自分の普段の試合には活かせないことが多いと思います。

なので、観戦するのにいい試合というのは、自分のレベルに近くて且ついいプレーが見られる試合です。

たとえば、自分と近い世代のW杯や、自分と同じ年齢の選手が争う全国大会の試合です。

このピッチで戦う選手たちはきっと自分と同じ問題にぶつかっているに違いありません。同じようなプレッシャーと戦い、同じような場面に出くわし、それを解決しているのです。その方法を盗み真似することで、自分が出場する試合にも活きてくると思います。

結論1
同世代のトップレベルの試合から、自分の試合に活かせるプレーを学びましょう。


2 何度も繰り返し同じ試合を見る
いい試合を見つけたら、それを録画し何度も繰り返し見ましょう。はじめはどのように得点が推移したか確認し、その試合の流れをつかみ、次になぜ得点が決まったかということに注意しながらゴールの5~10分前から見てみます。そして、一人の選手に着目しその選手だけを追うように見ていきます。

何度も同じ試合を見ていると、一度見ただけでは気づかないような細かいところに徐々に気がついていきます。試合の次の展開が頭に入っていれば、さらに他の選手の動きに目がいくようになるからです。そして、サッカーのエッセンスはそういう目立たない動きに隠れている場合が多いのです。

元日本代表監督の岡田さんが南アW杯直前にシステム変更を決断したのは、代表戦をビデオで5回ほど繰り返し見たときだと、インタビューに答えていました。

結論2 サッカー観戦は一度きりではなく、何度も同じ試合を見ることでより理解が深まります。

3 ひとりの選手に注目する
いいプレーを盗むにはいい選手を見つけることから始まります。いい選手とはもちろん活躍してチームに多大な貢献をしている選手のことを指すのですが、ここでも参考にすべき選手の選び方があります。

それは、自分と同じポジションをプレーしていることと、自分と身体的特徴が似ていることです。

自分と同じポジションで身体能力が近い選手が、より高いレベルの試合で活躍していれば、そこには必ず参考にすべきプレーがあります。その選手にボールが回ってくる10秒前くらいからスロー再生して一挙手一投足に注目してみてください。そしてその場で真似をしてみてください。そこには今までの自分にはなかった新しい動きやアイディアが示されていると思います。

また、その選手の視野には何が映っているかということを想像しながらプレーを見てみてください。そうすると、一見簡単に見えるプレーもその難しさがよくわかり、シンプルなプレーが自分にはピッチ上でできていないことがよくわかります。

結論3 自分と同じポジションの選手を追い続け、ボールに絡んだときは一時停止やスロー再生で確認することで、新たな発見が生まれます

以上の点に気をつけて観戦をすると、得点の少ない盛り上がりに欠けるような試合も、とても興味深く面白く見えてくるものです。


補足1:
テレビ観戦ではピッチ全体の動きが見えないから、スタンドで観戦したほうがいいという主張もあると思います。しかし、スタンド観戦ではスロー再生や一時停止ができません。録画という技術をつかって時間を引き延ばしてサッカーを考えられることがテレビ観戦の強みです。スタンド観戦ではリアルタイムでピッチ上で起こったことを理解しなければならないという高度なサッカー戦術眼が求められます。なので、スタンド観戦をしながらサッカーの理解を深めるにはサッカーの理解が深い人を隣において解説してもらうのが一番いい方法だと思います。スタンド観戦も一長一短ということです。

補足2:
僕がこの観戦方法を思いついたのは2003年U-17世界選手権でセスク・ファブレガスのプレーを見たときです。背丈もそれほど変わらず、どちらかというと細身のセスクが中盤でボールを全く失わずにパスをさばいていく様は衝撃的でした。自分もなんとかしてあんなプレーをしたいと思って食い入るように彼のプレーを分析していくと、少しずつそのしくみが理解できるようになりました。

補足3:
本当に上手い人のプレーを間近で見たければ、近くの社会人サッカーの試合を見に行くといいでしょう。社会人になってもサッカーを続けているということは相当サッカーが好きということだし、それなりに上手い人が揃っているはずです。高校の部活でレギュラー主力のうち2〜3人しか社会人でサッカーを続ける人はいません。それが18歳〜38歳くらいまで集まったチームでは、普通に考えて部活より高いレベルの試合を期待できます。ピッチサイドでの観戦も無料なので、上手い人のプレーを盗むには絶好の機会です。是非足を運んでみてください。


2010年8月11日

メッシのドリブル3-4 さらにステップワーク

ここまで、ステップワークについて解説してきました。メッシのステップワークは敵を欺くと同時に、自らの身体をコントロールするために、無駄な動きが一切そぎ落とされた芸術だということがわかりました。

今回は補足として、

メッシのステップワークはラグビーのステップワークに似てる

ことと、

メッシはさらに細かい足の踏み替えを行っている

ということを書いていきます。

これを見てください。↓


特に3:00から始まるシーンではボール保持者が幾度となく足の踏み替えを行って敵を欺いています。

このステップを図にしますと、



となります。青い楕円は腰を表しています。慣性と重心のコントロールで見かけとは反対の方向に進んでいくステップです。このとき4歩目の左足には相当の力が加わります。

この重心移動の仕方は、GKのPKストップのステップワークやスノーボードやバスケットボールの動きにも似てると思います。

ではこれをサッカーに応用すると、↓



となり、メッシの動きとそっくりになってきます。個人的にはラグビーの派手なフェイクより、普通のランニングからあっという間に方向転換してしまうメッシのほうが美しさがあるように思います。


また、さらに細かいステップを刻んでる件についてですが、これは動画がないので説明しがたいんですが、ひとつ記憶に新しい場面を言うと、南アW杯のアルゼンチン対韓国戦で見せた、前半終了間際のメッシのチップシュート。このシュートを打つ前になぜかメッシはターンをするのに2タッチしているんです。

右に流れたボールを左足アウトサイドで一度止めて、体制を立て直してからもう一度タッチして左に流して、シュートを打っています。このときのスムーズさというか速さが半端なく速く、しかも4人くらいいたDFと全く逆の動きをして、シュートのためのスペースを見つけています。↓


こういった、ターンをするのに2タッチする動作は他の場面でも多々見られます。

こうすることで、1タッチでボールを止めて相手の動きを見てから、2タッチ目で確実に相手の逆を突くようにしているんではないでしょうか。

それにしても、このときの足の踏み換えの速度は異常です。

追記:メッシの細かいステップからのターンをここでは2ステップと命名しました。2ステップの詳しい説明については右の「メッシの2ステップシリーズ」を御覧ください。

次は→メッシのドリブル タックルをかわす

メッシのドリブル3-3 実際にやってみる

前回の投稿は、メッシのワンプレーの解説に終始してしまいました。ここで、もう一度メッシのドリブルのポイントを整理してみます。

・足の踏み替えを行う→軸足をすばやく前に送り、大きく踏み込む

・切り返すときのボールタッチをした足で、地面を強く蹴り加速する

自分は右利きなのでドリブルのリズムは

右 左 右   右 左 右

となります。ターンを決める直前に軸足(左足)を2度踏みする動作がキーポイントです。
しかもそのステップをタタンと素早く決めます。

するとこうなります。↓


迫力がぜんぜんありません。。。だけど、タイミングが図りづらく見えると思います。まるで地面の上を滑っているような。

これを対人で試すと今まで見たこともないような、とても面白い景色が見れます。
自分の時間が抜け落ちてしまったような、一瞬自分でも自分を捕まえられない時間みたいな感覚を得られます。

まずはボールなしで練習し、ボールを使う段になったら初めはゆっくりと、徐々にスピードを上げて行いましょう。すると、ある地点で体がついていかなくなると思います。こんなときは、軸足を着く位置を調整したり、お尻を進行方向に落とすことで重心を移動するとうまくいきます。膝が痛くなることもあると思いますが、この動きに必要なのは筋力ではなくバランス感覚とコーディネーション(筋肉の調整力)です。体が痛くなるということは体の使い方が間違っている可能性があります。無理のない動きを追求しましょう。

まぁ、実際試合で使えるレベルまで磨けるかどうかは選手しだいで、僕は全く試合ではできません。試合で使うにはさらにスピードや判断力を磨かないとだめです。

次は→メッシのドリブル さらにステップワーク

メッシのドリブル3-2 足の踏み換え

ここまで、メッシがステップワークのリズムを変えることで、DFからすると不測のタイミングでドリブル突破を仕掛けていたということを説明してきました。

実際に、このリズムを出すにはステップワークをコントロールすることが不可欠です。

messiが出場した試合を録画して、スローモーションで見てみてください。録画してない場合はこちらのビデオを参照してください↓


0:00で一時停止すると、右足が地についてます。数秒送ると、次に地面につく足は左足ですがほとんど地面を蹴っていません。そして右足で大きな負荷をかけスピードを殺して、鋭く左足でボールの勢いを止めています。すかさずダブルタッチで縦に突破を図っています。

ここで整理すると、メッシは右足でケンケンのような格好でスピードの変化をつけてから、左足の2タッチで突破を図っています。僕はこれを見たとき、右足の使い方がメッシのドリブルを理解するのに重要なのではないかと考えました。

他の試合のプレーをスロー解析しても、メッシは意図的に右足を2度連続して地面につくようなステップワークが多く見られたのです。

これは通常のランニングのリズムでは生まれ得ない体術だといえます。普通は右左右左と各足が地面を突っ張って体を支えてますから。

メッシのステップワークを可能にするには、あるタイミングで突っ張る力を抜いて、つまずいたような格好で軸足(メッシなら右足)を二回つく必要があります。

もう一度先ほどのビデオの0:00に戻ってください。これより前の映像がないのでなんともいえないのですが、この瞬間メッシの体はあたかも宙に浮いたようになっています。右足はわずかにつま先が地についてるのみで、右足で地面を強く踏み込んでいるようには見えません。

推測ですが、このとき右足は地面を踏むのではなく、地面を払うあるいは掃くようにしてすばやく右足自体を前に振り出し、それによって得たリーチを活かして急激に体にプレーキをかけているのだと思います。その証拠に次に右足をついたときには、その位置は体よりも大きく前方に投げ出され、下半身が後傾しています。(0:03)

また、0:00の右足のあと、わずかに左足が地に着いていますが、この間隔は他のステップと比べて半分以下の短さになっています。試しにはじめからメッシのステップワークを数えてみてください。右左右左と。ここがリズムの変化です。

そして軸足の踏み込みと刈り込むようなボールタッチで急激にプレーキをかけています。実際にやるとわかるんですが、一定の速度以上で走りながら急に横移動するには、軸足の踏ん張りだけでは足りないのです。足一本に負荷がすべてかかってしまい膝を悪くするか腰を痛めてしまうことになります。アウトサイドでの切り返しに使った利き足を主に使用して体重移動することで、縦方向の力を横に逃がすことができるようになります。

そしてメッシはアウトインのダブルタッチの2タッチ目、インサイドでタッチした直後の左足を踏ん張って前へと加速しています。

アウトサイドでの切り返しの角度は必要最低限になっており、むしろボールはわずかに前へ転がっていて、メッシの進路を先読みしたDF14番が僅かに左に動いてできたスペースに侵入しています。このときDF14番には、メッシのブレーキをかけるときに右足を大きく投げ出す動作が、縦へ突破しようとする動作に見えていたはずです。マシューズフェイントといわれる動作ですね。

後ろから来たDFはメッシの左足アウトサイドで切り返したボールを奪おうとして、アプローチのスピードを緩めました。その瞬間メッシは左足インサイドでダブルタッチを決め、前へ進んだので、DFの対応を遅らせることができました。

本当に理想的なドリブル突破です。無駄な動きがなく、相手の力を利用した進路のとり方。またボールに細かく触ることで、DFに次の動きを読まれにくくする。リアル版ファントムドリブルですね。

次は→メッシのドリブル 実際にやってみる

浮き球の処理-使えるリフティング技2-

ボールが浮いている時間というのは攻撃側守備側の区別があやふやになります。つまりルーズボール状態ということです。ボール保持者の近くにボールがあっても、ボール保持者がボールに触れていなかったり、ボールをすぐに触れられる状態でなければ、それはルーズボールと言えるのです。

なのでDFはその隙をついてボールを触ろうとしてきます。この攻防を制することができなければ、美しいサッカー、ポゼッションサッカーは実現しません。

そこで必要なのが、ボールを高い位置で触る意識です。高い位置で触る=相手より早く触るということです。

よくボールをバウンドさせたまま、体を張ってキープしようとする選手がいますが、それだと、相手が自分より体が大きかったり、力が強かったときにボールを失ってしまいます。

肝心なのはボールにプレーするということです。ボールにプレーをしていて尚且つ相手より一足先にプレーをしていれば、ファウルをもらえる可能性も高くなります。

では、実際に胸トラップしたボールをスムーズにかつ安全に次のプレーに生かす練習法を紹介します。


あんまうまくないんですけど。。。

大事なのは膝より高い位置でコントロールすることで、DFに寄せられる時間を与えないということです。

それとこの「足上げリフティング」はリフティングという技術がほとんど唯一、ピッチ上で実践的かつ能率的かつ華麗に活かされる場面だと思います。

足上げリフティングをしつつ、歩いたり走ったり回ったりするのもいい練習になると思います。

変なジャグリング技に耽らず、このような実際的に使える技術の習得に勤しみましょう。

次は→マタドールターン

2歩1触のドリブルのための基礎練習

2歩1触のドリブルは僕が掲げるサッカー論の原子といってもいいほど、重要な出発点です。

そこでこのドリブルがスムーズにできるような練習法を紹介しようと思います。

今、日本のサッカー界に氾濫している、ピッチ上でまるで役に立たない、ジャグリング等のテクニックを練習するよりよっぽどこっちのほうが役に立つと思います。

すべてのフットボーラーのための超基礎練習


利き足を重点的に練習してください。逆足は実践では使う頻度が低いので。

ボールを触れる箇所は足の甲の少し外側、くるぶしと足の中指を結んだ線の辺りです。なぜここでボールタッチするかというと、一番安定してコントロールができるからです。つま先では硬すぎ、アウトサイドでは走りづらい、インサイド然り。この方法が一番やわらかいタッチができるのです。

初めてやる人は「インステップでボールをなでる」ことがストレスでならないと思います。普段歩いたり走ったりするときに、あのように足の甲を伸ばすことはないからです。また、ボールが思ったとおりに転がってくれないと思います。

問題を解決してくれるコツとしては、ヒザを持ち上げることです。足の甲を伸ばしたぶんだけヒザを持ち上げれば、爪先が地面に引っかかることはありません。それに足がボールをなでるように動くのでとてもやわらかいタッチが可能になります。

とは言っても、実際には結構難しいです。僕の経験で恐縮ですが、自分は18歳のときに3ヶ月特訓してやっとできるようになりました。

全速力の6~7割のスピードを維持して2歩1触が出来ればひとまずは合格と言えます。ただしポイントは左右の足の着地間隔を普通に走るときと同じようにすることです。右利きならばタンウンタンウンタンウン(右左右左右左)と同じリズムをキープするように心がけましょう。

初めはタットタットタットと利き足が宙に浮く時間が長くなると思いますが、このリズムを均等に矯正できれば、2歩1触ドリブルの高速化が可能になります。そうすれば実際の試合でも運び屋として活躍できるようになるでしょう。

ここにすばらしいお手本を載せておきます。0:37や2:08のようなプレーが理想的です。




メッシのようなボールタッチは幼少期からのボールとの戯れの中で可能になるものであって、一朝一夕では身につきません。ましてや骨格が出来上がってからでは遅すぎます。そこで僕が提唱するのが上の方法であって、これならば体が成長しきってからでもボールタッチを柔らかくして細かいドリブルを身につけることが出来ると考えています。

関連記事→優れたドリブルのスタイル 2歩1触の可能性(まとめ)

ツータッチコントロールが有利なわけ

なぜ僕が2タッチコントロールを薦めるかというと以下の有利な点があるからです。

・1タッチ目のコントロールをボールをじっくり見て行えるので、集中力が上がりミスが減る。


・2タッチ目に顔が上がるので落ち着いた判断ができる。


・DFにボールの行き先や次のプレーを読まれづらくなる。場合によっては寄せてきたDFを見ながら2タッチ目で逆をつくプレーができる。


・ボールが体から離れづらくなるので、DFに寄せられる前に次のプレーに移れる。


・いつも同じ場所にボールを置くことができるので、いつも同じ体勢からキックができる。

このようにたくさんの利点が2タッチコントロールにはあります。

特に土のグラウンドでプレーする機会の多いユース年代の選手には、ぜひ身に付けてもらいたいです。なぜなら、イレギュラーバウンドの多い土のピッチ上ではいかに早くボールを自分のものにするかが大事で、その際に、ボールを見てトラップすることと、2タッチ目にボールの居場所を確認しながらルックアップするという方法はとても理にかなっているからです。

これは触覚を情報収集方法として使うということです。足の甲でボールを在りかを確認するときはもちろんボールの方を見てはいません。このタイミングで「ボールに触れている」という安心感からボールから目を離し、周りを見ることができるのです。

1タッチ目でボールが浮いてしまっても、2タッチ目でボールを整えながらルックアップできれば、あわてずに次のプレーに移れます。

また現代サッカーではボールを保持したまま静止しているとすぐに相手に囲まれてボールを失ってしまいますので、2タッチ目でボールを動かしながら、状況に合わせて小さなスペースを探してプレーすることが自ずと必要になってきます。

実演してみましたので、参考にしてください。(かなり揺れますがご了承ください)


ワンタッチコントロールと比べてもプレースピードは落ちていませんよね?それどころか一歩一歩の動作が無駄になっていない感じが、よりスムーズな印象さえ与えていると思います。

基本的な考え方として、必ず2タッチ目を利き足で行って、一歩の助走ですぐに利き足でキックできる位置、(自分ならやや右斜め前)にボールを置くということがあります。なので逆足でこの練習をする必要はまったくありません。

なぜならピッチ上であえて自分の不得意な足を多く使おうとする選手は少ないからです。

軽くジャンプして1タッチ目でトラップしたら利き足と逆足になる軸足で着地し、次に利き足で蹴りやすい位置にコントロールします。

軸足を着地させる場所を瞬時に変えられるように練習しましょう。また全速力の5割から7割くらいの速度で走ってるときにも、この方法でボールを受けられるようにすると、プレーの精度があがります。

次→ボールを流すプレーは止めよう

2010年8月1日

メッシのドリブル3-1 独特のリズム

3 メッシはボールを2歩で1回触る (細かく触る)

よく、サッカー解説者が優れたドリブラーを指してこの選手は「独特のリズム」を持っていると言いますね。そう言われても全くピンとこないのが一般の視聴者や、サッカーを学ぶ子供たちです。

また、多くのサッカー指導者やサッカー選手も自分でできるプレーを、わかりやすい言葉に置き換えることができていないと思います。

そこでこのなぞの言葉「独特のリズム」がピッチ上で再現される過程を、メッシのドリブルを分解することで明かしていきたいと思います。

まず、前提としてメッシは2歩1触のドリブルをします。

この際のステップワークを文字にすると (右足が地面と接触したとき 右 と表すことにします。)

 左  左  左  左


です。太字のときにボールに触れています。つまり右足が地に着き、左足が宙に浮いてるときにボールタッチを行っていることを表しています。

ではメッシが方向転換をして相手を抜き去るときはどうなっているかというと

 左  左  左   左  左

です。

4つ目の右のあとにまた右がきています(斜体になっている2つの右)。メッシはこのときに方向転換を行っています。

リズムで言うと、普通は

タンウンタンウンタンウンタンウン

ですが、方向転換をするときは

タンウンタンウンタンウンタタンウンタンウン

となり太字の2つのはタタという早いスピードで行われます。

とここまで説明して独特のリズムの話に戻りますが、この2歩1触のドリブルをしていると必ずリズムが生まれます。タンウンタンウンとように。するとDFの目にはこのリズムが焼き付けられ、“タン”のときにしかアクションが起こらないという刷り込みがされます。これは当然のことです。ボールを触るときにしか、ボールの進行方向を変えることはできませんから。

そこでメッシはDFが予測できないタイミングでボールをタッチすることでうまく相手の逆を突いていくのです。

つまり独特のリズムというのは、ドリブラーが意図的に作り出したリズムにDFを順応させ、そのリズムの裏を取ってDFを欺くということなのだと思います。

これをされるとDFにとっては一瞬メッシを見失ったかのような錯覚にとらわれますし
、逆にこのドリブルを自分ができるようになると、今までと全く違った世界が見えてくるというか、時間が一瞬抜け落ちたような感覚を味わえます。まるでマイケルジョーダンのようなナンバ的動きにも似てるといえなくもないと思います。

0:45らへんがヤバイですね↓


ドリブルではないですが↓もリズムの変化を用いたプレーです。「メッシの変態パス」↓


これだけでは説明不足なので次はステップワークについて細かく分解して見ます。

次は→メッシのドリブル 足の踏み変え

関連記事→音楽、リズム、ドリブル

メッシのドリブル2 ゴールに向かう

2 メッシはドリブル中ほとんど大きな動作を伴うフェイントをしない

ここで言うフェイントというのはたとえばシザーズ(ボールをまたぐ動作)であったり、よくC・ロナウドがするような人目を引くというか、目立つ動作のことです。

こういった相手をだますためのテクニックなしにどうやってメッシはドリブル突破を図っているのでしょうか。

ひとつの理由にメッシはライン取りがとてもうまいということが挙げられます。つまり常に相手のいやなコースに進入しようとする「仕掛け」です。

もっと簡単に言うとメッシはスペースが与えられた状態からドリブルを開始するときに、必ずといっていいほど、ゴールに向かって行きます。

たとえば右サイドのタッチラインそばに開いてボールを受けたときは、自陣ゴールラインを背にして左斜め前に向かって進んでいきます。コーナーフラッグ付近からは、ゴールラインと平行に進みます。

この方向には必ず相手DFがいます。そのDFのほぼ正面に向かってドリブルを開始するのです。

するとメッシとDFが接近するにしたがって緊張感が高まります。そして、DFが先にボールを触れると思ってしまうようなある種“ルーズボール状態”が訪れます。この瞬間にメッシは先にボールに触ることで突破をしていくのです。

この瞬間何が起きているかを理解することこそ、メッシのドリブルを理解することになります。これについては詳しくは次の投稿で書きます。

メッシは相手DFのほぼ正面に向かってドリブルを開始すると書きましたが、それは相手DFが止まっているときだけで、実際ピッチ上では相手DFの動きに合わせてドリブルのライン取りを変えています。

これはメッシが常にゴールへ向かってドリブルをするので、遅れて対応する相手がメッシの進行方向にポジションを取ろうとするため、その逆側に切り返していけば簡単に入れ替わることができるということです。

たとえばメッシから見て左から右に動きながら対応するDFをかわすときは、相手DFの左脇をすり抜けるように切り返します。つまり相手の背中側にドリブルの進路を取るのです。

あの有名な五人抜きゴールを思い出してもらえればよくわかります。2人目と3人目を交わすとき、メッシの縦へのドリブルの進路を消そうとポジションを修正するDFの、ともに背中側にタイミングよく左足アウトサイドでボールを持ち出すことで、突破することができています。



ドリブルの方向がまさにゴールへ向かって最短で、余計な回り道はひとつもないですね。

次は→メッシのドリブル 独特のリズム

メッシのドリブル1 2歩1触

1 メッシはほとんど利き足の左足でしかボールに触れない

これについてさらに細かく述べると、メッシはトップスピード時以外は

      2歩で1回ボールに触れます。


これがメッシのドリブルの肝です。左足のアウトサイドともインステップともつかない場所で、推測するに靴紐を通す穴のラインの外側あたりでボールをなでるようにして、自分の思い通りのところにコントロールしています。体から離れすぎず、近すぎず。

このドリブルの特徴は、

1 いつでもキックができる → いつでもパスで逃げたりキックフェイントを使える

2 いつでも方向転換ができる → 取られそうになったら体を入れられる

3 ボールがいつも同じところにあるので、ボールを見なくてもよい → 顔が上がる

4 いつも同じ体勢でキックが出来る → ボディバランスを崩さないので強いパスが蹴れる

といった点です。

別の記事に2歩1触のドリブルの練習方法を載せました。↓
2歩1触のドリブルのための基礎練

こういったドリブルは多くのクラック(ゲームメーカーの役割を担うテクニシャン)やサイドアタッカーが使いますし、Jリーグでも見られます。

でもなんでメッシだけがあれほどのドリブル突破を成功させているのか。これはもちろんメッシの身体能力、つまりスピードという要因を欠くことはできません。しかし、スピードだけが理由ではないと思います。ではほかの要因は何かというと、それは低い身長と優れたステップワークです。

とここでステップワークの話に移る前に、メッシのドリブルをする方向について書きたいと思います。

次は→メッシのドリブル ドリブルの方向

~ステップワークの天才~ メッシのドリブルを解析 

なぜメッシをとりあげるかというと、現在最も成功している選手だからです。なぜ最も成功しているか、その僕なりの答えは、メッシは現代サッカーにおいて必要な技術を高いレベルで実践しているからです。

どういうことかというと、スペースと時間のないなかで、無駄のない洗練されたプレーで人々を魅了している選手の代表がメッシだと思うわけです。

悲しいことに一昔前と違って現在のサッカー界では、エンターテイメントのための技術は発揮しづらくなっています。トラップ、ドリブル、パス、オフザボールの動きに至るまで、戦術的な判断を伴うゴールに直結したプレーを求められています。

最も成功している選手のプレーの特徴が判れば、そこから逆算的にサッカー上達への道筋が掴めるのではないかということが、この一連の記事の要旨です。

そこで誰もが認めるサッカーの申し子、リオネル・メッシのドリブルを独自に分析し、一般の選手でも生かせるようなテクニックを抽出していきたいと思います。

ではメッシのドリブルの特徴を挙げてみましょう。

1 ほとんど利き足の左足でしかボールを触らない

2 ほとんど(大きな動作を伴う)フェイントをしない

3 細かくボールを触る 

4 トップスピード時には右足でもボールに触る

5 ディフェンスはほとんど対応が後手になっている。予測ができていない

以上の特徴がすべてトータルしてあの素晴らしいパフォーマンスに繋がってると思います。特にメッシのステップワークがいかに優れているかについて詳しく書いていきます。

次は→メッシのドリブル 2歩1触