この試合、0-2とホームで黒星を喫したバルセロナは、カンプノウに乗り込んできたエルクレスというチームに戦術を完璧に分析され、バルサのフォーメーションの穴といえる左サイドバックの前のスペースをガンガン使われてしまいました。
どういうことかというと、それを説明するにはまずバルサのポゼッションの方法について説明する必要があります。ちなみに今回は、リズムをつかみかけながらも失点した後半の戦い方に焦点を絞って解説します。
バルサのビルドアップは前に記事に書いたようにセンターバックとピボーテ(ボランチ)の選手の配給から始まります。自陣でボールを回して相手陣内に相手を押し込むまではこのやり方でゾーンを上げます。
相手チームが完全にリトリートしてブロックを作ってきたら次の段階に入ります。それが下の図です。
上のパターンはメッシがメディアプンタ(トップ下のポジション)に入ったときです。変則的な1-3-3-3みたいな形になります。
↓のパターンはメッシが右サイドに張ってウィングとしてプレーするときのフォーメーションです。
CB:センターバック ピケ アビダル
LSB:左サイドバック マクスウェル
RSB:右サイドバック アドリアーノ
PIVOTE:ボランチ ケイタ
CMF:セントラルミッドフィルダー シャビ イニエスタ
WG:ウィング メッシ ペドロ
FW:フォワード ビジャ
このとき大事なのがLSB、CB、PIVOTEで作る1-3のラインです。シャビの役割は、インタビューでたびたび答えているように、パスとドリブルを使って、攻撃にかける時間を調整することで、全選手が正しいポジションにつくように促すことにあります。どういうことかというと、
「パスの方向やドリブルを使って時間とスペースを調整することで味方が正しいポジ ショニングをとるように促し、攻撃のスピードをコントロールすることで不用意にボールロストする危険を少なくし、攻から守への切り替えを素早くできるよう な陣形を保つ。」 サッカーマガジン特別号「スペイン革命 ~世界最強の秘密~」参照
つまり、縦パスを入れるのが速すぎて逆襲を喰らうことを避けたり、意思疎通のミスや技術ミスが起こらないように難しい状況でのパス交換を避け、ボールホルダーが常に余裕を持った状態でプレーが出来るように、ポジショニングを調整する必要があるということです。
このポジショニングというのが下の図の赤い丸で囲んだゾーンの選手たちのことです。
この図のように中盤から後ろの選手が、均等にスペースを埋めるようにポジションをとることの利点は2つあります。
1 パスコースを確保し、相手のブロック内に侵入できる位置取りがしやすいので、ピッチを広く使い効果的なパスワークが展開できる
2 ボールを奪われた際にすぐにプレスに行きやすい
実際ほとんど2の為にこの陣形を築いていると言っても語弊はないでしょう。バルサはボールロストした瞬間、赤丸で囲まれた5人の選手が前にスライドし、猛烈なプレスを、ボール奪取者にかけることで、高い位置でボールを奪い返します。一人センターバックがスイーパー役で余っているので、後ろのことを気にせずに猛プレスをかけます。もちろんFWやWGの選手も相手を後ろから追い掛け回します。この結果、ほとんど相手にボールを繋がせずに、PIVOTEのいるラインでボール奪取ができます。もちろん不用意なボールロストの後はこのプレスは機能しませんが。
この陣形を張ったときにボールロストすれば、どこでポゼッションを失おうとも、味方選手は必ず誰かしら相手選手の目の前に位置することが出来ます。そうすれば、プレスを掛け始める選手がアプローチに行く時間を最短にすることができます。
通常、ボール奪取後のボールホルダーは余裕があまりありません。努力して奪ったボールは丁寧に味方に繋ぎたいという心理が働きますし、ボール奪取直後にはつなぐために有効な視野というのは確保されにくいからです。つまり、ボール奪取者はなんとかして、フリーの味方にすぐにボールを渡したいと考えるのが普通です。この余裕のない状態を狙って、バルサの選手たちは猛プレスをかけるのだから、パスコースは読みやすいし、大概ボールを奪えてしまいます。少なくとも、プレスを突破され、帰陣しなければならない状況は避けることが出来ます。相手にクリアさせたボールを拾えばいいってことです。
このようにして、バルサのカウンターアタックはアタッキングサードで始まるように仕組まれているんです。そしてこれを続けることで、圧倒的なボールポゼッションを誇り、相手に攻撃をさせないことで失点の機会を減らしているのです。見事なバランス感覚とリスク管理と言わざるを得ません。
次は→つなぎ論番外6 バルサのプレスの弱点
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