ヘッドダウンというと、大抵の指導者はネガティブな印象を持っていると思います。「顔を上げろ」「したばかり向いているから判断が遅くなるんだ」、なんて檄を飛ばす光景は日本の育成年代で頻繁に見られると思います。しかし、ここではsilkyskill流コペルニクス的転回で、敵に1m以内に寄せられていたり、体が接触している時は下を向くことこそ有効な判断につながるという例を、超一流の選手だったジダンから学びたいと思います。
参考動画はこちら↓
まず、0:19から始まるプレーを見てみましょう。
ジダンがボールを止めた時に左後方から敵が来ました。
そして、足の裏でボールを引いて敵をいなそうとします。
この時ジダンの顔は完全に下を向いています。いわゆる「周りが見えていない」状態。ではジダンは何を見ているかというと、
敵の左足が伸びてボールに襲いかかろうとしている様子を見ています。(黄色矢印は視線を表す)
ジダンは左膝で相手の足をブロックしてボールを守っています。
そして、「敵は確実にボールに触れないな」と確信して体を入れ替え次のプレーに繋げています。
映像では確認できませんが、すぐ近くに味方がいたのでしょう。一連のプレーで一度も顔を上げずに画像の右方向へパスを送っています。
これは完全に顔を下げていても一定の範囲内(10m以内)であれば、周囲の状況を把握できるということを示唆しています。
次のプレーは0:26から始まります。
少し飛ばしましたが、ジダンが縦パスをミス、すかさずこぼれ球を拾って左の画像のシーンに移ります。
前進していたジダンは前方の敵を見て減速、方向転換を試みます。以前このブログで紹介したマタドールターンを使っています。
右足インサイドで左に切り返すと、敵はジダンの体の正面に向かってプレッシャーをかけようとします。いわゆる釣り出しってやつです。
ヘッドダウンしながら、さらに方向転換をします。
この時注目は、ヘッドダウンしながらもジダンの顔は敵のほうを向いていることです。
体は反転しかかっているのに、顔はまだ横方向を向いています。多分この時ジダンは視線の端で敵を捉えようとしていたはずです。
敵の足の運びを察知することで、敵との距離感を測ることができます。
横方向からの画像だとよく分かります。ジダンは完全にルックダウンしてボールへの注視と共に敵の動向を探ろうとしています。
ボールが安全だということが確認できたので、次のプレーに移行します。
完全に出し抜けました。もし、最初の段階でDFがジダンの背後に回ろうとしていたら、その動きを察知して、逆方向に回転していなすことが出来たと思います。
つまり、ルックダウンすることで背後の敵の守備意図を察知することが出来るのです。
次は2:33から始まるプレーです。
左サイドタッチライン際でボールを受けたジダン。サッカーではよくある光景です。
右足でボールを確保し、ジダンから向かって左側から敵が接近してきます。いわゆるスクリーンの状態。
後方からは味方の左SBがオーバーラップをかけてきています。
次の瞬間、足の裏でボールを引くことで、オーバーラップをする味方を使うかのようなフェイクを繰り出します。これにはDFを牽制する狙いがあります。
この時ジダンはまたもや完璧なヘッドダウンで、周囲の状況を確認しようとしています。
左の矢印は後方の味方の位置を確認する視線、右の矢印は敵の出方を見る視線を表します。
思ったより敵が近く、味方が遠いので、引いたボールを押し出し、スクリーンをより強固にかけます。
ヘッドダウンは続いたままで、ボールを注視しながら敵を見ています。
特に敵の左右の足のうち、どちらの足でタックルしにくるのかを見極めています。
敵の右足が伸びてきました。よって、ボールを敵の右足から遠ざけるように動かしました。ジダンから見ると右前です。このようにヘッドダウンした姿勢からなら、黄色矢印で示したように、自分の重心より後方の様子もよく見えます。
左手のブロックは相手を弾き飛ばす為ではなく、反作用の力で自分が遠ざかっていくように働きます。
水色矢印で示したのはジダンが加えた力、赤矢印はジダンに作用する力を示します。
これにより、ジダンは敵と距離をとって安全に次のプレーに繋げることができます。
作用、反作用の力で、敵はその場に止まり、ジダンは離れていきます。
まぁDFが足を伸ばした分、バランスを崩したのも一因ですが。
敵と距離を保った段階で、初めてルックアップします。
これらからわかることは、ジダンは敵が接近してくるときには顔を下げ、自分が敵から離れていく時に顔を上げているということです。接近してくる敵のエネルギーをしっかり受け止めて跳ね返すために先ずは球際、自分の足元の状況に集中します。そして、相手の力をうまく利用して(敵の姿勢を崩したり、接触によるエネルギーの伝達を経て)、敵との距離が離れ始める瞬間から顔を上げて次のプレーの準備を開始します。まさに達人の技ですね。
おさらいしますと、接触時はヘッドダウンすることで、敵の動向を探ることが大事です。
左図が示すとおり、顔を上げた状態と下げた状態では見える範囲が違います。(左図では見える範囲を水色で塗りつぶしました。)
顔を上げると、遠くまで見える代わりに後方や左右が死角になります。
一方、ルックダウンすると、近くしか見えない代償に、後方左右と足元中心に半径約2mくらい視認可能になります。
特に背後の状況を確認できるという意味で、下を向くことは非常に有効です。スクリーンした状態ではDFの足が背後の死角から襲いかかってきます。ボールを視野にいれながら、敵の足を見ることが出来れば、不意にタックルを受ける危険性が下がりますし、さらには上で見たように相手の力を利用して敵から離れる芸当もできるようになります。
みなさんもその場で立って下を向いてみてください。普段死角になっているあんなところやこんなところが眼に入ってきますよ。
次→ボディコンタクト5 エジルの並走からシュートへの持ち込み
更新おつかれさまです!!
返信削除いつもブログを拝見させていただいています。
今回のブログのテーマはボディコンタクトということで、
ジダン、メスト・エジル選手などの偉大な選手のプレーを、
silky skillsさんの解説を交えて見たことで、彼らのプレーのよさを改めて実感しました。
自分も、チャビやブスケッツがプレーしているポジションをやっていますが、このようなボディコンタクトというのを意識してプレーするということは、あまりやれていませんでした。なにせ、首をふって周囲の状況を確認し、的確なパスコースを見つけて、パスをするというので僕は精一杯だったからです。
ボランチの位置でやってはいけないボールロストをなくすために、今度はキープする力を身につけていきたいと思います。