そもそも、高速ドリブルを実現するには、どんどん加速する足のスピードに対して、細かいボールタッチを保たなければならないという背反する現象を解決しなければなりません。ボールコントロールの制御を考えた場合、普通ならドリブルスピードが全速力の7~8割で頭打ちになってしまうはずです。しかし、メッシやイニエスタ、ディマリア、ロッベンなどはほぼ全速力に近い速度でやすやすとドリブル突破を決めて見せます。
彼らがどのようにボールのスピードを制御しているのか、今回は写真、図解、グラフを総動員して説明してみましょう!
まず、走るとはどういうことか、という点から解説します。
左図に(絵心ないのには目を瞑ってください笑) 走る棒人間の下半身だけ取り出し、左右の足を色分けしてみました。
左図下部は左から右へ走る人間を横から見たところで、半楕円の矢印は片方の足(靴)の軌道を表しています。
このとき片足の軌道の移動ベクトルを進行方向にx、垂直方向にyと取ります。
地面から離れた足は、膝の屈折によりy方向に引き上げられ、股関節の引き寄せと共に円運動を描きつつ前方へ振り出されます。股関節が最大の屈折角を得る直前から膝の伸展が開始され、膝が丁度伸びきるあたりで足は接地します。この運動を左右交互に続け、接地と跳躍を繰り返すことが走るという動作のおおまかな流れです。
そこで、片方の足の速度がどのような変化をみせるのか、左図のモデルで確認したいと思います。
横軸は時間経過、縦軸は足の速度を進行方向 のベクトルのみ取り出したものです。
一歩が始まってから終わるまでに山がありますね。これは接地の瞬間には足の速度が0になることを示しています。当然、動かない地面と足が接触している間は、足が動くことはありませんから。
また、山の立ち上がりは緩やかに、なおかつ接地の直前も緩やかになっています(AとC) 。Aについては言えることは、一歩の始まりは踵をお尻に引き付ける動作から始まりますから、跳躍直後の足の進行方向ベクトルへの移動スピードは低いのです。Cについても、接地直前は足の速度を落とさないと地面につっかかって転んでしまいますから、スムーズな着地から大きな跳躍へ繋げるためにも、速度を落とす必要があります。
Bは山の頂点、すなわち足の速度が最高値を出す点を指します。この時は、逆足で地面を強く蹴り跳躍した直後で、 腿を引き上げ同時に膝の伸展を開始している瞬間です。写真に収めたら一番サマになる瞬間ですね。
(上のグラフは実際計測したものではありません。僕が勝手に頭の中で考えたものですから、その点にご留意ください。)
では、高速ドリブルをする際には足の軌道上のどの段階でボールタッチをすればよいのでしょう?
結論を先に述べると、高速ドリブルの際にはグラフで言うCの時、すなわち接地の直前にボールタッチするのが良いです。
なぜならこの時、足は接地へ向けて減速しており、ともすれば進行方向への速度が0かマイナスである場合もあるからです。足の速度が十分に遅ければ、それだけ余裕を持ってボールタッチの加減を調整することが可能で、これにより全速力でもボールが足に吸い付くような ドリブルが可能になるのです。
より具体的に示すと、左図のようになります。
A:逆足接地から蹴り足を引き上げます。
B:蹴り足を思い切り前へ降り出します。この時ボールタッチしようとすると足の速度が速すぎるあまり、タッチが大きくなりすぎてしまいます。
C:前回の記事でも書いたように、足首を伸ばし、その分だけ膝を持ち上げた姿勢で、スネを降ろすようにボールを上から下へプッシュします。この時、足の速度は、走行中最も遅くなるので容易にボールコントロールすることが出来ます。
では、実際にメッシの高速ドリブルのボールタッチを見てみましょう。
左に上の動画のシーンを抜き出してみました。
このシーンで、メッシはターンした後ワンタッチして、加速に入ろうとしています。
蹴り足を接地します。
跳躍します。
踵をお尻に引き付けるように蹴り足を前へ投げ出します。
逆足接地
この時、足の進行方向への速度は最大になります。
足首を伸ばした分だけ、膝を持ち上げた姿勢を取ります。
ボールタッチ直前
スネが地面からほぼ垂直に立ち上がり、足首が脱力してブラーと下がった状態です。
ボールタッチの瞬間
赤矢印の示すように、接地へ向けて足を下ろしながらボールに触れています。
このシーンではメッシは足の小指付近でボールタッチしていますね。
ボールの半分から上に接触し、下方向へ向かって擦り落としています。
膝から下は前へ振り出されていません。むしろ注目は、スネの位置が上4枚の写真と全く変わっていないことです。
これはメッシの移動スピードとスネの(すなわち足の)移動スピードが一体となっている証拠です。この状態で柔らかくボールをプッシュすれば、メッシの移動エネルギーが過不足なくボールに伝わります。
接地の瞬間
ボールが弱冠浮いています。これは、ボールを下から上へすくい上げたためではなく、逆に上から下へボールを擦ったことにより、ボールが地面に反発して浮いたものです。
まったくボディバランスを崩さず、かつはじめの写真と比べても、ボールとメッシの距離が変わっていません。メッシの移動スピードとボールの移動スピードが完全に調和しています。
スピードに乗った中でもボールを同じ位置に置けるということは、より多くのプレー選択肢を得ることにつながります。
下にボールタッチ前後の写真を3枚並べてみました。すると、驚愕の事実が浮かび上がります。
黄色い線は写真2のソックスの上端の高さを示しています。
前述のとおり、メッシはボールタッチの際、足を振り下ろしていることが分かります。これを証明したくて作った左の画像ですが。。。
面白いのは、ボールタッチの瞬間だけ足首が内転している点です。てっきり、アウトサイドでボールをコントロールするためかと思っていたんですが。この動画のフレームレートは60/secです。左の3つの写真が隣り合ったフレームとは限らないのですが、それでもごくごく短時間にメッシの左足首が内転し元に戻ったということになります。
これはすなわち、今流行りの「受動的変形」というやつではないでしょうか?
仮にメッシが意図的に足首を内転しアウトサイドでのボールタッチを試みたとしたら、連続写真はより多くのフレームでその様子を写し捉えたはずです。
ということは、前回の記事で、ドリブルの際には膝から下を脱力したほうが良いと書いたのは、メッシを基準にする限り、正しいということになります。
蹴球計画さんに多謝!!!
まとめ:
高速ドリブルを極めるには、
- 足首を伸ばした分だけ膝を持ち上げる
- スネを地面と垂直に立ち上げる
- 接地直前でボールタッチする
- ボールの上半分を下へ向かって擦る
- 膝下を脱力する
関連記事→優れたドリブルのスタイル 2歩1触の可能性
→メッシのドリブルの形1 1ステップと2ステップ
コメントさせていただきます。
返信削除メッシは高速ドリブルする時は少し真上に跳躍するイメージでしょうか?
すいません先ほど質問した者です。
返信削除メッシはボールを触る時
少しジャンプしながらボールを触る感じですか?
いつもこのブログを参考にしています。
返信削除上の記事に書いてある、「ボールの上半分を下へ向かって擦る」ということを意識すると、ドリブルのスピードを上げてもボールが足下から離れなくなりました。ありがとうございます。ただ、一つ疑問に思ったことがあるのですが、「2歩1触のドリブルのための基礎練習」で、足首を伸ばした分だけ膝を伸ばすことについては効果があると思うのですが、この練習は足の裏でボールを引いて、足の甲(インステップ)でボールを押し出します。でも、これは、「ボールの上半分を下へ向かって擦る」というのと矛盾していると思うのですが、どうなのでしょうか?ご返答頂ければ嬉しいです。
質問です。
返信削除二歩一触を極めるには
足首を伸ばした分だけ膝を上げる。
ボールの上から下にこするように触る。
を意識すればいいんですか?
あと土で練習してるんですが大丈夫ですか?
@匿名さん 上には飛びません。前に飛びます。ジャンプしながらのドリブルだと速度を十分に確保できません。全速力でドリブルするには、跳躍のエネルギーを全て進行方向に使わなければなりません。上へ飛ぶ意識はエネルギーロスでありタイムロスにつながります。
返信削除上への意識があると、せいぜい全速力の7割程度までしか、ドリブルスピードを確保できません。このラインがドリブラーとそうでない者を分ける境界線だと、僕は思っています。シャビは出来ないがディマリアやロッベンやイニエスタは出来る、この差は上への意識が残っているか残っていないかです。
厳密に言うと走る時は誰でもジャンプしているんですけどね、ここで言うのは意識の問題です。
@リオネルさん
返信削除2歩1触はドリブル技術としての総体を意味しているので、それだけやれば極められるというものではありません。
土での練習、全然構いません。むしろアスファルトの上でやるほうが良いかもしれません。ボールの転がりやすさが高い地面の上で自由自在にボールを扱えれば、芝の上でのプレーが簡単に感じられるはずです。
あと、あなたはもっと読解力をつけてください。色々な本を読むこともサッカー上達法の一つです。
ごめんなさい読解力つけます。
返信削除ありがとうございます。
@インサイドさん 記事がお役に立って何よりです。
返信削除矛盾しています。その辺の話は「2歩1触練習法まとめ1」にサラっと書いたんですが、伝わりにくかったと思います。
個人的感覚としては、全速力の7割までは下から上へ撫でるボールタッチでいけると思います。(もしくは上に飛び滞空中にボールタッチする感覚)
しかし、それ以上のスピードを出すならば、ボールタッチを上から下へ擦るようにせざるを得ないと感じました。
下から上へ撫でるボールタッチは2歩1触の導入にふさわしいので、あのような形の紹介になりました。
まぁこれが唯一の正解ではないので試行錯誤して磨きをかけてください。
コメントさせていただきます。
返信削除メッシは、速い速度でドリブルする際、ボールを上から下に擦ると、上の記事に書いてあります。ただ、「メッシのドリブルの形 ボールタッチ」の記事で、メッシのドリブルの動画があります。でもこれは、メッシ速い速度でドリブルしているのに、ボールを上から下に擦ってないように思われます。どうなのでしょうか?
@ピルロさん 記事中の動画はデモンストレーションであり、そのためメッシは全速力でドリブルしていません。ですからボールタッチも下から上へ撫でる方法で間に合います。
返信削除動画の後半で少しスピードを上げたデモンストレーションを見ることができ、この時上から下へ擦る様子は確認できません。しかし、この時のボールタッチは跳躍後体が落下している最中に行われています。落下中にボールタッチすべきであることは間違いではないようです。「change derection outside cut」の3タッチ目でボールが僅かに弾む様子からもそれが分かります。
また、よろしくお願いします
私の勘違いでした。申し訳ございませんでした。
返信削除メッシはボールにバックスピンを掛けながらドリブルをしているイメージでよいでしょうか?
返信削除あと、呼吸はどうなんでしょうか?
バックスピンをかける意図はないです。足を振り下ろす結果としてバックスピンがかかるだけで。呼吸はどうなんでしょう?しているとは思いますが。自身でいろいろな呼吸法を試してみてください。
返信削除いつもこのブログで勉強させてもらっています。
返信削除これからも更新よろしくお願いします。
質問なんですが
エジルとガンソとジダンてプレースタイルが似ていないでしょうか?
自分はその三選手が大好きなのでマネしているんですけどなかなかできません。
どーやったら鋭いパスや安定したキープ力、そして柔らかいトラップが身にくんでしょうか?
あとプレースタイルも詳しく教えてください。
よろしくお願いします!
回答ありがとうございます。
返信削除てっきりボールが転がらないようにスピンを掛けてると思いまして。
タッチと呼吸を意識しながら練習してみます。
@パサーさん ガンソ、ジダンはともかくエジルは全くタイプが違います。前者が静なら後者は動です。彼らのプレー分析を行うにはコメント欄のみでは足りませんのでここでは控えさせて頂きます。まずはご自身で彼らの出ている試合を5回繰り返して見ることを推奨します。
返信削除エジルのプレーについては僕が最も関心を寄せているひとつで、彼の戦術理解度の高さにいつも驚かされます。そのいくつかを具体例を挙げて扱った記事群がありますので御覧ください。“ボディコンタクト”と“将棋”でタグづけてあります。
削除まとめ一で書いたボールの側面をインステップで踏むようにとはこの記事の事と解釈してもいいんですか?
返信削除@匿名の方 はい。そうです。
返信削除メッシがドリブルしているときどこに重心を掛けているんですか。
返信削除普通に走るときと同じ所に重心をかけています。どちらかというと前方、腰より前です。
削除回答ありがとうございます。すいませんもう一つ質問します。メッシがドリブルするときボールのどこをタッチしているのですか。
返信削除高速ドリブルの練習はどこでやると良いんですか。この中から選んでいただけるとありがたいです。 1、道路の上
返信削除2、小さい石などやちょっと草がある庭
3、質の良い芝生
4、ちょっとでこぼこになっている芝生
5、長いくさや木えだが少しあるドリブルしたら早く進めない芝生
6、学校のグラウンド
の学なりましたがこの中からなるべく早く解答お願いします。
まずレーザーさんがどのようなレベルにあるのか把握することから始めなければなりません。初心者ならボールが止まりやすいきれいな芝の上か砂地でボールの転がり方とボールをなでる感触をつかむのがいいです(2、3)。中級者なら平でボールが転がりやすい堅い地面の上がよいでしょう。上記でいうなら1、6とか。上級者ならば様々な状況に対応するために4、5、6がいいでしょうか。がんばってください。
削除僕は中学生なんですが、メッシのように身長が小さく、でもドリブルを武器にしています。しかし、この年代になるとどうしても体格に差が出来て悔しいのですが、背が小さいことを言い訳にしたくありませんし、プレースタイルを変えたくもありません。
返信削除ここで質問なんですが、メッシがドリブルしている最中に当り負けしたり体を入れられているのをあまり見たことがありません。これは体幹が良いということなのでしょうか?それとも他に秘密があるのでしょうか?
こんばんは。ボディコンタクトに関する記事群を読んでください。少しは参考になると思います。
削除当たりで負けるのはしょうがないです。当たりで負けたら負けなのか、弾き飛ばされてもボールに食いつくことで勝つことはできないのか、その辺を考えていけばいいと思います。
コツとしては当たる瞬間に浮くこと、と同時にボールを引っ張りだすことです。
ありがとうございます。いつも参考にさせてもらっています。
削除また、質問をさせていただくと思いますがよろしくお願いします。
香川はよくこの記事のaで触りますよね。でもメッシは香川がaで触るところでもcで触るような気がします。
返信削除なぜメッシはcでさわり香川はaでさわるのでしょうか。考えてもわからない(私のアタマが悪いこともあるのでしょうが^^;)ので、教えて下さいませんか?
それとメッシのボールタッチの記事ではつま先で突くようにと書いてあり、
削除この記事ではこすると書いてあるのですが、どちらがいいのでしょうか。
こするかつつくかの議論は受動的変形を使います。つまりつつくとこするを同時にやります。メッシも香川もaとcで触ります。常にトーキックでのドリブルはできないからです。aで加速しcで安定させる。足首を立てて爪先でこするようにするか、足首をやや内転させ小指付近で触るかどちらかをします。いまのところこれ以上の説明は思い浮かばないのでわからなければまた質問してください。
削除スピードがない状態からはaでスピードが出ればcでいいのですね。
削除有難うございます
私は足首を立てたらスピードが出づらいと思うのですが・・・
削除で、私の解釈ではフィールドの真ん中では足首を立ててつめ先でこする、
サイドから上がるようなときは足首を内転させ小指で触る、なのですがいいのでしょうか。
おっしゃるとおりです。詳しくはメッシの動画3にあります。加速時は爪先、安定時はインステップでいいと思います。あと、2歩1触でドリブルしている最中はなかなか背後から敵に追い抜かれることはないと思います。なぜならDFもボールを狙って減速するからです。だから足首を立てたインステップタッチのドリブルでもDFを置き去りにすることが出来るのです。この技はボディコンタクトのロッベンのプレー解説でやりましたので見てください。
削除有難うございます。なるほど、そういうことですか
削除下にこするとボールが跳ねまくってしまいます。力みすぎなのでしょうか?
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