footballhack: 2011/02

2011年2月22日

明日から使える正対技 静止ver

正対とはサッカーを考える上で最も重要な原理であると僕は考えています。攻撃面はもちろんのこと守備を構築する上でも出発点となるテーマです。

正対という概念を提唱されたのは蹴球計画というHPを運営しておられますstudio c60さんです。誤解を招かないように言っておきますと、僕はstudio c60さんとは面識がありません。僕は一介の蹴球計画ファンとして、蹴球計画さんのサッカー観に共感しまして、彼の掲げるテーマを自分なりに掘り下げたいという気概で日々サッカーを考えています。

今回のテーマは正対技ということで、いくつか羅列して挙げていきたいと思います。

ここではボールを利き足の前(約15cmほど)に置いて静止した状態で直近のDFと正対しているシーンを考えます。蹴り足は利き足、軸足は逆足を指します。

正対技一覧

  • ボールを押し出す
  • 軸足をボールの横に踏み込む
  • 蹴り足を後ろに引く(蹴り足と逆側の腕を振り上げると尚良い)
  • 蹴り足を後ろに引いた状態で軽くジャンプする
  • 後ろに引いた蹴り足をボールの上に乗せる
  • 後ろに引いた蹴り足を振り下ろして地面に置く(キックキャンセル)
  • 蹴り足でボールをまたぐ(シザーズ)
  • 両足を揃えて浮く
  • 軸足を横に開くように踏み出す



まだまだ色々ありそうですが、今思いついたのは上記の9つです。それぞれをキックフェイント、ドリブルフェイント、そのどちらでもない、の3つのグループに分けることができます。個々の具体的な技の使用例は今後紹介していく予定です。

これらの技を繰り出すときには必ず正対したDFの正面に向かって行うように心がけましょう。そうすることで、DFを“ピン止め”しDFと自分の間に十分な距離を保つことができます。間を作るというやつです。

間を作ることは時間を作ることと同義です。間をつくりプレッシャーを回避している間に周りを見わたすことで、判断に余裕を持たせることが可能になります。つまり、上記の技を繰り出している間に、正対したDFの奥を見ることが可能になるのです。

ボールを持ったときにボール際の攻防(半径1~3m)に囚われずに、30mほど離れた所に目が届けば余裕を持って判断を下すことができます。

パスの上手い選手はこのように正対と視野の確保を同時に行っています。プロの試合を観戦する際にも今回の正対技に気をつけて見てみると、新しい発見があると思います。

また、実際に試合や練習で試す際、自分の得意な形というのが出てくると思います。もうすでに自分の癖として体得しておられる方もいらっしゃるでしょう。そういった方々もこの記事を読んで正対の原理について整理していただけたら幸いです。また、新しい技に挑戦する機会を提供することができたならば僕としてはうれしい限りです。

次→スキップドリブルドリル

2011年2月14日

メッシの身体操作5 上半身のバネ

前回の記事では、後傾ドリブルでは内足荷重が難しいため前傾ドリブルの方が仕掛けに向いていることを紹介しました。今回はなぜ前傾ドリブルのほうが優れているかを説明したいと思います。

まず下の3つの写真を見てください。3枚とも左側がマシューズフェイントのフェイク動作時、右側が進行方向への切り返し時になっています。
1枚目はメッシです。フェイク時(左)は体の正面がフェイク方向を向いており、切り返し時(右)は体の正面が進行方向を向いています。

また、外足の接地時(左)は体全体が沈み込んでおり、 内足の接地時(右)は上体が浮き上がっています。内足荷重のお手本のような動きです。左手が進行方向へ伸びているのもメッシの特徴です。 


 2枚目はRマドリーのディ・マリア。フェイク時(左)は上体が右に曲がっていて、切り返し時(右)は進行方向に向かってやや前傾しています。

沈み込みと浮き上がりの様子も少しわかります。


3枚目はマルキーニョスです。 フェイク時(左)はフェイク方向に向かって上体が上半身が深く前傾しており、切り返し時(右)は進行方向に向かって前傾しています。

上の2枚と違って浮き上がりの様子が観察できないのは、右側の写真が内足が接地する前のものだからだと考えられます。下の動画を見れば、この後に浮き上がっている様子が見て取れます。



 上の3人に共通するのは、フェイク動作時にはフェイク方向に向かってへそが向いており、その後切り返すときには進行方向に向かってへそが向き直るという点です。ディ・マリア選手は例外に見えるかもしれませんが、大事なのは進行方向に体の正面を向けることで力強く地面を蹴って加速することです。

横向きに走り出すより体の正面に向かって走り出すほうが、スタートダッシュを速く切れそうなことは簡単に想像がつくと思います。縦移動から横移動へ移行する際に素早く体の向きを変えることは、外足が内足を追い越す動きにつながり、これによりDFより一歩分速くボールに追いつくことができるのです。

このことに気づいてからマシューズフェイントの練習に取り組みました。どのようにすれば上の写真の左右を繋げることができるか、また写真の左から右へ移る間にメッシ、ディマリア、マルキは何を意識しているだろうかと考えました。その答えは

進行方向に向けて頭を振ること

でした。首は振らずに固定して背骨をしならせるイメージです。まぁこれは個人的な身体操作感覚なので多くの人の理解を得られないかもしれませんが。

つまりどういうことかというと下の写真をご覧ください。

フェイク動作時に外足を接地し上体を沈み込ませたら、進行方向へ向けて一気に頭を振ります。(水色矢印)


頭を振ることで体の正面を進行方向に向けて前傾姿勢を作ることができます。

この動作をボールなしでもやってみるとよくわかるんですが、頭を振ると進行方向へ向かって倒れこむ感じになり、加速せざるを得なくなります

また自然に内足に重心移動できます。

フェイク方向へ前傾
進行方向へ頭を振る
内足を活かす
浮き上がるように加速 

という一連の動きは、マシューズフェイントの理想の形のように思えます。


近頃、体幹に軸を作れということがよく言われます。初めから極端な前傾姿勢を取った場合、ここぞというタイミングでそれ以上に体を倒して加速することが難しくなります。そのため平常時は体に軸を作って直立に近い姿勢を保つほうががいい気がします。

また、頭を振るということを考えた場合、体の軸つまり背骨を瞬間的に曲げる必要があるんじゃないかと思うのです。背骨を曲げるには側筋や腹筋などの体幹の筋肉を使わなければなりません。つまり体幹の筋肉を使って背骨を左右前後に曲げることがいわゆる上半身のバネなのではないかと思うのです。

左のディマリア選手は上の二人と比べるとちょっと特殊で、外足接地時に上半身の右脇にアーチができています。

彼は体の軸をしならせるようなイメージを持っていると考えられます。

このあと体にできたアーチを真っ直ぐに戻すようにして前傾姿勢を作っています。

結果として頭は水色の矢印のように動いていきます。



メッシが相手DFと競り合って倒れそうになりながら、驚異的なボディバランスでボールに食いつきドリブルを成功させるシーンを時折見ます。それもよく見ると、もう倒れてしまうだろうっていう体勢から体幹を捻じ曲げて頭を進行方向へ落とすことで、再び加速しているのです。そういうシーンの動画を集めたらアップしたいと思います。

人間の頭は結構重い(約6kgらしい)ので頭の位置で重心をコントロールする意識は大切かもしれません。そのためには体幹トレーニングが欠かせません。よりよい身体操作を心がけ、トレーニングを怠らなければ体をバネのように使うことも可能になるでしょう。

まとめ:
ドリブルでの仕掛けの際には頭を振ることで上半身のバネを使い加速することが重要

最後に興味深い動画を一つ

初めみたときはお笑い動画かと思いました笑。バネを縦に使うか横に使うかで僕の見解と相違がありますが、タイツ先生は体のパーツを物体として捉えることの重要性を説いてくれています。

個人的な追憶を追記
よく「フェイントは足だけではなく体でやるんだ」 と言われます。当然、動作が大きいほど相手はフェイクに釣られやすくなりますから。でも経験を積むうちに「フェイントなんてあんま使えねぇ」なんて思ったりもしました。しかし、今回のテーマを扱って、左右に体を揺らすボディフェイクは上半身のバネを使うためだったことが判って、知ったか指導者の言うこともあながち嘘じゃないなと思いました。

小学生のころ上半身だけのボディフェイクにこだわったことがありまして、相手を欺くためだけに上体をクネクネやっていたら、真の進行方向への加速が難しいということを体感的に学び、それからは直立ドリブルが僕のスタイルになったのでした。大人になってこの事を知ってからは悔やんでも悔やみきれません。

次→メッシの身体操作6 マシューズフェイントのまとめ


2011年2月13日

メッシの身体操作4 上体の前傾と後傾

前回はドリブルと体の浮き沈みを考えることでマシューズフェイントを分解してみました。いわば重心の高低を考えたわけです。で、今回は重心の前後を考えます。

まぁここまで読んで内容が分かってしまう人もいらっしゃると思いますが、次に繋がる記事なので。あまり深くはないけど目を通していただけるとありがたいです。

アジアカップでの香川、長友の高低の重心コントロールを見て、私が次に着目したのはドリブルの姿勢でした。つまり、上半身の前傾と後傾です。

ドリブル時の姿勢を考えたとき、まっ先に思ったのが、

攻撃的選手ほど前傾姿勢をとりやすく、守備的選手ほど後傾姿勢をとりやすい

ということです。

※ここでは対比のために「後傾」という言葉を使っていますが、実際には「直立」もしくは「後ろ重心」がニュアンス的に近いと思います。

前傾姿勢の方が速くドリブルできそうだってことはなんとなくわかると思います。ただし、視野は狭くなりそうですね。

後傾姿勢の場合、スピードは遅くなりそうですが横や後ろへもスムーズに移動できそうです。周囲360°への移動を睨んだ姿勢ですね。また、視野も広くなりそうです。

ちなみに(言うのも野暮ですが一応言うと)メッシは前傾ドリブラーです。

では例を一組↓ともに仕掛けの場面でアウトサイドで切り返す瞬間の写真です。

元鹿島のFWマルキーニョス選手です。

完全に前傾で、しかも猫背です。顔が下を向いています。

良い姿勢には見えませんが、この後マルキは驚異的な爆発力を発揮して正対したDFをかわしシュートに結びつけます。

FWを中心に攻撃的MFやウィングの選手にはマルキのような前傾ドリブルをする人が多いように感じます。

かわって、FC東京の左SB、中村北斗選手です。

上体が直立し、よくみると若干後ろに反り返っているようにも見えます。顔が上がっています。

後傾ドリブラーの典型的な姿勢です。

彼のようなSBまたはボランチ、CBなどの選手が、時折仕掛けのドリブルを見せると、後ろ重心で上体が直立していることが多いように感じます。



上の写真は右の記事中の動画から持ってきました。ドリブル方法論4 助走を活かす身体操作 

件の記事を読めばわかるんですが、仕掛けのドリブルとして正しいフォームなのはマルキーニョス選手で、中村選手のように上体が直立している場合は改善する必要があります。後傾ドリブルでは内脚荷重が難しいからです。

かく言う私も後傾ドリブラーの一人でありまして、中村選手のドリブルの悩みもすごく分かっているつもりです。 それは私が守備的な選手だったからで、だからこそ、前傾ドリブルの仕組みを考えたくなったのです。

なぜポジションによってドリブルの姿勢が変わってしまうのでしょうか?その答えは非常にシンプルです。1対1において攻撃と守備のどちらを多く経験したかに依ってドリブルの姿勢は変わってくるのです。

1対1の攻撃、つまりドリブルで仕掛ける経験が多い選手ほど、前進スピードを高めようとするので自然に前傾姿勢になっていきます。

1対1の守備、つまり仕掛けのドリブルを止めたり遅らせたりする経験が多い選手ほど、後退スピードを高めようとします。

守備的な選手は、バックステップを使ってディレイしたり、後ろに重心を残しながらボールを突付くディフェンススキルを身に付けたり、アプローチの瞬間に後ろへダッシュできる姿勢を作ったりしなければなりません。当然、重心は後ろに残すほうが良いプレーが出来ます。このように守備的選手は無意識のうちに後ろに重心をとってしまい、ドリブルの最中も上体が直立してしまうことになるのでしょう。

一方、攻撃的選手の前傾ドリブルのメリットは何か?なぜ後傾ドリブルが仕掛けに向かないのか?これらが次の記事の内容になりまして、メッシの身体操作シリーズのメインディッシュになる予定です。

次→メッシの身体操作5 上半身のバネ


2011年2月12日

メッシの身体操作3 沈み込みと浮き上がり

前回、内脚の重要性を説明しました。このことに気付いてから内脚を意識してマシューズフェイントの練習をしていたんですが、どうもしっくりきませんでした。直前のリズムの変化と内脚への荷重だけではメッシのように大きく動けないんです。というより体がその場に残ってしまう感覚が生まれ、スムーズな横移動が出来ないんです。

ステップワークだけ真似ても結局筋力が足りないから出来ないのかな、なんて諦めていました。この問題を放置して数ヶ月、アジアカップが始まり香川と長友の活躍を目にしました。そしてなんと彼らからヒントを得ることが出来ました!

では長友の動きを御覧ください。(アジアカップ決勝オーストラリア戦)↓


そして香川の2ステップターンはこちらから。



2人に共通するのは、抜くときにピョンっと飛び跳ねていることです。

よく見るとちゃんと内脚(2人とも右利きなので右足)を使って跳ねています。そして浮き上がるようにして次のプレーへズムーズに移行しています。

更によく見ると、切り返しのボールタッチの直前に重心が低くなっています。これは何故かというと、外脚(左足)を踏み出すときに通常の歩幅より大きく横に開いて接地するためです。外脚を横に開いて接地する動作はマシューズフェイントのフェイク動作部分にあたります。

つまり何が言いたいかというと、内脚荷重の方向転換に重要なポイントは

  1. 外脚を開いて接地すること 
  2. 沈み込んで低重心状態を作ること
  3. 内脚に荷重して浮き上がるように横へ移動すること
の3つです。

実はこの動作は反復横跳びと同じ動作です。またはラダートレーニングやポールを使ったステップワークのトレーニングで、サッカー選手なら必ずと言っていいほど経験する動きです。

通常のランニングからスムーズに反復横跳び動作に移るトレーニングを行えば、パフォーマンスをアップさせることが出来るかもしれません。


■マイケル・ジョーダンとマシューズフェイント
かのマイケル・ジョーダンもマシューズフェイントに近い動作をしているのを見つけました。↓
2:21からです


ポストからターンしてフェイダウェイというのがジョーダンの必殺パターンのうちのひとつだったようです。バスケは正直全然詳しくないんですけど笑。

このジョーダンの動きとマシューズフェイントにどのような関係があるのか説明します。

まず左のようなニュートラルな姿勢でボールを持ちます。

この姿勢から、ワンドリブルいれて後退し、ディフェンスを押し込みます。更に、両足を浮かせながら、下の写真の姿勢をとります。
 図に示したとおり、両足を開きながら沈み込み、膝に力を蓄えています。

このシーンでは先に右足を接地させ、右に動くフェイクを入れると同時に、重心を左へ移しています。

この後の動きは上の動画のとおりです。

低重心を保ったままピヴォットしているので、ディフェンスより高くジャンプできるのでしょうかね。



このシーンはディフェンスをかわすところまでいっていませんが、ジョーダンはこういう動きが得意らしく、相手を背負った状態からターンを決めるのを度々見ました。

また、僕の目からみるとジョーダンの動きは非常にヌルヌルしていて気持ち悪いんです。それでよく観察したら、両足を縦や横に開いて見かけとは逆に動いたり、足の踏み替えを行ってステップワークのリズムを変化させたりしているからだと分かりました。

では次はメッシです。
ブラジルとの親善試合でのワンシーン。

左の写真では、両足を開いて浮いています。

メッシの背後にブラジルのCBダビド・ルイス選手がいます。彼とメッシの頭頂部の高さの差を白い線で表しました。

ここから外脚(右足)を開きながら接地して左足のアウトサイドで切り返します。
股関節や膝を曲げて低重心姿勢をとっています。

外脚を横に踏み込むことで体の軸をボールの上に運んでいます。またこれはフェイク動作にもなっています。

外脚の接地と同時に内脚(左足)に重心を移し、内脚を接地してから膝を一気に伸展することで、浮き上がるような感覚で横方向へ加速していきます。

参考動画→メッシのドリブルスローいろいろ


ジョーダンとメッシに共通するのは
  1. 両足を開いて浮く
  2. 体が沈み込む
  3. 先に外脚を接地する
  4. 3がフェイク動作になる
  5. 外脚を体の軸から離して接地することで内脚に重心が移る
  6. 内脚荷重と低重心姿勢から浮き上がるように次のプレーに移れる
上の6カ条はそのままマシューズフェイントの原理の解説になります。

人間は二足歩行の動物です。素早く動くためには2本の足を効率よく使わなければなりません。地面を強く踏むことで、より強い反発力を得る必要があるのです。例えば、高くジャンプするためには膝にタメをつくる時間が必要です。

また、方向転換のためにもジャンプと同じようなタメを膝に作る必要があります。タメを作っている最中は運動速度が落ちるので無防備になりやすいのです。ですから、タメ時間は短ければ短いほど良いのですが、短すぎるとダイナミックな動きができません。そのジレンマを解消してくれるのがマシューズフェイントなのです。

つまり、 マシューズフェイントは横移動へのタメを作っている時間そのものがフェイク動作になっているのです。こういった理由から、個人的に、マシューズフェイントが一番効果の高いフェイク動作だと考えています。

今回紹介した両足開き、沈み込み、浮き上がりという動作はサッカーバスケ以外のスポーツでも有効だろうと思うので、いろんなスポーツを観戦して身体操作への思索に耽ってみてください笑。

次→メッシの身体操作4 上体の前傾と後傾

2011年2月10日

メッシの身体操作2 内脚を使え

メッシの分析をする上で常に着目してきたポイントがあります。それはステップワークです。つまり左右の足がどのように地面と接触しているかということです。

自分のサッカー観のひとつに“筋肉に頼らない選手になる”というものがあります。骨格を動かすのは筋肉なので当然筋肉は必要なのですが、無駄な筋力をつけないというのをテーマに日々サッカーをやっています。そんなに真剣にプレーしているわけではないですが笑。

この理念がポジショニングや駆け引きやドリブルなどの身体操作の研究に向かわせるわけですが、今回のテーマ、メッシのマシューズフェイントに関しても同じようなことが言えます。

メッシは筋骨隆々というふうには見えません。もちろん腰回りや太ももは一般人に比べたら逞しいでしょう。しかし、アスリートの中で比べたらフィジカル的に優れているとは到底言えないと思います。だからこそ、動きの中に秘密があるだろうと思うのです。それは骨格の動かし方であり、各関節の連動であり、その全てがステップワークに表れるだろうと考えるわけです。

個人的に、筋力をアップさせればより速く動けるという考え方は嫌いなんです。

そこでメッシのステップワークについて考察を深めるために図を用意しました。


見てわかるとおりスキーの写真です。しかもターンしているところです。向かって左から右方向へ方向転換しようとしています。

図にあるようにターンの際、外側になる足を外脚または外足と言い「そとあし」あるいは「がいそく」と呼びます。

また進行方向側の足を内脚、内足と言い「うちあし」、「ないそく」 と呼びます。

スキー初心者は外脚荷重が基本のようです。熟練者ほど両足にバランスよく荷重できるようです。2枚のスキー板を有効に使ってエッジを効かせたほうが、1枚だけ(外脚だけ)使った場合より鋭いターンができそうなことは、素人考えでもよくわかります。

この記事の主旨は、内脚と外脚の両方をバランスよく使うことで素早い横移動が可能になるのではないかということです。特に縦移動から横移動へ移行する際に、前方への慣性力を利用して素早く横移動するためのコツは内脚にあるんではないかと思うのです

ドリブルの下手な人や初心者はターンの際、外脚だけ使ってバランスを取ろうとします。内脚が浮いてしまって外脚でケンケンのようになるので次の動作に移るのが遅れてしまいます。またこれはターンの際ボールを体から離してしまう原因になります。

左図は横からの写真。

内脚の膝が屈折し、外脚より前方に出ています。

これは雪面の傾斜故の姿勢です。

サッカーでは内脚を前に出したほうがよさそうです。骨盤が内脚に乗っかるため、重心を内脚に移しやすく、横移動をスムーズに行なえるからです。



以前メッシのドリブルがラグビーのステップに似ていることに触れましたが、それと同じような感覚をスキー選手は持っているのではないでしょうか。

では本題のメッシです。

外脚は体の軸より大きく外側に振り出されています。これがマシューズフェイントの一歩目にあたります。

この時に地面から大きな反発力を得ていることは後述します。
左図が内脚の着地時です。これはマシューズフェイントの切り返しパートにあたります。

外脚より体の軸に近いところに着地しています。しかもやや外側に着いています(メッシ本人から見て右側)。この位置に内脚を着けば、重心は進行方向(左)へ自然に向かっていきますので、体が左側へ倒れていくような感覚を持って次のプレーに移れます。

そして内脚で進行方向へ跳ねることでDFの背後へ素早く侵入しています。切り返しから体を前に運ぶことが出来ているので結果的にボールを体から離さないドリブル突破が可能なのです。

 メッシの図はこちらの動画から拝借しました。→messi slomotion


自分が内脚を使えているかどうかの判断はマシューズフェイントをしてみれば分かります。切り返し直後に横にジャンプ出来れば内脚が使えている証拠です。逆に外脚荷重の人は切り返し直後に軸足で踏ん張って加速しようとします。右の動画でマルキーニョス選手のような動きが出来れば合格です。中村選手のようだと改善が必要です。→仕掛けのドリブル 日本人と外国人の違い

内脚を使えるようにするにはボールタッチを改善する必要があります。 なるべく体の軸に近いところでボールタッチすること、ボールの下を刈るように押し出すこと、ボールタッチするときに上体を沈み込ませ、内脚に体重を移動しながら浮き上がるように進行方向へ進むことなどがポイントになるでしょう。詳しくは後述します。

外脚だけに頼る選手は筋肉系(アウターマッスル系)選手に育つ傾向があると思います。それはドリブルが下手だからであって、ボールを体から離してしまう傾向が強いからです。その瞬間の差を筋トレで埋めようとしてしまうのです。

メッシのように内脚が上手く使えれば筋肉量が少なくてもDFの逆を突くことは可能になります。内脚を使った切り返しはDFの隙間へ潜り込むようなプレーを可能にします。DFが絶対にボールに触れない位置にボールを押し出して素早く入れ替わるようなことも出来るはずです。

まとめ:フェイク動作から次のプレーに素早く移ることは1対1に勝つ上で非常に重要な要素になります。そのためには内脚への重心移動が不可欠になると考えています。

次→メッシの身体操作3 沈み込みと浮き上がり

メッシの身体操作1 マシューズフェイントの研究

メッシメッシメッシと五月蝿いかもしれませんがまたまた別角度からメッシの研究に取り組みたいと思います。2ステップについては書きかけになってますが、動画収集に手間取ってるので、おいおい書いていきます。このテーマもアイディア自体は既に出来上がっているのですが、長文になりそうなので書き切れる自信があまりありません笑。

なぜメッシかと言われれば、小柄で身体能力が見た目低そうなのにバロンドール選手だからであって、その動きを分解してエッセンスを取り出せれば、普通の選手でも更にサッカーが上手くなれるだろうという期待を込めて書いているわけです。

というより長年サッカーをプレーし続け観戦し続けている私から見て、メッシの動きは非常に無駄が少なく効率が良く見えるんですね。スペースと時間が減少傾向にある現代サッカーにおいてまさにサッカー選手の鏡だなと。ペレやマラドーナがもしこの10年代に現役でプレーしていたら必然的にメッシのようなプレースタイルになっていたんじゃないかと妄想するわけです。

でマシューズフェイントの話です。メッシが唯一と言っていいほど多用するフェイク動作がこのマシューズフェイントです。どんな動きかというと↓


探したらゲーム映像が一番に出てきました笑。まぁわかりやすいからよしとします。

マシューズフェイントは軸足を外に踏み込む動作の後に蹴り足のアウトサイドで逆方向にボールを持ち出す技だと思われがちですが、実は違います

フェイク動作そのものより重要なのは上記の動作の直前のステップ直後の重心移動です。

上の動画では分かりやすいことにサントス選手?がフェイク動作の直前に細かいステップを入れてくれています。ドリブルでDFに正対し前進しながら技を仕掛ける場合、直前にリズムを変化させることが非常に重要になります。これは以前にも書きました。→メッシのドリブル3-1 独特のリズム

直後の重心移動の方法は次回から書いていきます。

では実際にメッシを見てみましょう


動画の最後にあるようにマシューズフェイントから左足アウトインでのダブルタッチというのがメッシの必殺パターンです。

サッカー経験10年以上の人でもメッシパターンが出来る人は少ないんじゃないでしょうか。なにせボディバランスを保つのも難しいですし、なによりボールコントロールが上手くいかずに体からボールが離れてしまうと思います。私も必死に練習しまして、なんとか形だけなら出来るようになったんですが、スピードに乗った状態でやると足の運びが思い通りにいかなくて苦戦しております。

そんななかマイケル・ジョーダンとディマリアにヒントを得る機会がありまして、メッシパターンの高速化に目処が立ったんで一筆書いた次第です。

では次→メッシの動き2 内脚を使え

2011年2月6日

サッカーの試合の流れを読む

前回、プレーエリアと戦術眼という記事の中で、試合の流れを読むということは、ピッチ上で何が起こっているのか正確に把握し、いくつかの現象から予測を立てるという行為であり、それをピッチの上で走りながらリアルタイムで実践するということ、というふうに書きました。今回はそれの補足です。

試合の流れを読むための一つのアイディアとして、相手の戦力分析をすることが挙げられます。例えば、相手チームのキープレーヤーは誰か、弱点になりそうな選手は誰か、CBは足が遅そうだなとか、GKはハイボールに弱そうだとか、FWは一回こねる癖があるなとか、左サイドより右サイドのほうがうちに分があるなとかです。選手個々人の分析から始まり、味方選手の能力と比較した上で予測を立てることが可能になります。

こういった予測は経験から生み出されます。普段の試合から上記のような目線を持って試合に取り組むことで、経験は積み上げられます。そしていくつもの基準が頭に入っていれば流れを読むことも容易になってきます。サッカーというゲームのパターンを知るということです。

もう一つのアイディアとして、試合をたくさん観戦するということが挙げられます。特にテレビ観戦では録画と一時停止を使うことで時間を引き伸ばして分析することが出来ます。また、スポナビ+などにわずかですが優れたブロガーさんによる試合分析が掲載されております。それらの分析を読んだ後に試合観戦をするとサッカーのパターンを頭に入れやすくなります。

サッカーのパターンとは90分の物語のことです。例えば、気の緩みからロスタイムに失点した“ドーハの悲劇”や、守りに守って不細工な格好ながらも1点をもぎ取った“マイアミの奇跡” などがあります。あたかも起承転結が予め設定してあったような筋書きがサッカーの試合ではたびたび見られます。

こういった筋書きをひとつひとつ挙げるとそれこそ100通り以上存在することになってしまうのです。サッカーのセオリーは何百通りも存在すると言われる所以がここにあります。

よってそれらを一つ一つ虱潰しに覚えていこうとすることは、英和辞典を1ページ目から全て覚えようとすることと同じく、効果的とは言えません。 自分が遭遇した試合をひとつひとつ消化しながら、それらを自分の血と肉にしていく、つまり経験値を上げていくほうが現実的です。

また、サッカーの筋書きは布陣の噛み合い方で決まってくることも多いです。例えば4-4-2同士、4-4-2対3-5-2、4-3-1-2対4-2-3-1などの組み合わせの違いで出来るスペースの大きさと場所も変わってきます。また、活きるポジションや死ぬポジションも変わってきます。

戦術を勉強することで試合の流れを予測し、それをもとに一選手がピッチ上でひとつひとつの判断を改善していくことも可能なのです。

試合を観戦するにも常に疑問や基準を持って見るほうが一試合から得られるサッカーのエッセンスは変わってきます。

そのために、ピッチ内では敵戦力分析、味方との戦力比較、フォーメーションの噛み合わせ、相手の攻守の戦術を分析すること、試合の起承転結を考えることなどをオウトオブプレー時かボールが近くにないときに考えることが必要です。

また、ピッチ外では試合分析を読むこと、試合観戦、仲間とサッカーの話をすることや指導者の言葉に耳をかたむけることが必要なのです。

こう書いていると良い指導者との出会いが、いかに重要かということを再確認しますね。

結論を言うと試合の流れを読むには、試合を外から観ているかのように考える、つまり監督目線になるということが理想です。

追記
試合分析をするにあたっては攻守の切り替えを正しく理解することが不可欠です。下に攻守の切り替えに関する記事を載せておきます
ザックジャパンの試みと攻守の切り替え

関連記事→うまくなるためのサッカー観戦法

2011年2月5日

プレーエリアと戦術眼

先日のアジアカップで見事日本代表は優勝を果たしました。特にオーストラリア戦での長友の左サイド突破はあっぱれでした。後の選手インタビューでの遠藤保仁選手が非常に興味深いことを言っていたのでそれをネタに一つ記事を書きます。

今回のテーマは戦術眼の優れた選手になるにはどうしたらいいかということです。戦術眼という言葉をプレーエリアと集中の切り替えという観点から解説したいと思います。

結論から言うと、戦術眼の優れた選手になるには、常にピッチ全体で起こっている現象を把握しなければならないということにはなりません。そんなことは人間の能力の限界を超えています。もちろんアンテナを張り巡らせて子細な出来事に気づくというのは重要な能力ですが。

この記事の主旨は、どこに着目すべきか考える事で戦術眼を磨くことが出来るということです。言い換えれば、集中しどころを適宜切り替えていくということになります。では図を使って説明していきます。

左の図に自分を中心に同心円が4つ描かれてあります。それぞれの円はプレーエリアを表しており、それは同時に集中すべき範囲の区別を表しています。

下の図で、なぜ1,10,30,60メートルで分けたのか、説明があります。

自分から半径1Mという範囲は球際の攻防を表しています。

半径10メートルは2対2や3対3などの局面を表してあります。

半径30メートルは自分がピッチの中央に立てば大体ピッチの横幅68Mをカバーできることになります。また現代サッカーでは2チームの最終ラインは30M前後に保たれることが多く、この範囲は横への展開また縦への展開を考える上で丁度良い距離になります。

半径60メートルは自分がセンタースポットに立てばピッチの縦105Mをカバーできます。つまりピッチ全体を見渡すために必要な距離ということになります。そしてそれは試合の流れを読むために必要な距離を意味します。

球際の攻防においての勝負に勝てなければ選手として評価されることはまず無理でしょう。そこには技術やフィジカルなどの要素も関係しますが、なにより集中や気迫といったメンタルの部分が重要になります。もちろん頭のいい選手は競り合いを避けてプレーすることも出来ますが、それはほとんど例外と言っていいでしょう。

局面の判断において重要なのは、フィジカルより技術や戦術、つまり予測やイメージ力といった判断力だと思います。局面を有利に運ぶ必殺パターンをいくつか持ち合わせていれば打開が可能です。局面打開あるいは局面守備のセオリーについてはこのブログでもすでにいくつか紹介してあります。

展開において、特に攻撃面で重要なのはチームでボールを運ぶ意識です。その概要はマクロつなぎ論ミクロつなぎ論で紹介していきます。守備においてはチームによってマンツーマンやゾーンなどやり方は変わりますが、普段の練習における意識の統一が不可欠になってきます。つまりポジショニングということです。

試合を読む力というのは、技術力や展開力、カバーリング能力とはまた違った能力のように思えます。言葉にすると、ピッチ上で何が起こっているのか正確に把握し、いくつかの現象から予測を立てるという行為になります。それをピッチの上で走りながらリアルタイムで実践するということです。一体どうやったらそれが可能になるのでしょう。

試合の流れを読むことについて書いていたら非常に長くなったので別の記事にまとめました。→サッカーの試合の流れを読む

では最後の図を御覧ください。左図。

矢印がいっぱいあります。全部で10本あるんですがこれはそれぞれのエリア間を行き来しています。

例えば0m(自分)→10mの矢印は球際の攻防に集中しろということを意味しています。

ドリブルなどで敵をかわして球際を抜け出たら次に考えるべきは10m、30mあるいは60mになる、ということをそれぞれの矢印は意味しています。

例えば、敵が1m以内に寄せてきているのに、展開ばかり考えていてはすぐにボールを失ってしまいます。逆に球際ばかりに集中して局面が見えていなければパスを出すタイミングを逸してしまいます。上手な選手は、ボールと自分の距離、あるいは敵と自分の距離に応じて集中すべきエリアに正しく意識を向けることが出来ます。

サッカーというスポーツは連続的にシーンが切り替わるスポーツであり、切り替わりはホイッスルが吹かれるまで続きます。切り替わるというよりとめどなく流れるという方が実際に近いかもしれません。そのなかで集中すべきプレーエリアを上手に切り替えることが戦術眼を磨くために必要だと考えています。

最後に冒頭の遠藤選手のインタビューを抜粋します。

前回(韓国戦)のロスタイムでああいうふうになったので、みんなよく分かってました。集中を途切れさせず、ボールが止まった時に声を掛けてましたね。(長 友に勝負にいかせたが)相手の右サイドバックの8番(ウィルクシャー)がバテバテだったし、そんなにディフェンスがいい選手じゃないので、佑都(長友) に、持ったら1対1をどんどん仕掛けろって言ってました。オカ(岡崎)のへディングシュートもそうですけど、あそこが狙い目だと思ってました。僕は監督の プランをよく知らないですけど、あそこで1対1を仕掛けられる選手がいれば、相手のサイドバックはそんなにディフェンス強くないですし、あれはいい形だっ たと思います。今ちゃん(今野)が後ろに下がることでしっかり守備ブロックを作れるんで、あれはあれで非常にいいプランだったかなと思います。


遠藤選手は執拗に左サイドにパスを送り続けていましたね。当時は狭い方ばかり選んで何やっているんだろうと思ったものですが笑。このコメントはボールが遠くにあるときに頭を働かせることの重要性を物語っています。あれほど白熱したピッチの上で冷静に敵戦力分析をしていた遠藤選手の戦術眼には脱帽の思いです。

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