“サッカーの試合中に何を観るべきか”という問に真面目に答えようとすると、その回答は空間認識、時間的広がり、幾何学、人間関係性、精神性にまで及ぶこととなり、ブログの一ページに綴ることは容易ではありません。
ここでは、“味方からパスを受けて、ボールを離すまで”に焦点を絞り話を続けようと思います。
その前にひとつの興味深い脳に関する記事をお読みください。
「制限」が 「創造性」を高める理由-WIRED JAPANESE EDITION
少し引用しますと
脳とは無限に近い可能性をもつ神経の集合体であり、「何に注意を与えないか」という選択に、実は多くの時間とエネルギーを費しているということだ。その結果、効率性を重視すると、創造性が犠牲になる。われわれは通常、散文的に考えており、象徴的で詩的な思考は行っていない。そして、予期せぬ障害物、簡単には乗り越えられないハードルに行き当たって初めて、認知の連鎖がゆるめられる。それによって、無意識の中にかすかに光る、普通では考えつかないつながりに至る新たな道を発見することが可能になるのだ。
この中で重要なのは、脳は情報を捨てることに多くのエネルギーを割いている、ということです。
何が言いたいかといいますと、前にも申し上げたとおり、サッカーのゲームにおいては観なくて良いものを捨てることによって、得られる情報の密度が上がる、ということです。つまり、情報の選別による情報の深度の向上です。
脳が情報を捨てることに多大な労力をかけているならば、始めから捨てるべき情報を脳に入れないことによって、より多くのエネルギーを脳に回し、得た情報の処理速度を上げることが出来るのではないかということです。
これはつまり、観る対象を絞ることに繋がります。そして、戦術理解度の向上によってのみ、これが可能なのです。何を観るべきか否観ないべきかということは戦術眼に直結します。戦術眼を磨けば、より注意して目を配るべき場所と、そうでない場所がはっきり分かってきますよね。
と、冗長な序文はここまでにして、これから、サッカーの試合における観る対象を整理して考えていきましょう。
一般常識的、対象の序列化
パスを受けてパスを出す、この行為の中で、観るべき対象に順序を付けて挙げてみると、以下のようになると思います。
- ボール
- ゴール
- 味方
- 敵
- スペース
第二にゴールを確認します。ダイレクトプレーが最善ですから、まずシュート、ダメならゴールに近いエリアの状況を確認します。
次に味方を探します。パスを受けて次にパスを出すには味方の位置を確認しなければなりません。
次に敵を観ます。味方のマーカーはどの位置に居るのか、どんな体勢でカバーリングについているのか観察します。
そして、最後にスペースを見ます。人がいないぽっかり空いたスペースがどこかにないか、探します。
これで一件落着とおもいきや、
これらは全てダメな例ですこの順序で物を探しているとどういうことになるでしょう。
まず、ボールを見ているうちに首を振るタイミングを逃し、ゴールを見ているうちに近くの味方は全てマークされ、味方を探しているうちに直近の敵に寄せられ、味方のマーカーを観察しているうちにコントロールを乱し、ようやく敵に気が向いたところで横や後ろから寄せらていることに気づき、やっと見つけたスペースへパスをしたら敵にカットされる。
こんな光景が目に浮かびます。
なぜこうなるのでしょうか。それは観るべき対象の序列化に失敗しているからです。
新常識的、対象の序列化
では良いプレーのための観る対象の序列とは一体何でしょう。以下にまとめました。
- 自分の位置 (ゴール)
- 敵
- ベクトル
- 体勢
- 足(重心)
- ボール
- 味方
- ベクトル
- 体勢
- スペース
- 味方の背中
- 敵の背中
- 人を飛ばす
- マークの受渡しのギャップ
自分の位置をしっかり把握できれば、自ずと求められるプレーが分かってきます。よく言われるピッチを3つのゾーンに分けるということです。ペナ内ならシュートだし、ディフェンシブゾーンなら安全なパスということになります。これらの判断を間違えずに下すということが戦術眼の向上を意味します。詳しくは後述します。
そして、何より重要なのは、敵の位置を確認することです。ボールを奪われさえしなければ、攻撃は続くわけですし、守備に転じてピンチを招くことはありませんから、最優先すべきは自分に一番近い守備者の動向を知ることです。
その際気をつけるのは、
- ボールを受ける前に自分の周囲の敵の位置を確認し、近くに敵がいる場合は、どの角度から、どれくらいのスピードで自分に接近しているのか、あるいはどのポイントを目掛けてアプローチをしているのかを把握する(ベクトルと体勢)→関連記事「いなすトラップ」
- 自分がボールを持った状態で正対し、敵が静止しているのであれば、次に踏み出そうとする足を見てその方向へプレーするように心掛け(重心)→新シリーズ「“重心の逆を取る”とはなにか」
味方のマーカーを観ることも忘れてはいけません。 自分はプレスをかいくぐっても、パスを渡した味方がきついマークに遭うようなプレーは、ボールを失う責任をなすりつける行為です。自分の所でボールロストしたほうがまだマシだという状況も多々あります。
味方のマーカーを観るときも、自分の周囲を見る時と同じように、位置、ベクトル、体勢を確認することが必要です。上手くいけば、敵の逆を取るスルーパスを出すことも可能です。
また、技術の向上に伴ってボールから目を離すことが出来るようになります。トラップの直前に顔を上げるテクニックは非常に重要で、パス練習の反復によって、パスの軌道を予測し、ボールを観ずに止めることが出来るようになります。
とはいっても、ボールを守ることは基本中の基本ですから、敵を見てプレスをかいくぐり、ボールを確保した後に味方を見つけてパスを送れば良いと思います。バルセロナのシャビを見ていても、そのような優先順位でプレーしていることがうかがえます。
味方の位置、ベクトル、体勢を観るのは、パスを繋ぐ上で欠かせませんので省略します。
スペースの見つけ方は戦術眼の優劣に大いに関与します。パッと見てその瞬間に見つけたスペースは、次にプレーしようとした時に敵に埋められてしまう傾向があります。自分がスペースを見た瞬間と自分がプレーしたボールがスペースに到達した瞬間にはタイムラグがあることをわすれてはいけません。そのスペースを誰が埋めようとしているのか、またその瞬間に人がいる場所が数秒後にスペースにならないのかといったことを考える必要があります。
具体的に言うと、
- 味方、味方のマーカーあるいは自分のマーカーが動こうとするベクトルの逆方向にスペースを観る(背中を観る)→関連記事「スペースは背中で作れ」
- 手前と奥に2人の味方が並んで見えた場合は、奥の選手にパスを出す→「重なったらひとつ飛ばす」
- 自分のキックモーションに対して、守備者がマークの受渡しを行おうとしている時は、そのギャップを突くようにパスを出す→「味方を追い越してフリーにさせる」
つまり、スペースを見つけるには人を見れば良いということになります。ですから、始めからスペースを探すなんてことはせずにすみます。人さえ見ていればスペースは見つかるのです。
まとめ:
早い判断のためには、観る対象を絞ることが重要。そして味方より先に敵を見つけることが良いプレーにつながる。スペースの見つけ方は戦術眼向上に直結する。それらはパターン認識が可能なので、普段から意識して取り組むことで確実に向上する。先に味方を見つけるか、それとも敵を見つけるかの違いは、面白い事に、ロングパスをメインに使い広い展開が持ち味のシャビ・アロンソと、ショート&ミドルパスで中盤を組み立てるシャビ・エルナンデスの違いにも見られます。二人共スペインのビッグクラブでプレーするCMFですが、アロンソは味方を見つけるのが上手い反面、近くにいる敵に死角から襲い掛かられボールロストするシーンが散見されます。一方シャビ・エルナンデスは常に直近の敵を観ているため、ボールロストが非常に少なく、球離れは遅いものの、ボールを持つところと離すタイミングの判断が優れていて、参考になります。これからの時代、味方より敵を先に観ることがワールドトレンドとなってゆくのかもしれません。
次→観る6 視野確保の5W1H 協調
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