ブスケツの攻撃における最も重要な役割は、ビルドアップから4番スペースへの接続でした。崩しの局面の一歩手前で気の利いたパスを通すことで、撤退しきった守備網をも破壊する高度に組織化された攻撃を可能にしているのです。
今回はブスケツの役割の中でもさらに重要な守備面について解説したいと思います。
バルセロナの中で最も重要な選手を一人挙げろ、と言われたら僕は迷わずブスケツを推します。なぜなら彼がバルサにチームとしての機能性をもたらしているからです。
もし、メッシがいなかったらバルセロナはどうなっていたでしょう?得点率は半減するかもしれません。あの驚異的な攻撃力の根源はメッシであることには異存がないでしょう。でも、メッシがいなかったとしてもバルセロナらしさ、バルサイズムはなくなることはないでしょう。スペイン代表をみればそれは容易に想像がつきます。
ではシャビの存在はどうでしょう。彼なしでは今のポゼッションを主体にしたチームスタイルはありえなかったでしょう。ですが、最近のチアゴの台頭やセスクの加入、イニエスタの神がかったボールプレーやブスケツの攻撃センスの向上を鑑みれば、今シャビがチームを離脱してもそれほど痛手だとは思いません。シャビの役割はすでに複数の他の選手が代役として振る舞えるほど戦力は充実しているのです。彼には引退後、監督としてピッチに戻ってくることを期待してます。卓越したフットボールインテリジェンスには間違いがなく、おそらくロッカールームでの人心掌握術も持ち合わせているはずなので、きっと良い指導者になるでしょう。
そこでブスケツです。なぜ彼をこんなに評価するかというと、一言で言えば、ボールの回収力とパス&ポジショニングセンスによってバルセロナのサッカースタイルを根幹から支えているからです。そして、この役割を代行できる選手が他にいないことが問題を大きくしています。2シーズン前獲得したマスケラーノはCBとして定着していますし、今シーズン加入したソングはやはりブスケツに比べると見劣りします。バルセロナという特異なチームでピボーテに求められる能力というのは他のチームのそれとは一線を画することを証左しています。
他のチームから代役を探すならば、ピルロとかシャビアロンソが挙がると思います。ピルロなら能力的には十分なので代役が務まるでしょう。ただし年齢に難があります。ブスケツはなんたって24歳(88年生まれ)ですからね。驚異的です。シャビアロンソの場合、彼はトラップが上手くないのと、ファールが多いのに難があります。それと彼のロングキック精度もバルサでは活きないでしょう。
とまぁ、長い前置きはここまでにして、早速ブスケツの守備における戦術的役割を解説して行きましょう。
ブスケツの守備の戦術的役割
- ブスケツ・ゾーン
- ポジショニング
- 前進する守備
- 空間認識力と予測
- 6:4のボディバランス
- 味方との協力
- ボールサイドのケア
- クロスへの備え
- セットディフェンス
ブスケツ・ゾーン
バルセロナはシャビを中心としたパスワークで徐々に敵陣へ侵攻し、相手チームをゴール前に釘付けにします。どうやってボールを前に運ぶかということは、以前書いたサイドチェンジやつなぎのセオリー、スペースの概念にまとめてあるのでそちらを参考に。
そして、時間をかけてセットオフェンスの陣形を組みます。 この時の、ブスケツのポジショニングが一つ目のキーポイントです。
このゾーンをブスケツ・ゾーンと名づけました。ペナの端から15mほど離れた位置に横幅30m取った帯状のエリアを指します。
バルセロナの攻撃が続いている時に、ブスケツはピッチを全方位にカバーできる守備のスタートポジションにつくのです。バックパスの安定した戻しどころとして、攻撃面でも機能します。
ポジショニング
スタートポジションに入ったら、Weather around the ball(球際の状況)によってポジションを左右させます。簡単に言うと、ボールが右に行ったら右に、左に行ったら左にずれます。こうすることで、バックパスを受けやすくすることと、ネガティブトランジションの際にファーストディフェンダーになることを両立させます。
前進する守備
いざ、チームがボールロストし攻撃から守備への切り替えが起こった際、ブスケツは前進しながらボール奪取を試みます。
ここが普通のチームと違う所で、普通ならディレイを優先し後退しながら時間を稼ごうとするはずです。しかし、ブスケツの場合、前進してボールの奪還を目指します。しかも決して裏を取られず、少なくとも相手の攻撃を横に広げさせカウンターの芽を摘んでしまうのです。
これを可能にしているのは、彼の高い空間認識力と予測力です。普通の選手が彼の真似をしようとしてネガティブトランジションで前進して守備をすると、一発でかわされてしまいます。いわゆる"飛び込む”守備ってやつです。これをすると、相手のカウンターを加速させることになってしまい、結果的に「いないほうがマシ」と言われてしまうほどの愚行になるので避けたいところです。では、飛び込まずに前進しインターセプトやディレイを狙うにはどうしたらよいでしょう?
空間認識力と予測
正しい予測を立てるには情報収集が不可欠です。そこでブスケツの守備にあたる際の状況を整理してみましょう。
バルサが相手を押しこみ攻撃している時、殆どの場合、ブスケツより前方に8人ないしは9人の相手選手がいます。
ここでボールを奪われて攻守交代が起きた時、ブスケツの後方には1人か2人のFWしかいません。
後ろ(CB)は確実に数的優位を保っているわけですから、ブスケツは後方の選手配置を頭に入れてパスコースを切りながら前進し、ボールホルダーを外に追い込むように守備をすればいいだけです。
と口で言うのは簡単ですが、実際はもっと難しいです。
刻一刻と選手の位置関係が変わるたびに、頭のなかのポジションマップを更新して行かなければなりません。みたところ、ブスケツは首振りによって後方を確認しているわけではないので、ほとんどイメージで敵選手の位置を掴んでいることになります。これが空間認識能力です。これはほとんど才能と言っていいと思います。
できることと言ったら攻撃最中に後方を確認し、ポジションマップを頭に叩き込むことと、球際の状況に合わせて自分のポジションを調整することくらいでしょう。あとは実際に攻守が交替したら勘を頼りに相手に素早く寄せ、ボール奪取を試みるだけです。一体世界にどれだけこの守備が出来る選手がいるのか、全く想像がつきません。
ただし、こういった守備もブスケツの働きだけで成り立っているのではなく、周りの味方が連動しているからこそ成立することを忘れてはなりません。だからこそ、ブスケツは状況整理をシンプル化でき、前進守備やインターセプトを実現しているのでしょう。
6:4のボディバランス
実際にブスケツの守備をみてみると、相手の選択肢をうまいこと狭め、完全に読み切っているシーンが多いです。これは数的不利の守備対応のセオリーまんまです。
例えば1対2で守備に追われる際、最優先なのは前方へのパスを防ぐことです。この時パスコースの真上に立ってしまうとドリブルのコースを大きく空けてしまい失敗します。なので、パスコースより少し内側に立って、足を伸ばせばパスカットできる位置を保つようにします。
そして、重心は6割ほどドリブルコース側へ傾けます。良い位置に立てても重心のバランスに大きな偏りがあるとパスカットができなくなるからです。これが6:4のバランスです。
この例ではバランスの分配を左右に6:4に振る重要性を取り上げましたが、前進守備の際は、前後に6:4で振ることも大事になってきます。もちろん後ろに6です。前進しつつもプレスをかわされた時に備えて後ろに重心を残しておくことと、インターセプトを狙うために前に4割程度意識を傾けることで、最適な状況判断が下せるように準備出来ます。
最近取り沙汰される「速い攻守の切り替え」を標榜するチームに、この意識が欠乏している傾向が見られます。前がかりにプレスをかけるものの、リスクマネジメントができずにスコーンスコーンと抜かれてしまうのです。
情報収集し、相手の行動を予測した上で、体のバランスを6:4に保つことで、相手の攻撃を読み切ってしまうような守備が実現するのです。
味方との協力
バルセロナの攻撃から守備への切り替えの中で多いのが左の形でのインターセプトです。
ブスケツが縦を切ってドリブルで抜かせたところを横から帰陣する味方がインターセプトする形です。
インターセプトするのはSBやイニエスタやペドロが多いですが、バルサのアタッカー陣はみなこれができます。
ブスケツの前進から始まる守備の形が習慣になっているからこそ、他の選手が最適な位置へカバーリング、プレスバックできるのです。
ボールサイドのケア
とにかくバルサの守備はブスケツを中心に回っています。守備の時は彼がボールに絡むことで、他の選手の体力温存、守備意識の単純化を狙っています。ボールが敵陣にあろうが自陣にあろうがボールサイドのケアに奔走するのがブスケツの役回りです。
クロスへの備え
クロスへの対応は4−4−2のボランチの動きでも学んだとおりです。
セットディフェンス
セットディフェンス時のブスケツの動き方はシャビのPG化という記事で触れました。ブスケツはボールサイドのケアに回り、二人のインテリオールのうちいずれかが逆サイドの中央を埋めるようにします。
相手の攻撃を中央から押し出し、タッチラインと挟み込んで数的優位を作るのが狙いです。そのため、インテリオールのシャビイニエスタセスクよりWGであるペドロ、サンチェス、テージョ、ビジャのほうが守備負担が多いのが特徴です。
相手の攻撃が安定してくると左図のようにバルサの守備陣も安定してきます。
以上見て来ましたブスケツの守備戦術、いかがでしたでしょうか。並の選手にはこなせないほどシンプルで難解なプレーの数々ですね。でも極希にいるんです、こういう守備が出来る人が。野洲の5番なんかかなりセンスが高かった記憶があります。
前進守備、インターセプト、数的不利の対応などは体系的に指導することが難しいんじゃないかと個人的には感じています。風間さんは「2つのパスコースを順次切っていくことが11人で出来れば守備なんて簡単だ」とか言ってますけど、これが出来るのは特定の状況下でしかないことを忘れていますね。
愚痴はこのへんにしといて動画をどうぞ。↓
technical analysis on the Busquets defense from silkyskill on Vimeo.
こんばんは、
返信削除このサイトを見させてもらって1年ぐらいになります。
いつも勉強させてもらってます。
自分はSBをやっています。
今年高校3年になるんですが右利きのチームメイトに左SBのスタメンを取られています。
自分は左利きです。
どうしてもこのチームメイトに勝ってスタメンになりたいと思うのですが、
左SBをやる上で左利きで有利なこと、左利きで出来て右利きでは難しいことがあればあなたの考えを聞かせてもらいたいです。
よろしくお願いします。
SBのポジションで左利きというのはチームにとって非常に貴重です。ビルドアップ段階で縦パスを入れる時に有利だからです。詳しくは4−4−2の遅攻であつかいましたのでそちらを見ていただいて、簡単に説明すると、タッチラインと平行に縦パスを送るときに、右利きだとボールがスワーブしてラインを割りやすいのに比べて、左利きだとインプレーを維持しやすいんです。ですから、ワンステップ30m、プレースキックで40mの飛距離を正確に蹴れる練習をすると良いと思います。縦パスよりボランチへの横パスが優先されるようなチームスタイルだと、左足の利が活かせないこともあります。
削除はじめまして。
返信削除戦術記事が大好きな私にとってはすごく勉強になる記事で、楽しく読ませて頂きました♪
私、「Ad Football」というブログを運営している者なのですが、是非とも相互リンクをお願いしたいと思っております!
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いいですよ。早速貼っときました
削除返信に気付いておりませんでした。
削除大変申し訳ございません。
リンクの方、貼らせて頂きましたので、ご確認宜しくお願い致します!
今後とも宜しくお願いします♪
匿名の方、コメントを手違いで消してしまいました。申し訳ありません。またぜひ書き込んでください。
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