「確かな戦術眼を持っている」とは「3手先を読める」と同義です。3手先を読めるということは、自分の頭の中だけを頼りにした夢想による想像ではなく、経験に基づく直感であり、先手を打つことで敵が不可避に一定のリアクションを取らざるをえない状況を作り出す唯一手です。相手に逃げ道を残してしまっては、完璧な読み切りができませんので、戦術眼が高いとは言えません。
サッカーは平面上のメタ空間に置き換えて戦術を議論することが可能なスポーツであり、選手の動きが時間的な制約を受けるという点で、駒の動きに制約のある盤上競技である将棋に、部分的に近似できます。
ではひとつひとつを例にとって説明してみましょう。
❑垂れ歩での空間作成と楔からの第三の動き
下の動画でよく説明できると思います。
継ぎ歩 空間作成 第三の動き from silkyskill on Vimeo.
これは一番簡単な話で、裏のスペースを取るために一度手前に起点を作って、相手をおびき出す戦術です。
蹴球計画で紹介されている 芯抜きもこのテクニックのうちの一つです。
技術に優れた子供を集めれば、小学生でもできますが、まぁ現実的には中学生までにはできるようにはしたいテクニックです。
❑田楽刺し 2人を狙うクロス
二人を狙うクロスとは、以前「 クロスのトレンド」「クロスの常識、新常識 」で扱ったように、ニアサイドに詰める選手の頭の上か踵の後ろぎりぎりを通過するようなクロスボールが一番得点確率が高いという話です。
田楽刺しは香車で縦に並んだ2枚の相手の駒をいっぺんに狙う定石ですが、下の動画を見て下さい。
と、このように、一度この体制を作ってしまったら、あとは確実にどちらかの駒を取れるという算段です。サッカーの場合は少し難しくて、クロスボールをきちんとファーサイドまで届けなければ成り立ちません。キックの技術が課題です。きちんとボールを蹴れる選手なら、このセオリーを頭に入れることで、ニアの選手が触れるか触れないかのボールでファーをターゲットにすることを意識できるようになり、クロスからのゴール確率が格段に上がります。
この定石はクロッサー視点とターゲット視点での2つの訓示を得ることができます。つまり、クロスを上げる直前からクロスボールが実際にターゲットに届くまでの約1秒〜2秒間にゴール前の状況がどのように変化するかわかるようになるということです。
クロサーから見ると、ニアに飛び込む味方の奥がフリースペースになりやすいことがわかります。また、ターゲットから見ると、ボールとニアに飛び込む選手の延長線上にチャンスとなるスペースが生まれることがわかります。
こうした視点を得ることがまさに戦術眼を高めるひとつのステップであり、トッププロのクロッサーやターゲットマン達はこの視点に非常に優れていると言えます。
❑居抜き1
以前の記事「 崩し論 居抜きパス」で紹介したんで、詳しくはそちらを見ていただくことにして、動画をどうぞ↓
上の例では飛車の利き筋に居座る角が、右に抜けることで、飛車の利き筋が通り、成り込んだ角とともに両王手をかけています。
つまり、二選手が一直線上に並んで見えた時、中間者が抜ける動きをすることで、新たなパスコースが開けるというパスの見方です。人間は動いているものに注意を払う傾向があり、この動きをした時にDFは必ずといっていいほど中間者のランニングに意識をとられます。この隙に奥の選手にパスを出せればまず間違いなくパスは通ります。ただし、タイミングが遅れてはいけません。あたかも中間者の前方のスペースに向かって出すかのようにパスフェイクを入れ、それと同時にボールを蹴る技術が求められます。
❑居抜き2 両取りとスキップスルーパス
ちょっと難しくなってきますが、次も居抜きの形です。角の利き筋にいる歩を進めて、歩と角でそれぞれ違うあいての駒に両取りをかけます。
スキップスルーパスとは出し手と受け手の間にもう一人味方選手がいる状況で、出し手がその中間者を囮に使ってだすスルーパスのことを言います。パスは中間者のすぐ近くを通すほうが効果が高く、綺麗に敵を出し抜けます。このへんのことは「 重なったら一つ飛ばす」という記事に書いたのでご参照に。
上の例ではアレクシス・サンチェスの囮の動きが非常に狡猾で、彼は後方のスペースとメッシを首振で発見すると、バックステップをしながらわざとイニエスタのパスコースに寄っていきます。これによって、サンチェスをマークしていたハビマルもアウルテネチェも一瞬躊躇してメッシの使いたいスペースへのカバーリングに遅れてしまいました。
❑居抜き3 両取りとスキップスルーパス2
スキップスルーパスといえばエジル、ってくらいエジルがコノ手のパスを常に狙っています。上の例とさほど違いはありませんが下の動画をどうぞ。
エジルのパスは手前で爆走するディ・マリアに合わせる姿勢から、奥で裏抜けを図るクリスティアーノ目掛けて送られました。このワンモーションの間に、クリスティアーノのマーク担当であったマスケラーノは手前のディマリアのスペースへのカバーリングのために2,3歩斜め前に釣り出され、その結果、クリスティアーノのシュート時の寄せの遅さにつながりました。
スローで目を凝らさないとわからないほど微妙な駆け引きですが、居抜きの定石を知っているとぱっと見てなにが起きているかわかるようになります。僕はエジルがどこへパスを狙っているか2秒前くらいにわかることがあります(自慢気)。
❑焦点の歩とポケットプレー
これも以前書きました。詳しくは「 焦点位置とプレーイメージ」を参照に。
焦点の歩とは、相手の2つの駒の利き筋が重なっているところに歩を打ち込んで、どちらかの駒が反応して歩を取れば、それに応じて相手の利き筋がひとつ消えるので、そこへ自駒を進出させていくという定石です。
このブログではポケットプレー 、いわゆる三角形の重心レシーブを事あるごとに推奨していますが、いざポケットで受けたとき、次にどのようにプレーしたらよいかわからなければ、意味がありません。
ポケットに陣取るとは、複数の相手のマークに遭うことを意味します。ですから、寄せてくる敵の方向によって柔軟に判断を下さなければいけません。こんなとき、焦点の歩が役に立ちます。つまり、寄せてくるDFの方向をある程度パターンで頭に入れておいて、即時的に正しいプレーを選択するのです。
実際にはポゼッションドリル等で中間ポジショニングの練習を積まなければ実践できないでしょう。
まとめ
将棋の定石とサッカーのセオリーは部分的によく似通ったところがあるため、将棋を勉強することでサッカーの戦術眼を磨けるのではないか、というのが今記事のテーマでした。特にパスにまつわる読みの訓練に一役買うと僕個人は思っていますが、どうでしょうか?
居抜きに関しては多分16歳以上のチームでないと理解できないのではないでしょうか。個人差で言えば小学生でもデキる子はいるだろうけど、チームで取り組むとなった時、早熟な中学生か高校生にならないと難しくて理解できないであろうと予測しています。
サッカーの判断力を磨くために将棋を勉強するならば、3手詰めや次の一手問題集をやることをオススメします。サッカーでは5手以上先を読むことはないですし、深読みしても外的因子の影響ですぐに戦況が変わるのであまり意味はないと思うからです。ただし、やはりすぐ先の未来を読める能力は重宝しますので、3手詰めがベストではないかと思います。
今回紹介したサッカーと将棋の類似点は僕が発見したものの全てですので、他にこれだと思うものがあればコメントください。
次→将棋とサッカーの共通項3
おもしろい考察ですね。
返信削除将棋もサッカーも有効なスペースの取り合い。狙いの形に向けて相手を動かしてビルドアップする。
敵陣に駒を進める、PA、バイタルで前を向くなど似通った部分は多そうですね。
駒の個性を自由に選択できる点ではサッカーのほうが選択の幅は広いかもしれませんね。
コメントどうもありがとうございます。将棋とサッカーの共通点については投下した三記事で全て説明できていると自負しています。つまり、これを読んで全部理解すれば将棋を勉強しなくてもいいよと。。。特にこの記事は重要です。多くの方に読んでもらいたいですね。
削除ナリキン!という漫画があるのを先ほど知り、興味を持ちました。サッカーと将棋の類似点がより広く知れ渡ることを祈るばかりです。
サッカーも将棋も定石ありますよね。
返信削除子供も小学生でサッカーしており、自分と家で将棋も指しますが、
どうも目先の攻防に目が奪われがちで・・・
先が見えないとプレー出来ないのは共通ですね。
偶然なのか必然なのか