footballhack: 2011年サンフレッチェ広島の問題点を総括する

2011年12月26日

2011年サンフレッチェ広島の問題点を総括する

Jリーグが終わり、年末が近づく今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょうか。今回は事後的で申し訳ないのですが、今年のサンフレッチェを総括したいと思います。

サンフレッチェについてはネット上で様々な議論が交わされています。例えば下の
スポーツナビ-広島が起こすセンターバック革命
あるいは
メディアプンタ-サンフレッチェ広島についての考察 
こういった記事に広島のことがよくまとめられていますので、参考にすると良いと思われます。

今季のサンフレッチェはご存知の通りミシャ・ペトロビッチ監督の6年間の集大成を披露する最後のシーズンとなり、J制覇少なくともACL出場圏内を目標としていました。しかし結果は7位。その問題点を明確にするためにも、下の順位変動図をまずは見てみましょう。

キーポイントは7月と10月で、特に10月の最後、対柏戦を落としたことが、終盤で上位に食い込めなかった理由の一つにあげられると思います。

広島の問題点は暑さに弱いことだと結論づけたいんですが、7月に1分けを挟んで三敗したことがそれが説明していると思います。

ではなぜ、広島が暑さに弱いのか検証してみましょう。




守備の問題点                               

 以前、サンフレッチェ広島のシステムに潜む機能美という記事で、広島はセットディフェンスの際左のような陣形を組むという話をしました。

2シャドーがウィングバックの前まで戻り中盤で4枚のラインを形成するというものです。

この陣形を組めた時は安定して守ることができていました。

しかし、実際には下のようになることが多かったです。
 2シャドーは中央よりやや高めの位置にとどまり、攻撃に備える陣形です。

このポジショニングの意図は以下のとおりです。
 ボランチ、2シャドー、ワントップで円陣を組み、中央を固め、相手の攻撃をタッチラインに追い込むようにします。ボランチは前へ前へプレッシャーを掛けて相手の攻撃をサイドに追い込むようにしていました。

5バックは弧を描くように並び、そこからボールの位置に従ってツルベの動きで相手のボールホルダーにプレッシャーを掛けます。


この陣形の意図は相手に中央を使わせないことと、2シャドーに攻撃体力を温存させることでした。
 しかし、この守備体系には弱点がありました。


オレンジの楕円で示した、ウィングバックの前のスペースをポッカリと空けてしまう点です。

Jリーグにはサイドバックを起点としたサイド攻撃を主軸に攻撃を組み立てるチームが多いですから、 この守備の方法だと相手のいいように攻撃を展開されてしまいます。

また、このスペースを埋めるためにウィングバックとボランチの4人は長い距離を走らなければならず、体力を消耗してしまいます。また、結果としてオレンジの楕円を埋めるのに時間がかかってしまい、守備が後手後手にまわってしまいます。

では実際の試合映像から、どのようにこのスペースを使われてしまっていたのか見てみましょう。

 写真は対柏戦、白が柏、紫が広島です。

右サイドからセンターバックを経由して柏の左サイドバック橋本へパスが出ます。
 橋下に寄せるのは広島のウィングバックのミキッチですが、だいぶ遅れているのが分かります。

橋本は余裕を持ってサイドに流れるワグネルに縦パスを送ります。

ワグネルに付く右センターバックの森崎和幸は中央のポジションから離れざるを得なく、これも遅れて付いて行っているのが分かります。

 ワグネルはパスを受けてクロスを上げました。結果としてこのクロスは危険なものにはなりませんでしたが、広島の守備は相手のサイド攻撃に対して後手に回っているのがわかります。

また、この形からMFがSBにパスを下げそこからクロスを入れる形も頻発します。広島の守備はサイド攻撃を受けやすい構造になっているんですね。

事の発端はミキッチのアプローチの遅れです。ミキッチ本人が悪いわけではなく、広島のシステムの構造上の欠陥として、サイドへの対応が遅れてしまうのです。

また、サイドへ流れる相手のFWやMFに対して広島の3バックが長い距離を移動しなければカバーリングに行けないことも問題です。

広島の守備はこのようにサイドを自由に使われてしまうという欠点があります。これを埋めるためにボランチとウィングバックには90分通して過大な運動量を要求され、結果的に夏場の暑い時期に走り負けてしまうことになるのだと思います。

また、サイドを崩されることを前提に守備を組み立てている割に、クロスに対しての守備が甘いことが大きな問題です。このことは上記に上げた記事の中にも書いてありますが、広島のセンターバックはゾーンで守っているにもかかわらず、ラインコントロールが曖昧になっています。結果オフサイドの取り損ねでピンチを招くシーンが多く、特に中島のクロスに対してのマークの見切りの速さは問題です。もともとセンターバックを本職にしている選手が少ないことが一因かもしれませんが。

攻撃の問題点                                
次は攻撃の問題点です。
 広島の攻撃の問題点を洗い出す前に、一般的な攻撃の組み立て方をおさらいします。

一般にスペースと呼ばれる地域は左図で示したとおり、3つあります。DFラインの裏、これは一般的に「裏」と呼ばれます。そしてDFとMFラインの間、一般にバイタルエリアと呼ばれますが、ここでは1.5列目と呼ぶことにします。

最後にFWとMFの間、これを2.5列目と定義します。余談ですが、このエリアにバイタルエリア同様、何か呼びやすい名称をつけたほうがよいと考えています。なにかないでしょうかね?
 広島の攻撃は前述の3つのスペース(に加えサイドのスペース)を行き来するようにパスをつなぎながら崩すように組み立てられます。

ここまではセオリー通りで非常に理にかなっているのですが、問題は1.5列目から裏を狙うときのリズムにあります。
 では実際の試合映像から検証してみましょう。

ボールを持った中島から、写真には写ってないですが佐藤寿人が右下から降りてきて1.5列目でポストになります。
 寿人はDFラインに位置取る李にフリックパスを通して動き直します。
 李が寿人にパスを落としている間に、高萩が動き出して裏を狙います。
 寿人から高萩へダイレクトパス。これは柏のDFに引っかかってしまい攻撃は成功しませんでした。

中島のパスからここまで、全てワンタッチで行われています。

また、攻撃の最終局面(左図)から分かる通り、柏のDFは中央に収束しています。






 広島の攻撃のパターンをわかりやすくイメージにしたのが左図です。

クサビのパスやフリックパスを多用して2.5列目、1.5列目のゾーンを行ったりきたりしながら前進していきます。

このときポストプレーからのダイレクトパスが主に使われます。





一般に短いダイレクトパスの交換はDFを収束させる効果があります。収束したDFの間にパスを通すことは非常に難しく、収束させたら拡散させるように横へ広げるパスを狙うのがセオリーです。しかし、広島の攻撃は一旦スピードに乗ってしまうと、崩しきるまで中央を使う形が多く、途中で引っかかるケースが頻発します。


また、動きながらのワンタッチパスは、止まったりスキップ系の動きを使いながらのワンタッチプレーと比べて難易度が高いので、失敗する確率が高まります。

しかも、一度攻撃のスピードを上げると、前方へ体が流れてしまうので、攻撃から守備への切り替えが遅くなります。高い位置でボールを奪い返す守備が難しいどころか、ディレイさえままならず、そのままカウンターを受ける形が多く見受けられます。

理想は左図のように各ゾーンでタメを作ることです。

横パスやドリブルで引きつけてからゾーン移行を試みます。このようにすることで、相手の守備組織の収束と拡散のギャップを狙えるようになります。

崩しの局面では正対からのタメと複数選手のコンビネーションランで出し手に常に2つの選択肢を見せることを心掛けます。見合いの概念を上手く使うことで、同時に防げない2つのパスコースを出し手に提供し、相手の守備をご手に回らせることができます。

2タッチプレーやドリブルを織りまぜた攻撃は、スキップ系の移動手段の多用を助長します。スキップ系の移動は360°全方向へのスムーズな移動を可能にしますから、攻撃から守備への切り替えにおいても有利です。

ワンタッチプレーから前に加速する攻撃では、ボールを奪われた後、前進した分だけ後退しなければならず、余計な運動量がかかってしまいます。つまり、ダッシュした距離だけダッシュで帰陣しなければならないのです。

まとめ                                     

守備においてはボランチの上下動と左右へのカバーリング、ウィングバックのツルベの動きにかかる負担が増大するので、 夏場は走力が持たない。

攻撃に関しては拙速な崩しが多いので、攻撃陣の帰陣にかかる負担が増大する。結果、後半の走力不足につながる。

つまり、各ポジションによって課せれる走力体力のバランスが悪いということです。走る距離をより均等に各選手に分担できる組織づくりが出来ていれば、結果は違っていたと思います。

あまり断定的に書くのもよろしくないですが、僕の見立てでは広島の順位沈下の原因はシステム構造上の走力不足・不均衡によるものです。

本来パスサッカー、ポゼッションサッカーを標榜とするチームは夏場こそ強さを発揮します。なぜなら、パスを回すことで相手チームをより長い時間走らせることができるからです。シーズン序盤、広島の選手が口々に「うちのチームは後半に強い」というような発言をしたこともこれを立証しています。しかし、実際には広島のセットディフェンスにおける走力の不均衡、また崩しの局面で容易にボールを失ってしまうことが災いし、夏場によい成績を残すことが出来ませんでした。

秋以降、チームは調子を取り戻せず7位に沈んでしまいました。これはペトロビッチ体制としてのチームサイクルの摩耗、つまり熟しきってこれ以上進化できないという状態を表しています。

ペトロビッチが仮に来季も続投するならば、更に進化できる余地としては、正対を使いこなし三者関係で崩しを視ることが出来る攻撃的MFと、クロスの対応に強くビルドアップも得意なCBの獲得あるいは育成が挙げられるでしょう。広島はユース組織が有望なのでこういった選手が出てくることを望むばかりです。

ミシャが辞めるタイミングとしてはベストだったのかなと。寂しいですが、来季から浦和に就任ということで、Jリーグを去るわけではないので、これからの浦和の改革に期待しましょう。

関連記事→サンフレッチェ広島のシステムに潜む機能美

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