4−4−2の完成その次にはどんなステージがあるのでしょう。一つの課題としてはトランジションが挙げられます。ここではサッカーより戦術的に20年先を行っているといわれるバスケットボールのトランジションセオリーからトランジション・ディフェンス(攻撃から守備への切り替え)を理解してみましょう。
バスケットは1チーム5人でポジションも背の高さで決まっているので、サッカーよりポジション毎のプレーパターンを決めやすいという傾向があります。セットプレーだけではなく流れの中でも練習したことが試合で出来るというイメージでしょうか。また、切り替えの発生もシュート後だけにほとんど限定できます。ですから、サッカーよりトランジションのルールをチーム戦術として浸透させやすいという側面があります。だからバスケットのほうがこの方面の戦術的用語や蓄積が多いのです。大いに参考にしましょう。
ここで参考にするのはこちら→ Basketball Coaching Home Page - Transition Defenseについて考える
すべて読む気力と時間がある人には以下の文章は役に立たないと思いますが、上記のバスケットボール指導者向けの解説を僕なりにサッカー用に翻訳したものを載せてみますので参考にしてください。
順序としては引用文→解説→サッカーに置き換えた説明、の順で行きます。バスケ用語の理解はスラムダンク読破レベルを基準とします。では
トランジション・ディフェンスにおける防御側の第1の課題は,「オフェンス・リバウンド・ポジションを確立する」ことであり,そのことによって「アウトレット・パスの時間を遅らせる」ことである.ここでいうアウトレットパスとはリバウンドを拾われた後の最初の1本のパスを言います。密集地帯から外に逃がすパスをイメージするといいでしょう。
攻撃が失敗に終わり守備に切り替えるとき、相手のパスの一本目の精度を落とすことができれば、カウンターを防ぐことができます。ここではボールを取り返しに行くリスクの高いプレーを目指すのではなく、相手のプレーの質を落とすことを目標にしましょう。時間を掛けて送らせて、苦し紛れのパスやバックパスを選択させれば、ファーストディフェンスとしての役割は十分果たされます。
バルセロナやドルトムントのように素早く奪い返す華やかな守備が脚光を浴びる昨今ですが、良い守備はコツコツした努力によって生まれます。チーム戦術の浸透を図る段階では奪い返しに行く守備ではなく遅らせる守備を課題にしましょう。
トランジション・ディフェンスにおける防御側の第2の課題は,3人がどれだけ速くペイント(制限区域)に戻れるか」である.2人の帰陣だけでは,3線速攻でアウトナンバーされる可能性が高い.
ペイントとはゴール下のことです。3線速攻とは3人プレーヤーが並行に走る速攻のフォーメーションです。アウトナンバーとは数的優位になることです。
ここでは数の論理が紹介されます。バスケットは5人で行うチームスポーツですから、その過半数の3人が素早く帰陣する必要があるということです。3人の守備をアウトナンバーするためには4人を速攻に使わなければなりませんから、こうすると4−1と後方が数的不利になりバランスを保てません。3線速攻が有効なのは幅を使える点もそうですが攻守のバランスにおいても優れるからだと思います。そこで3人以上の帰陣が必要になるのです。
サッカーでは10人のフィールドプレイヤーの過半数である6人以上の素早い帰陣が求められます。4−4−2では2ボランチと4バックで6人になります。ボランチが攻撃参加したらSHかFWがその役目を負うと良いでしょう。6人の守備をアウトナンバーするには7人以上で攻めないとなりません。カウンターに7人を費やすチームはそうそうないですから、6人の守備への素早い反応があれば、一旦はカウンターを阻止することができます。この人数の論理をよくチーム内で共有する必要があります。
トランジション・ディフェンスにおける防御側の第3の課題は,「ゴールに近い危険な選手から優先的にピック・アップする」ことである.後の項で詳細に記述するが,大切なことは「自分のマーク・マンを捕まえる」のではなく「自分の役割を果たす」ということである.
ピックアップはマークを捕まえるという意味です。バスケではマークマンといって試合中に常に自分の担当となるマーク対象をあらかじめ決めます。セットプレーのようにね。しかし、ここで言われているのはマークマンに気を取られすぎてゴール下に走りこむ選手をフリーにしてはいけない、ということです。
ポジション的に対面する選手がサボって上がってこないからといって、自分も前残りするようでは現代サッカーの早い流れについていけません。対面する選手の動向にかかわらず、ボール際の局面の判断と大局観をもって適切にポジショニングしなければなりません。「自分の役割を果たす」というのはトランジション局面にしたがってチームに課された役割をこなせるか、それによってチームに貢献できるかということです。
ゲームを観察していてしばしば見られる問題の一つが,コーナーからシュートを打って,そのままコーナーにステイする(居残る)ケースである.シュートを打った後に,そのシュートの軌道を目で追いながら,その場に残ってしまうのである.このケースの問題点は,シュートが成功した場合は良いとしても,もしシュートが不成功でロング・リバウンドになってしまい,相手にディフェンス・リバウンドを確保されてしまうと,一瞬にしてアウトナンバーされてしまう可能性があるということである.このコーナーの位置は,最もアウトナンバーされやすいポジションなのである.したがって,コーナーからシュートを打った場合には,先ず自分の側のミドル・ポジションへ移動し,ロング・リバウンドに備えた上で,相手にディフェンス・リバウンドを獲られたら帰陣するという順で行動する習慣を付けることが重要である.シュートされたボールは,手から放れた瞬間に「どちらのチームの所有でもない中立」のボールになる.空中のボールをどんなに眺めていても,ゴールへと入ってくれる手助けにはならない.それよりも,次の行動をいち早く始めることが大切であろう.
これは個人技術に関わる重要なことなので長めに引用しましたが、簡単に言うとシュート後の切り替えを早くしようということです。シュートを打ったら戻ることを自動化することが現代サッカーには求められています。
木崎伸也のフットボール新語録ードルトムントの育成責任者が明かす、 アカデミーの急成長と“新たな香川”。
上のリンク内にもドルトムントアカデミーで習慣化されているシュート練習の方法が紹介されています。
ここからバスケ専門語のポジションネームが頻発するので読むのに一手間かかりますが、簡単に気になったところを引用してみました。
ここで問題となるのは,Jammerのねらいは「アウトレット・パスを少しでも遅らせる」ことであり,「リバウンダーのボールを取る」事ではないということである
jammerとはリバウンダーに一番近い選手で最初にボールプレッシャーを掛ける選手です。
ファーストディフェンダーの振る舞い方と言うのがトランジションの際にはかなり重要になってきます。ここの理解が低いチームだと、いくら走れてモチベーションが高くても戦術的に攻守の切り替えをコントロールすることは難しいでしょう。
重要なのはボールを奪いに行くのではなく、遅らせることです。またプレーの質を落とさせることです。攻撃から守備への切り替えの時は、目の前に人参をぶら下げられた馬のようにボールへ猪突猛進しがちです。普段なら取れそうもないと思えるボールにも食いついてしまうのです。そしてハイリスクハイリターンの守備行動をとってしまうのです。そこで自制してリスクをしっかり判断し、堅実な振る舞い方をすることで、チーム全体の切り替えの精度が上がっていきます。
「サイドライン・トライアングル」の位置を埋めることが重要である.縦パスは,一気にボールを前へ進めてしまうことになり,そこから素速く攻撃を開始されてしまう恐れがある.
サイドライントライアングルとはサイドライン付近でボールを持った選手に対して、カバーリングの選手が斜め後ろに位置することで、サイドラインと平行な縦パスを防ぐ狙いを持つことです。
縦パスは攻撃を早めるパスです。ですからまずは相手の前に立って縦パスを防ぎます。そしてカバーリングの選手も縦パスを防ぐ位置に優先して入りつつ、自分のマーカーも横に捉えて守備に当たります。これが縦切りです。4−4−2のゾーンディフェンスで、SHとSBの関係でもさらいましたね。
インサイド,ミドル,セーフティーというリバウンド・ポジションと,そこから始まるjammer,first safety,outlet defender,release man,sprinterという個々の選手に与えられた役割を理解することが,トランジション・ディフェンスを成功させる鍵になる.指導の導入段階においては,リバウンド・ポジションや,それに続く自分の役割を,声を出してコールさせることが必要である.声を出すことによって,自分が果たすべき役割を認識する習慣が身に付くと考えられる.
バスケには特有のゾーニング(エリア分け)と役割別のポジションネームがあります。それぞれの役割をチーム全体で共有した上で守備に入ることがまずは大事です。そして、声が大事です。声を出すことで味方にプレッシャーを掛けて高め合うことができます。自己申告制にするとポポビッチに怒られるのでやめたほうがいいですが笑、明確に戦術的役割を分けることはコミュニケーションによってしか成し遂げられません。積極的に声を出していきましょう。
但し,これには長身者の機動力をある程度強化する必要がある.少なくとも,相手のドリブルに対して遅れずに付いていけるだけのスピードが必要不可欠であろう.また,1線目の圧力が全く無いようではプレスの意味がなくなるし,1線目を突破された場合に素速く帰陣する脚力が無ければ,相手チームに簡単にアウトナンバーされてしまい,プレスがかえってあだになる.
この引用は個人の特性によって求められる守備負担が変わるという文脈から出てきたものです。バスケットにおいてもサッカーのように守備を免除する(あるいは負担を軽減する)こともあるんだと、気になった部分です。そして、そういった守備嫌いで苦手な選手にも守備をさせなければならず、そのために機動力強化という名目でステップワークとかシャトランの個人練を課すこともよくあるんだろうなと妄想しました。このへんはサッカーも同じですね。頭の痛いところです。
とりあえずバスケから学べるトランジション理論は以下のとおりにまとめられます
- 奪いに行かず、遅らせる
- 過半数が帰陣する
- 自己犠牲し役割を理解する
- シュート後は素早く戻る
- 縦切り
- 声を出す
- 個性を理解する
サッカーの切り替えとは戦術的に違う部分が多いですが、コンセプトなどはかなり似通っていると思います。これからもバスケの戦術を模倣していきたいのでなるべく最新の情報で有用なものがあれば教えて下さい。
0 件のコメント:
コメントを投稿