サッカーの試合では思った以上に浮き球を処理しなければならない場面に出くわします。グラウンダーのショートパスを主体にトレーニングをしていても、いざ試合になると「ボールを浮かせるな」だとか「ボールを落ち着かせろ」なんて怒号が飛び交うのが日常茶飯事でしょう。
なぜ浮き球が多くなるかというと答えは簡単です。セットプレーがあるからです。セットプレーといってもここで言及するのはゴールキックやスローインのことです。これらのセットプレーは直接得失点に関わらないと考えられがちですが、よくよく試合を分析すると非常に重要であることがわかります。
キッカー、あるいはスロワーは片一方のチームが担当しますが、受け手側が必ずしもボールを保持できるとは言えないのが、この種のセットプレーです。受け手は必然的に浮いたボールを処理することになるので、ルーズボールになりやすいのです。不安定状態を招きやすいと言い換えることもできます。この不安定状態を安定状態に導き、戦局を優位に運ぶことができれば、試合に勝つ可能性がぐっと高まります。
今回はゴールキックやスローインから始まるプレーの中で浮き球の処理について書きたいと思います。
今日はこの図で遊びます。↓
絵心がないのでダ・ビンチ先生の図を拝借して人形を作ってみました。
浮き球を足でトラップする場合
足を上げるトラップの意味を再確認してみましょう。ロングパスを止める場面を思い浮かべてください。あなたならどうやって止めるでしょうか?
たぶん、多くの方は足を上げて利き足のインサイドで止めると思います。なぜならそうやって教わるからです。ちなみに浮き球が止まる仕組みは蹴球計画さんのコントロールの記事群で解明されています。キーは脱力と受動的変形でしたね。
強烈なボールをあるいは長距離のパスをインサイドやインステップを使ってふわりと止めてみせるプレーは、一種の芸術性さえ感じさせてくれます。ジダンとかベルカンプなんかはこの手のプレーが非常に上手でした。
ですから、彼らを見て育った世代の選手は、特に25歳以上のMFの選手には、
(←画像クリックで素敵な動画へ)
"ボールは浮いていようがイレギュラーしようが足で止めるもんだ。そのほうが格好いいに決まってる!”
という固定観念があるように思います。
しかし、待ってください!よくよく考えるとどんなボールも足で届く範囲なら足で止めるほうが良いとする考え方には無理があるように思えます。
足を上げてボールを迎えに行った時、足の甲でもインサイドでもボールとの接触面はやや上向きになるはずです。
つまり、足を上げるトラップはノーバウンドの浮き球を処理するときには向いているが、ショートバウンドの処理には向いていないことがわかります。
また、人間の目は下から浮き上がってくる物体より、上から落ちてくる物体を捉えやすいようにできています。重力に従って物が上から落ちてくる現象は日常的に見慣れていますが、物が下から跳ね上がってくるような現象は非常に特殊だからです。このことから、ショートバウンドを足で捕まえるようなトラップは非常に難度が高いことがわかります。
このことを気付かせてくれたのが、バルサの選手達やうちの社会人チームのエースでした笑。彼らは足をあげることを積極的にはしないんですね。
これはなぜかというと、ニュートラルを維持できないからなんです。蹴球計画で学んだ通り、上手な選手ほどニュートラル姿勢を長い時間維持できます。
足を上げるトラップは片足立になり、ボールを正中線からずれた位置で捉えようとするテクニックなのです。
つまり、自らバランスを崩しながらプレーしていることになります。足を上げるトラップの難点は
- 片足立でバランスを取ること
- 正中線からずれた位置でボールを捉えること
- 正確な高さに足を差し出すこと
- 脱力すること
しかし、サッカーの試合では敵がいます。ボールをどんなに綺麗にピタっと止められたとしても、奪われてしまっては意味がありません。
足上げトラップの最大の弊害は着地の遅さにあります。
特に敵と並走している時や、ロングパスの滞空中に敵がアプローチを仕掛けてきた時には、この弊害が大きな敗因になります。
では、蹴球計画さんで紹介されているように、足の裏でボールを地面と挟むタイプのコントロールはどうでしょう?
このコントロールはプレーエリアをボールの落下地点付近に限定してしまう特徴があります。
したがって、落下地点から離れた位置から、落下地点に向けて走りこむようにコントロールすると、ボールを大きく弾いてしまう結果になります。
こうなると、敵と競り合った状態や敵に囲まれている状態では、コントロール後のボールをめぐって激しいフィジカルコンタクトを招く要因になり、背の小さい選手や線が細い選手には極めて不利です。
そこで提案したいのが、ショートバウンドをお腹で止める技術です。
お腹で止める、略して腹トラ
ショートバウンドのパスを足で止めるのが難しいのならば、体の他の部位を使えばいいまでです。足でのトラップはボールとの接触面が上向きになってしまうことが問題でした。では他の部位のなかで接触面を下向きに出来る箇所を探してみましょう。
上体を前屈みにすることで、お腹が下方を向くことがわかります。今回はここを使います。
この方法の優れた点は以下にまとめられます。
- 大きな筋肉で接触するため柔らかく止められる
- ボールを正中線で捉えられる
- ニュートラル姿勢を維持できる
- 小さな動作で実行できるため次のプレーを敵に予測させない
- 足を上げないため次の動作への移行が早い
- 正対への接続がスムーズ
よくよく考えると、なんと足を使ったトラップより6つの点で優れていることがわかります!
特に正対との接続、次の動作への移行の2点において、現代サッカーに求められる技術の要素を満たしており、敵との競り合いや敵に囲まれている状態でのプレーに向いていることがわかります。
そして、最後に言えるのが、この技術がトップレベルの試合で用いられる頻度!きちんとした統計はとっていませんが、主観的に言えば、胸トラップより使われる場面が多い!!! もしどなたか時間を持て余したサッカー愛好家の方がいらっしゃいましたら、無作為に選んだトッププロの試合の中から、胸トラップと腹トラップの使われる頻度を比べてみてください。きっと驚きの結果が出るでしょう。
この技術は必ずしもお腹を使わなきゃいけないということではなく、上体を前屈みにした姿勢で胸を使っても構いません。
もう一つの隠された技術、直立腿トラップ
この腹トラと並行して覚えたいのが直立腿トラです。
モモでトラップする時はやや片足を浮かせてモモを上げるように教わりますが、トッププロの選手たちはほぼ直立のまま腿トラップを実行します。
利点は腹トラと同じです。ただし、腿でのトラップは強いボールを止めるのには適していません。
理由はお腹より的が狭いことと、お腹より筋肉が小さいためにクッション性が低いからです。
しかし、ニュートラルを維持できるのですぐにパスやドリブルなどの次のプレーに移ることができます。特にスローインを受けるときなどに重宝します。
まとめ
まとめますと、
❏ ノーバウンドの浮き球をコントロールする時
- 胸トラップ
- 腿トラップ
- 足でのクッションコントロール
- 落下地点に入り、足の裏でボールを地面と挟む
胸トラップ後はなるべく高い位置でボールに触れて動かしていく、2タッチコントロールの技術を使うと敵をいなしやすいです。
❏ ショートバウンドの浮き球をコントロールする時
- 前屈みになって胸で止める
- 前屈みになってお腹で止める
- 直立のまま腿で止める
- 腿でも止められない低いボールは足で止める(ただし失敗しやすいので注意)
参考動画できました↓
腹トラ、腿トラ from silkyskill on Vimeo.
今回お送りしました腹トラと直立腿トラ、実際に導入するには発想の大幅な転換が求められると思います。まず、うまい選手ほど足を上げないということ、お腹を使う技術は決して格好悪いものではなくて逆に高度な技術であること。これらのことを頭に入れて明日から練習に励んでください。
練習といえば、日本サッカー界には基礎練と呼ばれるドリルトレーニングがありまして、これは2人組で対面になって、片方がボールを手で投げ、もう片方がそれを指定された動作で蹴り返すというものがありますね。このドリルをもう一度見なおしてみてください。胸トラップや腿トラップは行いますが、腹トラップはやりませんね?また、ノーバウンドの処理ばかりで、ショートバウンドのコントロールのメニューは組み込まれてませんね?みなさん、明日の練習から、この基礎練にショートバウンドの処理メニューを組み込んでください!!毎日練習すれば、効果はきっとすぐに出ます!!
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