ビエルサ×ビルバオのサッカーを味わうためのメニュー
- システムの見方
- 4−3−3?
- 4-2-3-1亜型
- 4-1-3-1-1
- ポゼッション
- 攻撃時間を長く、守備時間を短くする
- ゲームの支配
- スリーバックポゼッション
- リスク管理
- タッチラインを使う
- ロングフィードを使う
- サイド攻撃
- デ・マルコスの外流れ
- WGの差金の動き
- クロスランニング
- 二次攻撃
- やり直し
- オンオフポジショニング
- 外流れ待機
- インナーラップ
- 8の字ローテーション(渦巻き理論)
- 中央は最後に使う
- 崩し
- ローポスト攻略
- 三者関係
- クロスに対してゴール前の人数を増やす
- 攻→守
- マンツーマン採用の必然性
3までは前回の記事で学びました。4以降でどのようにサイド攻撃を組み立てているか考えて行きましょう。
サイド攻撃
ビルバオは3バックポゼでビルドアップを開始し、ボールを落ち着けたら、一旦サイドバックにボールを預けます。そして、サイドバックから縦にパスコースを探し、一次攻撃として同サイドを縦に攻め切って行こうというのが基本スタイルです。
基本的には外から中へ、中から外へ交差する動きを組み合わせて、スペースを創造します。このときスペースとは人が走りこむためのスペースとパスを通すためのスペースの両方を指します。
ごちゃごちゃしてわかりづらいので、一つづつ手にとって考えてみましょう。
1. デ・マルコスの外流れ
ビルバオのサイド攻撃で最初に目に付くのはデ・マルコスの外流れの動きです。殆どの攻撃が彼のカットアウトから始まるといってよいでしょう。
後に見ていきますが、ムニアイン、スサエタが切り込み隊長なら、デ・マルコスの役割は“門を開ける人”と言ってもいいかもしれません。それほど彼の役割は重要です。
デ・マルコスが外に流れたところにイラオラやアウルテネチェから縦パスを送り、そのままクロスを上げるかあるいはターンして攻撃の起点になるのが第一手です。この動きだけを取り上げれば、決して珍しいものではなく、他のチームや中高生のチームでも頻繁に見られるものですが、ビルバオのビルバオたる所以はこの外流れの動きに他選手が連動して崩していくところにあります。次の図を見てみましょう。
2. WGの差金の動き
4−4−2の遅攻の組立を扱った記事の中でも紹介しましたが、この差金の動きを効果的に組織的に取り入れているのがビエルサ・ビルバオの特徴です。
このWGの差金の動きにはWGにとって2つの意味があります。ひとつは中央のスペースで足元でパスを受けること。もうひとつはローポストに向けて飛び出すことです。
ビルバオの場合、外流れの動きと差金の動きを組み合わせてサイドのスペースを効率良く使うパターンが定着しています。
3. カットアウトとカットインのクロスランニング
先ほどの外流れと差金の動きを組み合わせると左図のようになります。
ランニングのラインが交差しているのが良くわかります。これにより、相手のマーカーはマークの受け渡しをするのかマンマークで付いて行くのか躊躇することになり、後手を踏みます。受け渡すなら一瞬マークが浮くところでパスを試み、マンマークなら作られる広大なスペースへ向けてパスを放り込めば良いのです。
例えば、デ・マルコスにパスが渡ったら左図のようにスサエタがローポストに走りこむことで、2つの攻撃の形をつなげることができます。
スペースを作り、使う、また攻撃をつなげるという点でこのクロスランニングは非常に有効です。
このクロスランニングは2つのスペースを創造することを目的としています。
差金の動きはタッチライン際にパスコースを生み出し、外流れの動きはDFを引き連れることでCBとSBの間のローポストにスペースを生み出します。
例えば左図のような状況でWGの差金の動きなしで外流れを敢行すると、味方のWGとそのマーカーがパスコース上で邪魔になり、パスが難しくなります。
仮にパスが通ったとしてもパスを受けたFWの選手は自分のマーカーとWGのマーカーに挟まれる格好になりボールキープが厳しくなります。
外流れの動きに連動して差金の動きを繰り出せば、パスコースを邪魔する人間がいなくなりパスが簡単になると同時に、FWがパスを受けたあとのプレーの選択肢も増えます。
このように、ビエルサのビルバオはサイドでのクロスランニングをほぼオートメーション化しており、効果的にサイド攻撃を組立てる術を熟知していると言えます。
二次攻撃
ビルドアップからボールをSBに預けて、前を向いた瞬間に縦パスを狙うのが一次攻撃です。二次攻撃とは縦パスの成功率が低そうな時に一旦横パスやバックパスを用いて攻撃タイミングを遅らせることを指します。
ポゼッションサッカーを標榜するビルバオはこの二次攻撃の精度もかなり高いです。縦パスから安易なボールロストを頻発させていては、ボールポゼッションは成り立たないので当たり前ですが。
ここで二次攻撃の特徴を見ていきましょう。
1. やり直し
攻撃がうまくいかない時やクロスランニングを仕掛けても相手が崩れない時は焦らずボールを後方に戻してやり直すのがビエルサスタイルです。詳しくは下のリンクを見てください。
→ビエルサリポート【前編】〜飽くなき攻撃サッカーへの挑戦〜 (スクデット店長様)
2. オンオフポジショニング
デ・マルコスのカットアウトが鍵と申しましたが、彼の動きがパスの出し手とかみ合わなかった場合はどうするべきでしょうか。
答えはオフサイドポジションとオンサイドポジションを行き来しながらパスを待つことです。
初めのタイミングで裏にパスが来なければデ・マルコスはオフサイドポジションに取り残されてしまいます。その後すぐオンサイドポジションを回復して再びパスを要求すれば良いのです。
この動きはDFにとってとても厄介な動きです。 なぜなら、DFは一旦オフサイドポジションをとった相手のFWを見放し放置する傾向があるからです。オフサイドポジションからオンサイドポジションを回復した瞬間にパスが通れば、ほぼ100%フリーでパスを受けることができます。この動きはデ・マルコスだけが行なっているのではなく、得点の嗅覚に優れたストライカーたちにとって生命線になる動きです。
3. 外流れ・待機
外流れの動きでタッチライン際まで張り出してもパスが来ない時はそのままタッチライン際で待機していればフリーになれます。
ビルバオの攻撃パターンは前述のとおりクロスランニングです。外流れの動きに合わせて繰り出される差金の動きが相手のDFを中央に釣ってくれるので、外で待機してれば自然とDFの注意をそらすことができます。
4. インナーラップ(内側オーバーラップ)
また、高速化効率化が進む現代サッカーではインナーラップの重要性は日に日に高まっています。
5. 8の字ローテーション理論(渦巻き理論)
渦巻き理論とは昔トータルフットボールが興ったときにミケルスか誰かが提唱したらしいものですけど、ビルバオの場合は8の字理論というほうが適切かと思います。
外流れと差金の動きの組み合わせ、それから外流れ待機とインナーラップの組み合わせと動きのやり直しは左図のように選手を8の字に循環させる効果があります。
人の入れ替わり時にできるマークのズレをパスで突いていく戦法はパスサッカーの基本であり王道です。参考→考えて走る2 スペースは背中で作る
相手を敵陣深くに押し込んだ状態でスペースを作るのは至難の業です。効率良くスペースを創りださねばなりません。スペースは危険なランニングをしたときに生じます。この危険なランニング(外流れ、差金)をつなぎあわせて各選手でタイムラグを生じさせながら繰り出す中で、パスの受け手と出し手のタイミングを合致させ崩しまで持っていきます。これをオートメーション化すると8の字の動きになることがわかります。
また8の字ローテーションはDFラインに攻撃手が並び渋滞する事態を避ける効果もあります。
ビエルサは選手たちに8の字に循環させるように促すことで、人もボールも動くサッカーを実現しようと試みている気がします。
6. 中央は最後に使う
バルサ式のポゼッションサッカーの場合、優先して中央を使うのがセオリーですが、ビエルサ流は違います。ビルバオはサイドを優先して使い、相手にサイドのスペースを全て封じられてしまったら中央を使います。
ビルバオの攻撃はデ・マルコスの外流れに象徴されるように、サイドのスペースを突くランニングから始まるので、相手はその動きに対応すべくサイドのスペースをケアします。
すると中央があくのでそこにエレーラやイトゥラスペなどを進出させパスを通します。
崩し
崩しの第一目標はDFラインの裏のスペースを狙うことです(2人称崩し)。それが無理なら飛び出した選手が作ったスペースを使います(3人称崩し)。それが無理ならさらにその選手が作ったスペースを・・・(4人称)。このようにスペースを作り使うを繰り返すことで人もボールも動くサッカーの完成に近づきます。
1. ローポストを使う
一番狙いたいのはCBの裏です。ここにパスが通ればGKと一対一の大チャンスを得られるからです。しかし、そうやすやすとCBの裏は取れません。
そこで、ビルバオは比較的空きやすいCBとSBの間を狙っていきます。ここをローポストと言います。
2. 三者関係の崩し
崩しのパターンは3つに分類できるという話を以前しました。詳しくは下のリンクを見てください。
→崩し論まとめ 三種の崩し
ビルバオは三人称崩しが非常に上手いので参考になります。
3. クロスに対してゴール前の人数を増やす
インナーラップと差金の動きは必然と相手ゴール前に進路が向かいます。これにより、サイドからのクロスに対してゴール前の人数を増やすことができます。
ビルバオを見てるとクロスに7人くらいが(逆サイドのSBまでもが)ゴール前に殺到していて、人数バランスは大丈夫なのか心配になることがあります笑。
攻撃から守備への切り替え
ポジションチェンジを繰り返すビルバオの攻撃スタイルから言って、守備をセットすることは困難極まりないことです。したがって攻→守の切り替えからマンマークディフェンスを敢行することが、このチームにとって極めて自然なことであると、下記のブログに書いてありました。ご参考に。
→11/12アスレチック・ビルバオ総括 (footballな頭の中様)
ビルバオのディフェンスを見ていると、攻守の切り替えとセットディフェンスの間に切れ目がなく、ボールを奪われてから一様にチェイシングをしている印象を受けます。それが男気あるとも言えるし、改善の余地ありとも言えるし、面白いところです。
マンマーキングシステムの意義について選手の成長という視点で面白い考察が下の
→<ビエルサレポート 後編 ~システムを超えて~>(スクデット店長様)
まとめ
パスサッカーの真髄は中央突破であるっていうのが僕の持論だったんですが、ビエルサは見事にこの信念をぶち壊してくれました。サイドアタックを主体にしても緻密に構築すればポゼッションサッカーができることを知ったのは本当に衝撃的でした。
例えば先日快進撃を見せた男子五輪代表でも、固い守備とともにサイド攻撃を主体にポゼッション出来るチーム作りをしていたら結果はまた違ったのだと思います。そういう意味で、日本のポゼッションサッカーを目指しているチームで中々結果が伴わないチームはぜひこのビエルサ流サイドアタックをチームモデルに据えてみたらいかがでしょうか。
恒例の動画を準備しました。今回は大作です。一番最後に一番いいシーンを用意したので最期まで見てみてもらえると嬉しいです。
ビルバオ サイドアタック from silkyskill on Vimeo.
このサッカーは運動量が鍵になります。したがって年間を通じたリーグ戦で水準以上のクオリティを維持することは不可能で、どっかでかならずスランプが来ます。短期のカップ戦はトップコンディションを合わせれば制する可能性を挙げられますが、リーガは8位から10位あたりに落ち着くんじゃないでしょうか。リザーブの選手が出た時に機能性を維持できるかどうかが鍵です。
はじめまして。面白くよく見させていただいております。
返信削除今、サッカーの指導者をしています。いい記事ばかりでとても勉強になります。指導する上で大切なことがまとまっているので、ぜひ活用させていただきたいのですがよろしいでしょうか?
よろしくお願いいたします。
是非参考にしてください。それとここだけではなく、リンク先のブログやサッカークリニック等々もよく読んで勉強なさるといいと思います。
削除