高校時代の恩師がよく口にしていた言葉のひとつに「サッカーの進化の過程」というものがありました。
今回はこのことについてちょっと書きたいと思います。
人間の命が誕生するまでに胎児は母体の胎内で、ある過程を踏んで成長します。受精してからヒトの形をとるまでに胎児が発生する様は、生物の進化の過程をたどると言われています。参考資料:wikipedia 胎児
同様に、赤ちゃんが這いつくばりからハイハイを経て二足歩行、直立姿勢をとる過程を「人間の二次的な系統発生」と提唱したのは、ゆる体操で有名な高岡英夫氏です。系統発生については右のリンクに詳しくあります。wikipedia 反復説
これと同じように、ある選手がサッカー選手として大成するまで、あるいはあるチームが組織として完成するまでは、サッカー史における技術的戦術的な発展の過程をなぞるのが自然な形であるということが、「サッカーの進化の過程」の真意です。
では順を追ってこの進化の過程をみていきましょう。サッカーの戦術史については右のサイトが詳しいです。→Variety Football 「世界のサッカーシステムの変遷 ~世界のサッカーシステムを時系列で体系化~ 」
■フットボール創世記と団子サッカー
フットボールの起源は様々に言われていますが、多くはmob(密集)を形成し、足や手を使って相手ゴールまで前進する形態だったようです。ボールを中心に密集を作るサッカーは幼稚園から小学校低学年でよく見られます。これは各選手がボールに触れたいと思う欲求が高く、ゴールとボールという2つの概念しか理解出来ないためだと思われます。サッカーをやり始めた選手にとっては、一番重要なボールとゴールを認識するという意味で、理想の入り方です。
■攻撃偏重のキックアンドラッシュと縦への意識
システムが1-9、2-8と経てWMに移り変わるまでは攻撃偏重のサッカーが主だったようです。サッカーはゴールを奪うのが醍醐味のスポーツです。そういう意味で攻撃に参加したい選手が多くなるのは当然のことです。キックアンドラッシュとはボールを前方に蹴って陣地を稼ぎ、ランとドリブルを織りまぜてゴールに迫る戦法です。
足の速い選手を前に置き、後方から長いボールを蹴って追わせるという戦い方が多いのは小学校低学年から中学年にかけてではないでしょうか。技術が未熟なこの年代ではもっとも効率の良い戦い方と言えそうです。ゴールを奪う、縦へのドリブル、競り合い、体の使い方、味方の頭越しに抜けてくるボールを狙う、ボールを強くしっかり蹴るといったことを学ばせるには最適の戦術です。
■WMシステムと前後分断サッカー
WMシステムは初めて攻守のバランスを考慮に入れたシステムと言えそうです。守備はマンマークで、攻撃の選手、守備の選手、サイドの選手とポジションの役割もはっきりしてきました。このシステムがパスの導入を広めるきっかけになったと上記の資料でも書かれています。 しかし、この頃のサッカーはまだ攻守の切り替えが頻繁に起き、組織対組織というより、局所的な戦いがメインに行われていたと類推します。
というのは小学校中高学年くらいから各選手はポジションの特性を理解し始め、パスを試み始めるからです。ドリブルに加えてパスの選択肢を持つのはいいんですが、判断に戦術的要素を組み入れるのはこの年代には尚早で、ボールロストとそれに伴う攻守の切り替えが頻発します。全体が縦に間延びし、攻撃者と守備者が前後で完全に分かれる現象が起きます。こうなってくると得点を奪うには局所を打開する個の技術や2,3人のコンビネーションが求められます。守備時にはチャレンジとカバーという大原則を植えつける良い機会です。
■4-2-4・60年代のブラジルと技術偏重サッカー
WMシステムに代表される前後分断サッカーでは、攻守の切り替え時にいかに局面を制するかが重要だと書きました。60年代、神様ペレを要するブラジル代表は圧倒的な個人技でW杯を3度制しました。そこには局面を打開する様々な技術的戦術的工夫があったと推察できます。サッカー史で初めて技術が身体能力や守備戦術を凌駕した時代と言えるのではないでしょうか。
技術偏重のステージは系統発生でいつ訪れるかというと、小学校高学年から中1くらいまでではないでしょうか。このころ子供たちはゴールデンエイジを迎えるということは周知の事実ですし、サッカーの試合においても、技術の高さが試合を決するような時期にあると思います。攻守の切り替えが頻発する不安定な時間が長い試合では、こぼれ球を拾う、一人抜く、パスを出す、トラップ、ワンツー、シュートを狙う、などの技術の質が重要になります。
■トータルフットボールはサッカー史における突然変異
70年代クライフ・オランダのトータルフットボールは、サッカーの系統発生ではどこにも当てはまりません。トータルフットボールは60年代ブラジルの個の技術とチーム戦術の組み合わせたと言えるでしょう。仮に、技術の高い子供たちがたくさんいたのなら、ポジションチェンジとワイドなポジショニングを植えつければトータルフットボールのようになるでしょう。しかし、この年代のこどもは身体能力差が大きく、一つのポジションでも走力や高さで相手に上回られてしまうと、そこから失点してしまいます。現実的にはトータルフットボールを目指した少年指導には無理があると言えそうです。
しかし、技術を高めた子供達に戦術的理解を深めさせることは非常に重要になります。中学2年生から高校1年生くらいまでの間に、技術と戦術の練り合わせ=スキルを醸成させなければ上のレベルで良いプレーは出来ません。具体的に言うならば、表裏のインサイドキック、ゾーン別のプレーの仕方、パスとドリブルの判断、数的優位の作り方、スペースの概念、などです。
■ アリーゴ・サッキのACミランと組織的守備の構築
サッキのミランといえばゾーンディフェンスの完成です。DFラインを高く、選手間距離を短く保ち、ボールに対して激しいプレッシャーをかけます。この頃からサッカーはよりスピーディーにより狭くなりました。
ユース年代では概ね身体能力差が埋まってきますので、試合展開がよりスピーディーになります。また、戦術理解度も高まるので、ゾーンディフェンスの概念や、オフサイドラインの調整などを駆使し守備戦術が格段に向上します。これにより、攻撃にはより効率性と正確性が求められますから、技術が磨き上げられ、無駄のない、戦術的要素の濃いスキルを発揮する機会に恵まれます。また、容易にパスを繋げられるようになるので、集団で相手を崩す攻撃戦術の発展にも拍車がかかります。
■現代サッカーと大人のサッカー
現代サッカーは常に進化しています。それは毎年補強を繰り返すチームがなかなか順位を上げられなかったり、優勝を逃すことが多い実情からもうかがい知れます。ですから、毎週末のプロのリーグをチェックすることは現代サッカーの本質を究める上で欠かせないことなのです。21世紀に入ってから特に技術面でサッカーが洗練されてきたと感じます。必要な技術の種類はどんどん削げ落とされ、逆に一つの技術に込める戦術的な狙いはどんどん増えていきます。まさにサッカーが頭のスポーツとして進化している様を見て取ることができます。
高3から大学にかけては、それらのトッププロのプレーの意図を敏感に感じ取れる年代です。技術を洗練させることもさることながら、より深い戦術理解に努め、また、フィジカル的にも鍛えあげなければなりません。また、一試合を通した戦い方を考えたり、時間帯ごとにプレーの仕方を変えるすべを身につける必要があります。1対1、2対2など局所的な駆け引きに始まり、チーム対チームの駆け引きもできるようになることが理想です。試合形態については、ボールロストやルーズボールが減り、攻守の交代が減少するのでより安定的な試合運びが増えます。安定状態を長く保ったまま戦えるようになれば、大人のサッカーの入り口に到達したと言えます。
長くなりましたが、大局的に語ると、サッカーの進化の過程は
ボールへの執着心、競り合い → 技術偏重・前後分断 → 守備戦術偏重 → 攻撃戦術偏重 → 安定志向のサッカー
という流れをたどるのが自然だと感じています。あくまで個人的見解ですので、意見がある方は遠慮なくコメントください。
少年を指導する際にはこのような大局的サッカー理解を持つと、選手たちがどのように成長していくかまた自分の手を離れた後どのように変化していくのか、ある程度推察が立ちますし、日々のトレーニングを練る際にも参考になると思います。
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