footballhack: ボディコンタクト0 先に当たる、弾ける

2011年11月21日

ボディコンタクト0 先に当たる、弾ける

サッカーのゲーム構造の理解という記事に書いたように、大人のサッカーを実践するにはフィジカルコンタクトを減らすべきです。というより、駆け引きの工夫を極め、戦術理解度を上げると自然と接触の機会が減っていきます。現にトップレベルの試合ではどんどんフィジカルコンタクトの機会が減っていく傾向にあります。そのためには、守備の意図を読み、パスの選択肢を増やし、敵から離れてボールを受け、またパスの意図を複雑に絡めて、フリーの選手にボールを預け、前進していく必要があります。

しかし、こんなことが出来るのは一部のトッププレーヤーのみで、現実には難しい話です。特に育成年代やアマチュアレベルの試合では、攻守交替が頻繁に起きるので、必然的にフィジカルコンタクトの機会も増えます。よってボディコンタクトの技術を高めることは全選手にとって必須の課題です。

一般にサッカーのゲーム構造は、4つのステージの各比率でいうところの、攻→守と守→攻の時間が安定した時間(セットOF、セットDF)より長くなると思います。つまり、一部のトップレベルの試合を除いた普通のサッカーの試合の中では、計画した戦術を遂行する時間よりもルーズボールを争う時間のほうが長いということです。

このことから、一般に能力の高い選手というのは、競り合いに勝てる選手のことを指します。ルーズボールを拾え、ヘディングに強く、寄せられた中でもボールをキープしたり強いキックが出来る選手が良い選手だという通念があります。

ですから、ボディコンタクトの技術を高めることは良い選手になるための近道なのです。競り合いに強くなれば簡単にしかも短期間で周りからの評価を上げることが可能です。ただし、より高いレベルで通用する選手になるには、ボディコンタクトをできるだけ減らせるように頭を使うプレーを身につける必要があることは忘れてはなりません。

では、ボディコンタクトに強くなるにはどのようにすればよいでしょう。





一般にボディバランスや当たりの強さというと、軸がブレないとか一瞬にかかる衝撃の強さを連想しますよね。このような既成概念に囚われている選手は、ボディコンタクトに強くなろうとして必死に体を鍛えたり、相手に強く当たろうとして、パワーを増大させようとします。その結果、ボールが無防備になり、相手に上手く体を入れ替えられてしまったり、ボールをつつかれたり、相手を押し返したのはいいものの自分のバランスが崩れてしまったりします。また、相手のほうが力が強い場合、十中八九負けることになります。

ここでは発想の転換が必要です。

ボディコンタクトの基本的な概念を理解するには、作用反作用の力に言及する必要があります。作用反作用は中学の理科で習う物理学の最も基礎的な概念です。(説明するのも野暮ですが一応説明すると、)物体Aが物体Bを押すと、同じ強さでベクトルが逆の力が物体Bから物体Aに加わるということです。サッカーに置き換えて言うと、「当たる」「弾ける」です。

ボールを右足でキープした状態で左側から敵が来た状態を想像してください。このときセオリー通り左手で敵を押してボールを守ります。そうすることで敵と距離を取れますが、このとき間違えてはならないのは、敵がその力に押されて左に離れていくのではなく、自分が反作用の力によって敵から離れるように右に移動するのです。これが「当たる」と「弾ける」の概念です。

もっと実践的に言うと、敵が近づいてきたらまず自分の体を敵とボールの間に入れます。そして接触します。接触することで力が発生し、接近する敵はその場に留まり、自分の体は弾けて敵から離れていきます。このとき弾けながらボールを動かし、ボールと共に敵から離れることが出来れば、安全に次のプレーに移れます。

まとめますと、
  1. 先に体を入れ、
  2. 敵と接触し
  3. 弾けて離れながらボールを確保する
この3つが同時に出来れば競り合いに勝つ可能性が高まります。

ポイントは弾けると同時にボールタッチすることです。押されたままボールを晒してしまうと当然ボールを失ってしまいます。接触とボールタッチは同時に行うのが理想で、それが無理だとしてもなるべく接触とボールタッチの間隔を短くするよう心掛けます。

これを実践するには弾けた後、自分の体がどこに向かって動くのか予測することが大事です。競り合いでバランスを失ってしまうのは、接触によって自分の体にかかる力を予測できない為です。あらかじめ、「この方向に押されるな」と分かっていたら、その方向へ足が伸びるのでバランスを保てますし、ボールをその方向へ押し出しておけば、次のプレーにすぐに繋げられます。また、相手の力を利用して加速するなんていう芸当も出来るようになります。

メッシやイニエスタ、エジルなど線の細い選手が第一線で活躍してできているのも、これらのボディコンタクトのスキルを持っているからです。極論を言えば、接触時に自分にかかる力の強さと方向が予測できれば、フィジカルコンタクトに筋肉は必要ないのです。

ではお手本にしたいメスト・エジル選手の映像を見てお別れです。1:11と1:44からの一連のプレーは非常に参考になります。



次→ボディコンタクト1 バスケットに学ぶスクリーンプレイ

8 件のコメント:

  1. いつもこのブログを見て参考にさせてもらっています。
    私は高校生でサッカー部に入っています。ポジションはボランチをやっているのですが、上手くいっていません。

    ボールを持っても判断が遅くいつもとられてしまいます。
    silkyskillsさんが書かれた5W1Hも実践しているのですが、周りを見る余裕もなくなかなかうまくいきません。
    どうすればいいのでしょうか。

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  2. コメントありがとうございます。まず、ボランチとしてチームから求められる役割を特定してください。ボランチには2種類あって、ピルロや遠藤のようにゲームコントロールを任されるタイプと、ブスケツやソングのように相手の攻撃を刈り取り味方のポイントゲッターに安全にボールを渡すタイプです。

    前者のタイプは非常に難しいです。視野の広さやキックの正確性などの才能が求められます。後者なら努力次第で高いレベルまで磨き上げることができます。

    後者のタイプに限って話をすると、まずは2タッチプレーで確実にパスを出せるようになりましょう。詳しくは「ミクロつなぎ論3 右から来たら左、左から来たら右」を御覧ください。

    また、周りを見る時は少なくとも3回首を振ります。ボールが来る直前には自分の周囲10mの状況を確認しましょう。フリーなら慌てず2タッチコントロールで前を向き、敵が来ていれば取られないように体を入れたりダイレクトではたくように心掛けます。ですから、周囲を観る際に最も重要になるのは、味方ではなく敵を見つけることです。ボールさえ守れればピンチを招く心配はなくなるからです。

    何を見たいのかがはっきりしていれば、首を振った時にいろいろな情報が脳の中に入ってくるようになります。ただ単に首を振るだけでは、何を探して良いのか分からないため、かえって余計に混乱を招きます。

    判断が遅いのにはいろんな理由があるのですが、殆どの場合、戦術理解が浅いということになると思います。正しい判断が出来ていればプレーは遅くても構わないのです。

    また、ボールを持った時に判断が遅いという記述から、寄せられた時に2歩1触ができていないという可能性が浮かびます。ボールに触れながら考える癖が付けば、相手の出方を見てボールタッチを変える(止まったりターンしたり)ことが出来るようになります。これが出来ればそう簡単にボールを失わないはずです。また、何が悪かったのか自省する癖も付きます。

    視野確保のシリーズが途切れていてごめんなさい。早急に書き足すようにします。また、トラップの工夫についても書いていく予定なので、それも参考にしてください。

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  3. フィオレンティーナ火曜日, 11月 22, 2011

    先程質問した者です。
    アドバイスありがとうございます!私は恐らく後者のタイプです笑そのプレースタイルを極めてみせます!

    silkyskillsさんが謝ることはないです笑自分もアドバイスされたこと+自分なりに工夫してやっていきます。
    これからも更新がんばってください!

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  4. いつも見ています。これからも更新がんばってください

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  5. 先程質問した者です
    アドバイスありがとうございます!

    更新がんばってください♪

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  6. 小学三年生の息子を持つ母です。今まで、ドリブルが速く得点力があるのを買われ、FWやボランチをしていましたが、先日、ハートが弱い、当たりが弱いと言われ、スタメンから外されてしまいまして、色々調べていてこちらのブログをみつけました。息子は細く小さめなのですが、押していくだけではなく、弾けるということが習得できれば、武器になりますね…また、相手から、ボールを奪うには、どのような動きがベストでしょうか?質問ばかりすみません。よろしくお願いします。

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    1. こちらのブログを参考になさっていただいて、しかも女性からのコメントは初めてなので光栄です。

      体が小さいということは弱点であると同時に武器にもなります。なぜなら正しい体の使い方をしなければボールを守ることができないからです。逆に体が大きい子供は力を使うことでその場凌ぎにプレーする癖がついてしまって、正しい体の使い方を学ぶ機会を逸してしまいがちです。背の小ささはドリブルスキルの向上とコンタクトスキルの向上において有利です。上記の動画のエジルもユース時代は体が小さかったと記憶しております。

      ボールを奪うための基本はアプローチ→ステイ→ディレイ→体を入れる、です。しかし、常にボールを奪えることはありえません。10回のディフェンス機会の内、3回ボール奪取に成功すれば良い方で、いつもボールを奪いに飛び込んでしまうとそれだけかわされる危険が高まります。ディフェンスには忍耐力が必要です。

      ボールを奪うスキルには主に3つあって、体を入れる、ボールを突く、スライディングする、があります。一番いいのは体を入れてマイボールにし味方へつなぐことですが、ボールをつつく技術も非常に重要です。相手がボールを晒した瞬間に爪先で素早くつつくと良いです。これには少しの才能も必要です。

      スライディングは最後の手段です。転んでしまっては復元が効かないからです。しかし、幼少から滑ることに慣れることは結構重要で、後々のディフェンス能力向上に一役買います。土の上で派手に滑ると“ビフテキ”と言われる擦過傷をお尻に作ってしまい、これが非常に痛いので避けるようにしてください。初めはボールをつつく延長で軸足をたたんで軸足のスネで着地するようなスライディングを練習するといいでしょう。

      まぁまた何かあったら寄せてください。

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  7. 早速の返信ありがとうございます。
    なるほど、奪うというのは、かなり難しいのですね…
    監督からは「当たっていけ」と言われており、起用されていく選手もガツンと弾き飛ばす子が主なので、悩んでおりました。
    足先をいれる、体をいれる…そしてスライディング…体は小さくても地道に技術を磨いていくよう話します!がんばりますね。ありがとうございました!

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