footballhack: サッカー関連書籍1 風間八宏の「1対21」のサッカー原論

2011年10月24日

サッカー関連書籍1 風間八宏の「1対21」のサッカー原論

風間八宏氏が言う「受け手の外す動き」とは何か。今回はその外す動きの解説と補足を試みます。というより、2点ほど僕の見解との違いがあったので、それをメインに書きます。

(このシリーズは読了したサッカー関連書籍から気になる本をピックアップし、ポイントの説明、オススメ度などを書いていくシリーズです。)

目録
  1. 外す動きとは
  2. チェックの動き
  3. アバウトさ
  4. バルサ哲学の基幹についての相違
1 外す動きとは
「外す」動きとはパスの受け手となりうる選手達が、マーカーの重心の逆を取ってフリーになる動きだそうです。

詳しく述べると、守備者というのはボールの行方を見極めて、常にポジション修正をしようとします。(注 栃木SC 松田浩のインタビューにてゾーンディフェンスの考え方が説明されています。)そこで、ボール周辺の状況が変わる度に守備者には移動のベクトルが発生するのです。ここで言うベクトルとは実際に移動した距離や方向を指すのではなく、移動しようとする意識そのものを指します。つまり、守備意識のベクトルということです。




例えば、一枚DFが抜かれた瞬間、後方の選手の守備意識はオレンジの矢印の方向に向き、その方向へ移動しようとします。











 パスの受け手は、その移動ベクトルを瞬時に感じ取って、そのベクトルと逆の方向へほんの少しでも移動できれば、フリーになれるという算段です。



 攻撃のサポートの選手は、味方がドリブルで一人かわしたら、自分のマーカーのベクトルと逆方向へ動くことでフリーになれます。このときカバーリングの守備者は自分のマーカーを見るべきかボールホルダーにプレスに行くべきかの二択にさいなまれます。







これは僕が以前「バルセロナの攻撃を解説してみよう」で書いたマーカーの意識を剥がすという行為に似ている!と読みながら感心しました。 しかし、その方法論には大きな相違がありました。(マーカーの意識を剥がす方法については上のリンクを参考にしてください)

2 チェックの動き
 風間氏が言う「外す」動きのための方法とは、例えば右に行くと見せかけて左に行ったり、前に行くと見せかけて止まったりすることだそうです。つまりこれは チェックの動きそのものです。僕の解釈では風間氏は、「結果的にマーカーを外せればどんな動きでもよいが、その手法は主にチェックの動きになるだろう。そしてそのとき敵を観察することを忘れてはならない。」と言っているように思えました。

そこで疑問が湧きました。僕にとってチェックの目的とは、マーカーを外すことではなく、スペースを作り使うことだと認識していたからです。

 例えば左図の左のように単純にボールに寄るようにサポートに行くとパスの距離が短くなります。

右半分のようにチェックを入れてから受けに行くと、パスの距離が長くなります。

そうすることで、出し手と受け手の距離が遠くなり、受け手の使えるスペースがより広くなります。そうすれば、受け手はより多くのアイディアを実行する機会に恵まれますし、2枚目のDFが寄せてくるまで時間がかかるので、より少ない妨害のもとプレーできます。

しかし、チェックの動きで稼げる時間とスペースは僅かです。せいぜい1秒か半径10mくらいでしょう。裏を取れれば最高ですが、足元に受けたらそのまま前を向ければ御の字で、仮に外しが上手くいったとしても後ろ向きのプレーを余儀なくされることもままあります。

また、この本の書き方だと外しの過程でチェックの動きのみが推奨される印象を受けます。それを忠実に行うとどうなるでしょうか。



左図左のように連続したチェックの動きで外しを試みる選手が増えそうです。その結果、受け手のプレーエリアは青丸で示したとおり、元いた位置周辺に限られます。仮に前向きにレシーブしたとしても、これでは相手の守備組織に小さな穴しか開けられません。

では大きく動く場合はどうでしょうか。左図右のように単純なランニングでの外しを試みればプレーエリアは格段に広がり、自分が元いた位置を他の選手に使わせることができます。そうすることで、相手の守備網に大きな穴を開け、また、3人目の選手を絡ませた三者関係のつなぎが可能になります。

大体、チェックの動きは疲れます。速筋を使うからです。風間さんの言うようにビルドアップの段階からパスが一本つながるごとにチェックの動きを繰り返しては、90分間走りきれるはずがありません。ですから、そんな風にサポートの動きをする選手は存在しません。 それはテレビで見ていても分かります。

ではどうすればよいのか。簡単です。自分が今止まっていたら動き出し、動いていたら止まれば良いのです。

簡単な例を一つ挙げると、左のように受け手の後方からボールホルダーがドリブルで前進してきたとします。このとき特殊な場合を除いてDFは必ずボールホルダーに近づき、彼の正面に立とうとします。ですから、受け手の選手は右か左に避けるように離れていくかバックステップでドリブル進行方向へ移動すれば良いのです。


ビルドアップ段階では、基本的にDFはボールの移動と同じ方向へ移動しようとしますから(上記の松田浩のインタビュー参照)、ボールの動きと逆に動けば自ずとマークは外れます。マークが外れなくても相手の守備網に大きな穴を空けることが出来るのでそこを誰かに使わせれば良いのです。

この動きを意識してやろうとすると、どうしてもバックステップとサイドステップが増えます。ボールと攻撃方向を同一視野に入れようとすると半身になる必要があるからです。これが、ポジショニングの技で説明した移動方法です。

このように、サポート時の受け手の動き方というのはある程度パターン化されます。それ故、ボール周辺の状況に応じてオートマティックに反応することが出来るのです。 「相手の重心を見抜くこと」とは確かに面白い着眼点です。重心を気にしていれば自然と外すための動きのコツが掴めるかもしれません。しかし、毎回相手の重心を見抜くことに神経を使っていては動き出しが遅れてしまいます。瞬間的に判断をくだすためには、重心を見抜くことでつかんだ動きのコツをトレーニングで体に染み込ませて習慣化させなければなりません。

サポートに入る時に敵を見ろというのは同感です。しかし、それは敵との距離感を掴むためであって重心の偏りまで見抜く必要はないだろうと思います。

3 アバウトさ
では仮に風間さんの言う「外す動き」を極めていくとどうなるでしょう。

「どんなに相手のプレスがキツくても逆をつくことで必ずパスを繋ぐことが出来る」と風間さんは言っています。これを実現するには出し手に高いレベルのパス精度が求められます。時には10cm単位での精度が求められることもあるかもしれません。しかし、実際にはバルセロナの選手でさえ、パスのズレが時折起きていますし、ましてやJリーグでは頻繁に見ることができます。僕にはパスの出し手にそこまでの精度を求めるのは土台無理があるように思えるのです。

また、以前「安定不安定2」で、ボールホルダーと直近のDFが接触しているか1m以内の距離でプレーしている場合はミスが増えるというようなことを書きました。メッシでさえ止まった状態で密集の中でボールを受けた際は、5割くらいの確率でボールロストしています。いわんや普通の選手をや。

つまり、すぐ近くに敵がいる状態でのプレーを促すような発想自体がおかしいと思うんです。上手く外せたとしても稼げるのはせいぜい1秒から0.5秒。その間に何が出来るというのでしょう。わざわざ受け手を時間もスペースもないところに閉じ込めると、必然的に性急なプレーが増えます。性急な判断はミスを誘発しますから、外す動きで組み立てる攻撃は、ミスを誘発しやすい攻撃と言い換えることができそうです。

僕が主張したいのは、受け手には逆にアバウトさが必要だということです。パスがズレても許容範囲が広ければすぐに修正が利きますので、次のプレーに影響をあたえることはありません。 もちろん出し手は正確に出そうと心掛けなければならないですが。

そのためには、受け手はなるべく広い場所でパスを受ける必要があります。少なくとも半径5mのスペースは必要でしょう。受け手に必要なのは外す動きではなく、広いスペースに陣取るポジショニングです。スペースを見つけるには敵や味方を見なければならないので、結果的には敵を見ろという風間さんの意見には同意なんですが、受け手が点でパスを要求するようなことは避けたほうが良いと思います。なぜなら、そこにパスが来なければ攻撃は成功しないわけで、現実を見れば、パスが10cmズレるなんてことは日常なので、そういったプレーの成功率は著しく低いものになるからです。

4 バルサ哲学の基幹についての相違
風間さんはバルサのサッカーを理解するための最重要キーワードに「外す」動きをあげています。これは受け手に焦点を当てています。僕は逆に出し手にこそバルサのサッカーのポイントが有ると思っています。

バルサのサッカーを紐解く最重要キーワードは間違いなく「正対」です。出し手は正対によって受け手のマークを外しているのです。ここで重要なのはパスの正確さよりも、駆け引きやパスフェイクといった要素です。出し手がDFを騙せれば、受け手はただ立って待っていればよく、チェックの動きを繰り返して体力を消耗することもありません。

 攻撃の選手がピッチをワイドに使って、均等な距離でポジションを取れば、自ずと一人ひとりが使えるスペースは広くなります。

すると、出し手から見て常に複数のパスコースが確保されます。この時、出し手は正対を使い、直近の敵と間合いを保ちながら、守備者を騙すようにパスを送れば、受け手はマーカーを外した状態でトラップすることができます。





また、外す動きが促進するのは2者関係のつなぎ・崩しです。出し手と受け手しか関係しないパスは容易に予測がつくと言うことは、「崩し論まとめ 三種の崩し」で書きました。 外す動きを重視する余り、三者関係の崩しを身につけることができないようでは、サッカーに進歩がありません。


以上のことから外す動きの有用性については大きな疑問符がつきます。まぁ実際に筑波大学のサッカーを見たことが無いのでなんとも言えない部分も多分にあるのですが。

2 件のコメント:

  1. いつも愛読させていただいております。受け手が点でパスを要求するということが書かれていましたが、風間氏のDVDでは動きで相手を外す次の段階としてパスで外すというのをやっていました。風間さんの言うチェックとは合図にすぎなく、人がついてくれば人を外せばいい。空いてるならそこを使えばいい。受け手と出し手の合図を合わせることが大事だと。
    あわせて、大きく動くことでスピードが遅くなるということも言っていました。動きだしのタイミングをギリギリまでずらすことにより相手のベクトルを大きくするのが狙いなのではないでしょうか。
    いつも参考にさせていただいています。楽しい投稿心待ちにしています。

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  2. >渡辺さん
    僕は風間さんのDVDを見たわけではないですし、著書も全て読んでいるわけではないので、この記事のように一方的に批判をするのは不安に思っていました。なので、コメントを頂けて嬉しく感じています。ただやはり、渡辺さんのコメントを読んでも風間さんの主張を全て理解することは出来ません。薄々感じているのは僕の理解と風間さんの主張は根本では繋がっているのではないかということです。表現の問題だと認識しています。

    またよろしくお願いします。

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