footballhack: 観る2 人体構造上の不可能性

2010年11月13日

観る2 人体構造上の不可能性

今回は視野角とか有効視野といった観点から、視野が広い選手になるにはどうすればいいか考えます。


まずは下の引用から。





こちらのサイトで拾ってきた資料です→安全運転のポイント

一番目の図から分かることは、人間の視野は前方200度まで広がっているが、実際に事物を認識出来る視野角(有効視野)は前方70度ほどに狭まってしまうと いうことです。サッカーではまず、敵味方のユニフォームの色を認識する必要があります。さらに敵や味方の顔や姿勢を確認することも重要です。それを考えると、顔の正面から向かって真横の局面を間接視野だけで子細に判断することは難しいと言えます。有効視野が前方70度に限られるという感覚は経験者なら納得 出来る数字ではないでしょうか。

二番目の図は注視点から水平方向に角度が広がるほど視力が落ちるということです。わずか10度反れるだけで視力が10分の1にまで落ちてしまいます。観察するという点において間接視野はあまり当てにならないということです。


加えて移動中の視野、動的視野は上のデータよりも低くなります。速い速度で走ったりドリブルしている最中はさらに有効視野が狭まることを頭に入れなくてはなりません。


この有効視野角が人によって大きく異なるということは考えにくいです。詳しいデータはありませんので憶測の話ですが。多少は違えども、プロ選手とはいえ真横方向を間接視野だけで、注視したときと同じように認識することは不可能でしょう。

見えない方向にプレーすることはミスをする可能性を高めます。確実にプレーするには見えている方向にプレーすることが重要です。つまり、サッカーでは選手は顔の正面方向に向かってプレーするということが大原則になります。顔の正面は多くの場合身体の正面でもあるので、サッカー選手は体の正面方向にプレーすると言い換えることも出来ます。攻撃の選手も守備の選手もこの原則に従って動いています。


それゆえ、視野を広くして周囲の状況を把握するには首を振ることが不可欠になります。首をふるということはボールから目を離すということです。ボールから目を離すタイミングと観るべき方向については次の記事から書いていきます。



■ヘリコプタービューは実現可能か

ここで前回記事にした「ヘリコプタービュー」 について考えます。人間の視野が前方70度に限られるということを前提にすると、「ピッチを上から見た」ようなプレーをその言葉に忠実に実行するには、同時に360°方向を見渡す為に常時5回以上首を振らなければなりません。いくら頻繁に首を振ったからといって体を反転させたり捻ったりしなければ後方は見えません。これではプレーに悪影響を与えてしまいます。刻一刻と状況が変化するサッカーの試合でピッチ全体をくまなく見渡すことはまず不可能で、見えないエリアの動向は想像する他ないことになります。

そもそも一選手がピッチ全体を把握できなければならないのでしょうか。

視野が広いと言われる選手の代表にフランスの英雄ジネディーヌ・ジダンがいます。僕は彼がピッチ全体を見渡したようなプレーをしているところを見たことがあ りません。ヘッドダウンし、ほとんど体の正面方向にしかプレーしません。加えてショートパスを多用します。プレーエリアが比較的狭く、局面を広げることを避け、時折みせるサイドチェンジのパスよりも近い味方との連携を好んでいる印象を受けました。しかし、彼は限定された局面が良く見えていました。狭いスペースでも驚くような局面打開をする術がありました。


もう一人視野が広い選手で有名なのは日本の英雄中田英寿でしょう。彼のインタビューで覚えているのは、“調子のいいとき”はピッチを俯瞰し たような視点を得ることができる、という言葉です。あの中田英寿でさえ“調子のいい時”にしかヘリコプタービューを得られないのです。いわんや普通の選手では無理でしょう。

つまり何が言いたいかというと、こういった言葉先行の伝達手段では本当に「視野が広い」選手を育てることは出来ないだろうということです。ジダンのようにピッチ全体を把握できなくても良いプレーをすることは可能なのです。

「なんだぁ。ピッチ全体を見渡せなくてもいい選手になれるんだ」
そう思えれば、気持ちに随分余裕が生まれてきませんか?


■視野が広い選手とは

個人的に視野が広いと感じさせる選手は元クロアチア代表のアサノビッチや元スペイン代表のグティ・エルナンデスです。彼らの共通点は体の真横方向にプレーができる点です。ボールを持った姿勢から は通常予測できない方向へ易々とミドルレンジのパスを通してみせる彼らのプレーは「視野が広い」という言葉がぴったりです。




では本当に視野が広い選手とはどんな選手でしょう。それは観るべき方向、タイミング、対象、位置、方法が正しい選手です。加えて先読みができて次の手や次の次の手をイメージできる選手です。次からその辺について書きます。

追記 サッカーにおける視野について非常に興味深い論考をみつけたので、リンクをしておきます。
→Tarsees Trainer アスレティックトレーナーの基礎知識 「スポーツビジョン(サッカー)」

次→観る3 視野確保の5W1H その1

5 件のコメント:

  1. グティの動画ですが、どれも魔法のような素敵なパスばかりですね。0:26あたりのヒールパスは天才という言葉を使いたくなりますが、どこか運頼みのような気もします。

    個人的に気になったのは、2:18辺りの一連のプレーからのパスです。2:25にパスを出す瞬間のアップが映りますが、その時の体の向きから言って、FWの二枚のうちパスを出した方は明らかに前方70度に収まっていない気がします。その為か、随分と無理な体勢のパスになり、パス後は倒れこむ形となります。最初はこれが“首を振るプレー”なのかと納得しかけましたが、パスを出す瞬間(2:25コンマ前半)には首は振れておらず、完全に首が振れて受け手を確認出来たのはパスを出した後(2:25コンマ後半)のように思われます。これが"体の真横方向へのプレー”なのでしょうか?2:21~2:22のドリブル時に既に首を振りながら確認してる可能性もありますが。。。

    このパスが偶然なのか必然なのか、その瀬戸際にあるようなパスな気がする事もあり、僕のNO1にさしてもらいました。

    音楽よし、グティの顔よし、素敵な動画ありがとうございました。

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  2. グティは向かって右側90度へのスルーパスを得意としており、これは彼の必殺パターンと言えます。ボールを受ける前に縦を見ておき、コントロールしながら左側に向き直り、広い方に展開すると見せかけてヘッドダウンしながら90度パスを右側に送るという流れが彼のパターンです。惚れ惚れしますね。

    体の真横方向へのプレーは首を振るのとはちょっと違い、イメージ力の賜物だろうと思います。この方向は絶対相手に読まれないだろうという勘に似たものじゃないでしょうか。仮にこのシーンで首を振っていたらDFにパス方向を読まれてしまいます。

    ご指摘のとおりグティは動画の2:21~2:22のドリブル時に必ず受け手を見ているはずです。このプレーを成功させるコツも書いていくつもりです。ヒントは眼球運動です。

    ちなみにこれは拾ってきた動画です。

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  3. はじめまして。

    グティやシャビのように視野の広い選手(この言葉を使ってすいません)は周りを見るとき、顔を動かして見ているのか、眼球だけを動かして見ているのかどちらなのでしょうか?特にスルーパスを出すときなんかは、顔を動かすとパスコースが読まれるため、眼球で見るほうがスルーパスが通りやすいと思います。

    また、上の記事に書いてある、本当に「視野が広い」選手を育てることは出来ないだろう、というのは、周辺視野を鍛えれば可能ではないかと思います。

    以上のことについて考えていただければ幸いです。

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    1. 首を振るか眼球を動かすかは時と場合によります。スルーパスについてはおっしゃるとおりです。

      周辺視野について、僕も以前は同じように感じていました。しかし、周辺視野を鍛えて広げるあるいは精度を高めることは、不可能に近いというのが今の実感です。それよりも情報の取捨選択と読みの深さを鍛えるほうが有意義で実践的だと感じています。

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  4. はじめまして。

    質問があります。プロ選手も、体の正面方向にプレーするのほうが自然ですよね。
    では、もし本当に次のプレーをイメージできるなら、ボールをトラップする時に、次のプレーの方向へ体をターンするほうがましではありませんか。敵が予測できないから、わざわざ体の真横方向にプレーしますか。

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