footballhack: つなぎ論番外6 バルサの超攻撃的守備の弱点

2010年9月12日

つなぎ論番外6 バルサの超攻撃的守備の弱点

前回書いたのは、バルサがいかにビルドアップから相手チームを押し込むように攻撃を展開するかでした。その巧みなリスク管理の意識は、ボールを奪われてもすぐに前線で奪い返すという超攻撃的守備を可能にしていました。

今回書くのは、そんなバルサの弱点です。引き続き10/11シーズン第2節エルクレス戦を参考に考えていきます。

バルサの弱点は左右非対称フォーメーションを取っていることにあります。↓を見てください。




これは前回も登場した図ですが、バルサの相手陣内でボールポゼッションしているときのフォーメーションです。1-3-3-3のようになっています。ここで一つ大きな特徴を言うと、左サイドバックの選手は右サイドバックの選手に比べて、低い位置を取っていることです。バルサの左サイドバック(マクスウェル)の動きに注目することで、バルサの戦術を紐解く鍵が見えてきます。

このフォーメーションに相手チームのフォーメーションを重ねると↓


こうなります。

右サイドは2対2が出来ているのに対して、左サイドはペドロ1に対して相手のSBとSHが守備に当たっています。右サイドは流動的なポジションチェンジで崩そうという意図が見えたのに対して、左サイドはあえて数的不利を創りだすことで、相手チームのポジションミスを誘い、素早く逆サイドに展開して数的優位を突こうという意図のように見えました。

この結果何が起こったかというと、エルクレスの選手の守→攻の切り替えの速さが左右のサイドで変わるという現象と、バルサのスペースの空き具合が左右のサイドで変わるという現象です。

どういうことかというと、エルクレスの右SHの選手の守備の仕事は、自分の後ろにいるSBの手助けをすればいいだけだったので、ボール奪取した後、思い切って前線へ駆け上がり、高い位置を取って攻撃をサポートできたのです。エルクレスの左SHの選手はそういうわけにはいきません。マークすべき相手アドリアーノ選手がいたので、彼の動きに釣られ必然的に守備→攻撃の切り替えは遅くなりました。

結論1 エルクレスの右SHは守備→攻撃の切り替えの時、思い切りよく上がることができた

そして、前回説明したバルサの超攻撃的守備が、万が一の確率でかわされたと仮定します。1試合中にこれが起こる頻度はそう多くないんですが。

このとき何が起こるかというと、バルサの選手たちは一斉に帰陣します。リトリートしながら落ち着いて守備に当たろうとするわけです。このとき、左右非対称システムが災いし、守備意識の不均衡が起こります。選手ごとに帰陣する意識が異なるということです。図で説明するとこうなります。↓



この結果↓


結論2 バルサ左サイドバック(マクスウェル)の眼前に広大なスペースができます

当然、シャビやイニエスタに比べたら、マクスウェルとアドリアーノの守備意識のほうが高いわけで、彼らはプレスがかわされた瞬間に、ひとまずは帰陣という意識で、自陣ゴール方向にダッシュします。

この結論1と2を組み合わせると、エルクレスはバルサ左サイドバックの前のスペースを起点にしてカウンターアタックが仕掛けることができた、という説明ができます。

まさに、後半のバルデスの得点の形そのものです。前回の記事からの引用です。

そんななか、後半12分くらい、イニエスタから中央前線で張るビジャに楔パスが入り、カットされ、こぼれをケイタ(かアビダル?)が拾い、縦へのドリブル から縦パス。これはバレバレでエルクレス守備陣にカットされそのボールがルーズボールになり、バルサ守備ラインに張っていたトレゼゲの上に落ちる。この5 分5分のルーズボールをピケと争いながらトレゼゲがモノにし、サイドに展開。そこからバルサは左サイドを崩され、中央に待っていたバルデスに折り返しが届 き、シュートを決められる。

という前回のゴールシーンの説明ににさらに説明を加えるなら、イニエスタからの楔パスがミスに終わったとき、エルクレスの右SHバルデス選手はやや前方にポジションを移すことができました。なぜなら、彼にマークすべき相手はおらず、かつ目の前には広大なスペースが空いていたからです。ケイタのパスがカットされた後、運良くそこにボールが出てきました。しかしマクスウェルの素早いアプローチでボールを失うとそれが運良く味方につながり、前線へルーズボール的な浮き球を供給することができました。攻守が何度か切り替わった間のバルデス選手のポジション取りが、トレゼゲへのルーズボールという流れを作ったのです。

このシーン以外にも、バルサは左サイドバックの前のスペースを突かれてピンチを幾度か招いています。後半24分フェメリーア選手のシュートシーンや、後半34分クロスを上げられるシーンなどです。特にこのクロスのシーンではカバーに回ったシャビとマクスウェルの間に綺麗にスルーパスを通されたのですが、守備意識の差が顕著に出たシーンと言えます。シャビは「守備とは自分より前で行うものだ」というふうにでも思っているかのような、背後のスペースへの気配りの無さでした。

バルサのサッカーではポゼッションからの前へ向かうプレスというのが基本になります。自分の後ろのスペースは後ろの選手がカバーすればいいという考えが当然のように浸透しています。一見すると、サッカー選手としてありえないほど無責任なプレーに見えたシャビのディフェンスですが、彼の頭の中にはきっと全く別のことが思い描かれていたに違いありません。シャビのざるのようなディフェンスを見て、そんなことを思いました。(ちなみにこれは彼を擁護するコメントです)

戦術の変遷とかはよくわからないですが、バルサは過去にも、モウリーニョチェルシーにSBの後ろを攻略されたことがあり、それを踏まえて今はこの1-3スタイル(スイーパー1に3人のボランチ的並び)でSBの後ろのスペースを消すことを考えているのかもしれません。ついにそれすらを破るチームが現れたということで、ますますこれから面白くなっていくんじゃないかなと思います。

1 件のコメント:

  1. バルサの左ウィングは細かく言うと、ウイングハーフですよね?
    右はアウベスでウイングバック的な。

    ビルドアップから前進してペネトレーションに
    入る前段階の繋ぎでバルサは中央で数滴優位を
    作り、サイドにフリーのポストマンを作ります。

    CWCのサントス戦が左がチァゴで右がセスクや
    シャビでした。

    左がボールサイドである時はイニエスタがギャップを埋めているし、右にボールがある時は、左ワイドが若干下がってる。

    アンリもこれに最初は適応できなかったのでは。
    サイドに張りついているから。

    4-4のラインディフェンスになる時も左ワイドは左サイドハーフになりラインディフェンスに入ってますよね。

    バルサは完全な左右非対称です。
    今は右にアウベスを上げるので右が起点ですが、
    ロナウジーニョ時代は左が起点でメッシがウイングハーフだった。
    だから、グラウディオラに変わってからメッシの
    スタートポジションをペナ角付近まで上げた。
    この時点でロナウジーニョは不要になるんですね。。

    本当に勉強になるし、ワクワクします

    三度のメシより大好きなくらい

    いつも楽しみにブログを見ています!!

    本やDVDなんか出されたら必ず買います!!




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