footballhack: ビエルサ×ビルバオのコレクティブフットボール1

2012年8月21日

ビエルサ×ビルバオのコレクティブフットボール1

いよいよ2012−13シーズンのリーガエスパニューラが開幕しました。今年は盤石のモウ・マドリーに新体制のバルセロナが挑むという構図でシーズンが進んでいくんでしょうか。他のチームは財政的に苦しいこともあってなかなかこの2強に太刀打ち出来ないかと思いますが、今回は伏兵であるアスレチック・ビルバオを取り上げようと思います。

ビエルサが就任した昨季、リーグ順位こそ奮いませんでしたが、2月から4月にかけてのパフォーマンスが素晴らしく、マンチェスター・ユナイテッドを破ってみごとEL決勝まで進みましたアスレチック・ビルバオ。ビエルサの知将としての指揮力とアスレチック伝統の
気骨あるチームスタイルが織りなす、機能美あふれる機械論的コレクティブフットボールの仕組みに迫ってみましょう。





  ビエルサ×ビルバオのサッカーを味わうためのメニュー

  1. システムの見方
    1. 4−3−3?
    2. 4-2-3-1亜型
    3. 4-1-3-1-1
  2. ポゼッション
    1. 攻撃時間を長く、守備時間を短くする
    2. ゲームの支配
    3. スリーバックポゼッション
  3. リスク管理
    1. タッチラインを使う
    2. ロングフィードを使う
  4. サイド攻撃
    1. デ・マルコスの外流れ
    2. WGの差金の動き
    3. クロスランニング
  5. 二次攻撃
    1. やり直し
    2. 外流れ待機
    3. オンオフポジショニング
    4. インナーラップ
    5. 8の字(渦巻き理論)
  6. 崩し
    1. ローポスト攻略
    2. 三者関係
    3. クロスに対してゴール前の人数を増やす
  7. 攻→守
    1. マンツーマン採用の必然性



   システムの見方

 ビエルサは就任当初、チリ代表で採用していた3-4-3をビルバオでも試しましたが、これは攻守のバランスに欠け、結果が伴いませんでした。その後4−3−3を採用することになります。


 通常、スターティングメンバー発表時には左のように記されることが多いですが、実際にはエレーラとデ・マルコスが縦関係になることが多いです。(下図)
 左図を見ると、イトゥラスペとエレーラがダブルボランチで縦関係を保っているように見えます。すると、日本人にも馴染み深い4-2-3-1の亜型のようにも見えます。
 より実際的に言うと、ムニアイン、エレーラ、スサエタはチームの中で同じような役割を担っているので、左図のようにグループ分けするとわかりやすくなります。

4バックの前にイトゥラスペがおり、3枚の攻撃的中盤を挟んで最前線にデ・マルコスとジョレンテが縦関係を保っている形です。このように見ると、ビルバオのサッカーがより鮮明に理解できるようになります。




こういう話をすると、4-4-2ダイアモンドに見えるとか、本当は4−1−4−1じゃないかとかいう人がいると思いますが、システムは大雑把でいいんです。 だいたいこんな感じの布陣だよっという認識を持っていただいて次に進みたいと思います。




  ポゼッション1 攻撃↑守備↓

ビエルサがポゼッションサッカーを志向しているのは有名な話です。なぜか。一つにはよく言われる守備機会の抑制が挙げられます。決して守備を軽視するわけではありません。

また、現代サッカーの攻撃の形に得点確率が高い順に序列をつけると、カウンター→セットプレー→流れの中から崩す、のようになります。カウンターやセットプレーが得意なチームはポゼッションの出来るチームよりも多いです。ボールを保持することはカウンターやセットプレーを構築するより難しいからです。つまり、リーグの中で特異性を持つという意味で、流れの中で崩しきる形を持つことは大きな強みになるのです。



  ポゼッション2 ゲーム支配

ボールを保持して流れの中から崩せるということは大きな武器です。しかし、武器を振り回しているだけでは勝負に勝てません。

ココで大事になるのが、ゲーム支配という考え方です。ゲーム支配とはゲームのテンポをコントロールし、体力とプレーゾーンをコントロールすることを意味します。とはいえ、ビルバオの選手たちはボール保持時にめちゃくちゃ走っています。彼らがゲーム体力をコントロールする意思を持っているかどうかは、判断しかねるところがあります。

ボールがプレーされるゾーンをコントロールすることも、非常に重要です。あとで詳しく見ていきますが、ビルバオの選手たちはボールロストポイントを巧妙にコントロールしています。これにより、無用な被カウンター機会を抑制しています。今月のサッカークリニックにビエルサのインタビューが載っていましたが、それによると、攻撃サッカーを志向するビエルサといえども、勝敗を決するのは守備戦術だと言っています。つまり、守備が盤石であれば負けることはなく、良い守備のために攻撃を計画するべきなのです。実際ビルバオの攻撃におけるリスクマネージメントは非常に素晴らしく、他に類を見ないといっていいでしょう。




  ポゼッション3 スリーバックポゼッション

ここから実際的な話に移ります。

ビルバオがビルドアップするときは、SBを高い位置に上げずに4バックのまま行うか、SBを高い位置に上げてアンカーを下げスリーバック風に移行してやるか、どちらかの方法を取ります。
  左図はイトゥラスペがCBの間に降りる形です。CBは横に開き、DFラインを深く保つことで、相手のプレッシングの的をズラします。
 相手のFWのプレッシングの仕方によって形を変えることで、常に落ち着いたビルドアップが出来るように準備しています。

イトゥラスペが左右に斜めに降りていくこともあります。
 スリーバックに加えて、GKもビルドアップに参加することで、ボールの落ち着きどころを確保しています。





















  リスク管理

何度も言うように試合に勝つには鉄壁の守備が不可欠です。良い守備のためにはよい攻撃の終わり方をしなければなりません。では良い攻撃の終わり方とは何でしょう。
  1. ボールロストする位置
  2. ボールロストした時の体勢
  3. ボールロストした時の布陣
  4. 高い攻守の切り替え意識

  1. ボールロストする位置をコントロールする

アスレチック・ビルバオの選手の能力を考えた時、チーム総体としての技量は、リーガの中で並かそれより少し上くらいです。ポゼッションサッカーを志向するチームにとって、中盤の構成力で優位に立つことは死活問題です。バルサのようにみんながエース級のテクニックを持っていれば、フィールドを広く使い中央から崩していくようなサッカーができますが、ビルバオのようにリーグ中位程度の技術しか持ち合わせていない場合、ピッチの中央を積極的に使う方法は諸刃の剣となります。

ピッチの中央を使うパスサッカーが難しいのは、攻撃方向が360度に開いている故に、背後からのプレッシャーを受けやすい点にあります。また、ここでボールを失うと相手に絶好のカウンター機会をプレゼントしてしまいます。中央でのパス回しは高難度かつハイリスクな方法なのです。

実は1試合に勝つという点に限って話をすれば、リターンもそれほど大きくありません。なぜなら、常にボールロスト=失点という危険に晒されている故にミスが許されないからです。

パスサッカーが大きな見返りを得るのは長期的な視野に立った時だけです。それほどパスサッカーは難しいため、緻密に緻密に積み上げなければ完成しません。少なくとも2年半はかかると個人的に思っています。その間、結果には目をつむり、内容だけでチームを評価する環境づくりが不可欠です。とにかく忍耐力が必要なのです。

この辺の話を理解するための補足として以前の記事を挙げておきます。攻守の切り替えの循環を理解することはサッカー理解の上で大変重要です。
ザックジャパンの試みと攻守の切り替え
試合分析法1 サッカー構造の理解

話はそれましたが、ビルバオというチームの特性、純血主義つまり選手獲得のリソースが限られている中で結果を残していくために、ビエルサはパスの経路を設計しなおしました。優先的にサイドから攻め、後に中央を使えるようにしたのです。

 
どういうことかというと、左図のように、タッチライン沿いにパスをつないでいけば、ボールロストしても危険ではないだろうという論理です。

敵にパスカットされてもマイボールのスローインになりやすく、 パスミスになっても相手ボールのスローインから守備を始めれば危険なことはありません。




また、ボール奪取されカウンターを受けても、中央で失うよりサイドで失うほうが安全です。当然、中央よりサイドのほうが自ゴールから遠いですから、直線的なカウンターを受ける確率は低くなります。直接的なカウンターとはスルーパスなどで一気にゴール前に運ばれることです。サイドで失えば相手はゴール前にボールを運ぶためにクロスを入れなければならないでしょうし、そうなればボールが移動している間に守備者が間に合うでしょう。

このようにビエルサは、ボールロストポイントを自ゴールから遠ざけるように設定することで、攻撃から守備への切り替えを有利に運べるようにしました。 後々見ていきますが、このビルバオのサイドを主戦場にしたビルドアップの形は、非常に緻密に構成されており、パスサッカーとリスクマネージメントを見事に両立した点で、極めて秀逸です。是非、多くのチームに見習って欲しいと思います。



  2. ボールロストした時の体勢に気をつける

 細かい話になりますが、ボールロスト時のボール周辺の選手の体勢も重要です。左図のように、味方選手と相手選手が入れ替わるようなベクトルの時にパスをカットされると非常にまずいです。

ビルバオはスペースを作り使うを繰り返して常に相手に後手を踏ませるようにパスを回すので、相手のカウンターの初速を低減させることができています。


切り替え意識と布陣については後で扱います。



  ロングフィードを有効に使う

このチームは伝統的にロングフィードを主体にした攻撃に定評があります。昨季はジョレンテという類を見ないターゲットマンに加えてハビマル、アモレビエタという精度の高いキッカーがいた事で、このロングフィード戦法がかなり脅威になっていました。特にアモレビエタの左足は素晴らしかったです。

ジョレンテはただ背の高いターゲットマンではなく、その大きな体をうまく駆使した駆け引きが素晴らしく、イブラ、ドログバの次に挙げていいCFWです。

ハビ・マルティネスとジョレンテがいなくなったらはっきり言って脅威は半減です。無秩序なチームに移籍しても成長できるか未知数ですから、ビルバオに残ってビエルサ教の指針に沿って成長していくほうが、確実だとは思うんですけどね。まぁ移籍するんでしょうけど。

ロングフィードを使うことは、相手のコンパクトな守備陣を間延びさせる効果があるのは周知の事実ですね。リスクマネージメントの視点から考えても有効な攻撃手段です。



次回が本番→ビエルサ×ビルバオのコレクティブフットボール2

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